48日目 選ばれし者だから
「罪って、許されるんでしょうか?」
「さあな。試した事はあらへん」
パクパクとたこ焼きを食べながら答える大阪さん。
そんな大阪さんと並んで座り、僕もたこ焼きを食べている。
周りには、倒れ伏すお面女達。
何の因果か僕らを襲ってくる謎の集団だ。
今日も何故か襲われたが、逆に返り討ちにした。
彼女達は、何を思い何を目指していたのだろうか?
力尽き倒れた彼女達は何も語らない。
戦いは、あらゆる事を無意味にする。
だがそれで良かったのかもしれない。
前髪を風に吹かれながら、僕はしみじみと思う。
変態の考える事なんて、知りたくないなぁ……。
どうしてこの娘達は変態になってしまったのか。
世の中、愛が足りて無いんじゃないのか?
そんな考えに、寂寞とした悲しみが僕の胸をよぎった。
まあ今さらどうでもいいや。終わった事だし。
早々と気持ちを切り替える僕。
一方大阪さんは、お面女達を睥睨しながらポツリと漏らした。
「ふっ……敗北を知りたいわ」
「ついこの前、縛り上げられてたじゃないですか」
「あれはノーカンや!」
何がノーカンなのかは知らないが、大阪さんは迷い無く言い切った。
少しツッコミたくなったが、今はより重要な問題がある。
そう、僕らは結果的に女の子に手を上げてしまったのだ。
『男子たる者、女の子には手を上げてはならない』
どこで聞いたかも忘れてしまった言葉だ。
しかし、きっと守らなければいけない事だった。
それを、破ってしまった。
それが僕と大阪さんの罪だ。
罪は、許されるのだろうか?
風に流れる雲を眺めて思う。
たとえ目には見えなくても、いつまでも残る物
触れる事は出来なくても、確かに残る何か。
かつてロシアの文豪は、罪は無いと言った。
では僕らを苦しめるこの思いは何なのか。
重苦しく、責めるように響くこの痛みは何だろう?
やっぱり変態とは言え、女の子に攻撃するのは不味いよね。
基本はハリセンで戦ったけど、ついつい体のキレが良くて回し蹴りも出てしまった。
今では反省している。
「あ、結構タコ大きいですね」
「ん~まあまあやな。俺は全体的にもうちょっと小さい方が良かったわ」
「ああ、1個が結構大きいですからね、コレ」
反省もそこそこに、戦勝記念に買ったたこ焼き吟味する。
香ばしいソースと青ノリ。
ほくほくと熱いそれをパクパクと食べる。
「あ」
「ん? どうしたんや坊主」
たとえ目には見えなくても、いつまでも歯の間に残る物。
触れる事は出来なくても、確かに残る何か。
たこ焼きを食べた後に僕を苦しめるコレは何なのか。
「タコやろ、それは」
大阪さんが呆れ気味に言う。
しかし、次の瞬間には表情を真剣な物にした。
「坊主、強うなったな」
「何ですか、急に」
強うなったも何も、僕と大阪さんってそんな深い間じゃ無いじゃないですか。
以前の僕の事なんて、ほとんど知らないですよね?
思わずそう言いかけた僕だったが、大阪さんの浮かべる真剣な表情に気圧された。
何も言えず、黙って大阪さんの言葉を待つ。
大阪さんはふっと視線を遠くに向けた。
照れくさそうに頭をポリポリ掻くと、改まった風に腕を組んだ。
そして誰かに自慢するかのように、高らかに宣言した。
「さすが、俺の右腕や」
「え? マジで止めて下さいよそういうの」
僕は完全に本気で引いていた。
シャレ抜きでどん引きだった。
「はっは。照れんなや」
「照れ隠しじゃないんですけど!?」
まるで僕の言葉を聞かない大阪さん。
勝手に自分の中で僕の意思を決めているらしい。
久々の大阪ワールドである。
大阪さんに会話の主導権を持たれると、世界が混沌としていくのだ。
「坊主の事は、既に他の4人の王にも伝えてあるで」
「4人の王!? 誰それ!?」
「ゆくゆくは、坊主に『王』の称号を与えたっても良いって話も出とる」
「要らない! そんな称号要らない!」
次々と謎の展開を語る大阪さん。
この人、僕の知らない所で一体何をやっているんだ!?
そして何で僕は巻き込まれているんだ!?
混乱の最中、大阪さんはさらに話を続ける。
「王たる者は莫大な権利と引き換えに、大きな責任も負うんや。俺は、坊主なら『王』をやれると思っとる」
何だよ大きな責任って!?
意味が分らないし分かりたくも無い!!
「大阪さん、僕は王にはなりません!」
「なんやて?」
強い口調で僕は言った。
挑みかかる様な視線を大阪さんに向ける。
大阪さんもまた、僕を睨んでいた。
譲れないものを賭けて、僕らの無言の対峙が続く。
どれほど時が経っただろうか?
やがて大阪さんは、ふっと視線を和らげた。
「そうか……」
その一言を言った後、再び押し黙る。
よっしゃー、ギリギリ最後の一線で防いだぞー!!
内心で喝采を上げる僕。
そんな僕に、大阪さんは満面の笑みを浮かべながら言った。
「よくぞ言うた、坊主! 合格や!」
「は?」
「ほいほいと王になりたがるもんを、王には選べん。王の重責、覚悟。それを本当に背負えるもんだけが王になれるんや!」
「え?」
「坊主がもしもその覚悟を見せへんかったら、俺はこの話を無かった事にするつもりやった。でも、坊主は見事に期待に応えてくれた!」
「ちょ、ちょっとちょっと!?」
「これで俺は、心おきなく坊主を王に推薦出来るわ! ほな、楽しみに待ってな~!」
「おーい!? 大阪さーん!?」
スタコラと走り去って行く大阪さん。
その背中に手を伸ばしかけながら。
僕はいつまでも、大阪さんの後ろ姿を呆然と眺めていた。