5日目 オシャレな生活と男のロマン
「先輩」
「なーに?」
僕の呼びかけに、先輩は間延びた返事をした。
「今日はカップラーメン食べないんですか?」
「うん。飽きたから」
先輩は端的に答えた。
……えっ?
先輩は、今なんて言ったんだ? 飽きた?
先輩=カップラーメンである以上、カップラーメンに飽きた先輩は先輩では無い……。
僕は激しく混乱した。
OK、落ち着け僕。現実は過酷だ。どんなに信じられない事でも、事実は認めなければならない。
僕は改めて先輩を見た。何度見ても、カップラーメンはそこには無かった。
体が、震えた。
ラーメンが無い先輩。ラーメンでは無い先輩。
何と言うか、先輩が180度違う人になってしまったような感覚だ。
コペルニクス的転回……っていうのは、こういう時に使って良かったかな?
僕は一人で問答していた。
今は手作りにはまっててね~、なんて訳の分からない事を言いながら。
先輩は、僕の持っている本をチラリと見た。
「それ、何の本なの?」
「これですか?」
僕は持っている本を掲げると、先輩に見えるようにページを開いた。
「車の本ですよ。いや、車の本なのかなぁ?」
「……なんで疑問系なのよ?」
純粋に車だけが載ってる訳じゃ無いんですよ、と僕は言った。
「オシャレな暮らしを演出するための車とかなんとか」
「うわキモッ」
先輩は「おぇぇ」と吐き気をこらえるジェスチャーを見せた。
……キモいは酷いじゃないか。
いや自分でもちょっと、「誰に向けてんだこの本?」とは思ったけど!
「でも、この車と街角の写真の雰囲気は良いじゃないですか」
キモいと言われた僕は、何だか必死になって
先輩にこの本の良さを認めさせようと足掻いた。
先輩は「う~ん? 見せてみ?」と言って本を覗き込んだ。
しかしどうも車自体に興味が無いようだ。
「……男のロマンね!」
瞳をキラリと輝かせて先輩は言った。
これはあれだ、と僕は直感した。
先輩はただ「男のロマン」って使ってみたかっただけだろう。
もうロマンで良いです……。
と、そんなこんなで先輩との時間は過ぎていった。




