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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
王子登場編(そして放置)
47/213

47日目 茜(あかね)



広漠とした(あかね)色の空を眺めながら、僕は先輩と冷蔵子さんを待っていた。

風に揺れる穂。鳥の遠鳴きの声が、澄んだ大気に響く。


「ぉぉーぃ!」


彼方(かなた)から聞こえる呼びかけに、僕は視線を向けた。

火影(ほかげ)のように揺れる草原。

その向こうから駆けて来る先輩の姿があった。

一方冷蔵子さんは、面倒臭そうにゆっくりと歩いている。


「やっほー! 待たせた?」


「いえ、大して待ってませんよ」


そう言って僕は先輩に微笑みかけた。

僕に微笑み返す先輩。

風が、彼女の髪を揺らした。


そして遅れてやってくる冷蔵子さん。

冷たく見える碧い双眸(そうぼう)を僕に向けて言った。


「待たせたかしら?」


「うん」


はっきりと答えた僕に対し、冷蔵子さんは無言でエルボーを入れて来た。



「ぐっは!? 何で!?」


「普通こういう時は、待って無いって言うものでしょう?」


顔を横に向け、どこか遠くを見ながら言う冷蔵子さん。

おいこら、一体どこを見ているんだ?

それが人にエルボーを入れた人間の態度かよ!

などと(いきどお)る僕だったが、彼女の打撃技は大して痛くも無いので怒りは続かなかった。


「日が暮れるまでには済ましちゃいましょう」


「そーだね」


「もう日が落ちそうよ? さっさと終わらせなさいよ」


うなずきあった僕らは、足元に目を移した。

長い影が伸びる大地には、スコップが突き刺さっている。

僕はその()を無造作に掴んだ。







「この辺ですか?」


「うん、間違い無いと思う」


広げられた手書きの地図を見ながら先輩が言う。

稚拙な絵で描かれたそれは、どう見ても小学生の落書きだった。

いわゆる『子供の頃に埋めた宝の地図』である。


部屋を整理していたら出てきた、と嬉しそうにはしゃぐ先輩。

ああそれは面白そうですね、と僕が言い、宝を掘り返す事になった。

意外な事に冷蔵子さんも付いて来ることになり、3人揃ってある原っぱに来ているのだ。


ザクッ、ザクッ。

地面を掘り進めながら、僕は先輩に聞いた。


「一体何を埋めたんですか?」


「う~ん……子供の頃だったからなぁ。覚えてないや」


口元に手を当てながら先輩は言った。

そうかぁ。まあだからこそ掘り返すのが楽しいんだろうけど。

そんな事を考えていると、スコップに硬い感触が返ってくる。

今度は慎重に土をどけていく。薄っすらと光る金属製の箱が見えた。


「おっ、何か出てきましたよ」


「でかした少年! さあ開けてみよー!」


ハイテンションの先輩が僕を()かした。

元気な人だな、と苦笑しながら僕は土を掘り返す。

最後はテコの原理を使って箱を土から出した。


「ちょっと待ってて下さいね」


僕は金属箱を持ち上げると、上に乗った土を払ってから平らな地面に置いた。

一瞬だけ箱を開けたい衝動に駆られたが、やはりここは先輩が開けるべきだろう。

そう考えた僕は、そっと箱を先輩に差し出した。


「さあどうぞ」


「ほんじゃいくよー? パカッとな」


しゃがみ込んだ先輩が箱を開く。

僕もそんな先輩の横で座り込んだ。

箱の中は雑多に物が入れられている。

そんな箱の中身を、僕と先輩は肩を寄せ合いながら(のぞ)いた。


キラキラと光るアクセサリーが目を引く。何だコレ?

恐る恐るつまみ上げて、先輩の目の前にかざした。


「ビーズ細工ですか? これ」


「昔、好きだったんだよねー。おっ? これは」


そう言って先輩は小さな何かを(つま)み上げた。

しばし見つめた後、それを僕の手のひらに乗せる。

何で僕の手に置くんだよ……と内心で思いつつ、僕もそれを見た。


茶色くて透明で、複雑な形をした物だ。

よく見ると、結構見慣れた物だった。


「セミの抜け殻……なんだってこんな物を?」


「う~ん……何でだろう? 若さゆえ?」


先輩自身、どこか困ったように言った。

小学生の頃の先輩は、何を思ってセミの抜け殻を未来に残そうとしたのか?

何を託したのだろうか……セミの抜け殻に。


……あんまり深く考えたくないな。

僕は誤魔化すようにさらに箱の中を探った。

その中で、古びた1冊のノートが目に止まる。


「あれ? 日記みたいなのが出て来ましたよ」


「おおー! これ確か絵日記だよ! 懐かしいなぁ~」


「……へぇ~。絵日記ですか~……」


以前見た先輩の絵を思い出しながら、僕は微妙な気持ちになった。

写実的な絵ならプロ級。デフォルメした絵なら怪物級の先輩。

妖怪のごとく描かれた動物が思い出される。


子供の頃ならきっとデフォルメした絵で描いているだろう。

恐らく、日記にはカオスな世界が描かれているはずだ。


バサバサ……。

不吉な音を立てながら飛び立つ鳥。

夕陽に照らされ朱の色に染まる日記帳。

ごくり。僕は人知れず緊張に身を震わせた。


こいつはヤバイぜ……!

子供の頃の先輩が描いたであろう怪奇ワールド。

それを想像した僕の足はガクガクと震えている。


こんな時はそう、冷蔵子さんだ!

あの眼力なら妖怪くらい封じてくれるだろう。


……そう言えば冷蔵子さん、さっきから黙ってるな?

僕はふと、離れた位置に立つ冷蔵子さんを見上げた。




冷蔵子さんが凄い眼力で僕を睨み付けていた。




……何故だ!?

僕は先輩の横に座り込んだまま彼女を見つめる。


「な、何? 何でこっち見てんの?」


「……別に」


だが言葉とは裏腹に、冷蔵子さんは僕に鋭い視線を向けたままだ。

いつもは青い彼女の瞳。

それが黄昏(たそがれ)の中、夕日を映して燃え上がるような色を放っている。


「ねぇーねぇー、これこれ。ちょっと見てよー」


先輩が僕の腕を掴んで引っ張った。

よほど自分の絵日記を見てもらいたいらしい。

何となく冷蔵子さんの視線にビビリながらも、先輩に示されたページに目を向ける。

おっ? これは――。


「あら、私にも見せてもらえるかしら?」


そんな言葉と共に、何故か僕の背中に()し掛かってくる冷蔵子さん。

何でわざわざ僕の後ろから見ようとするんだ?

ちょっと文句を言おう。

そう僕が考えた時、冷蔵子さんは左腕を僕の首に回して来た。


……これはスリーパーホールド!

背後から密着しながら、プロレスの絞め技を展開してくる冷蔵子さん。

一体何を考えてるんだ!?


「ちょ、ギブギブ!」


右手で冷蔵子さんの腕を必死にタップする。

そんな僕らを見て、先輩が嬉しそうに言った。


「おっ? 楽しそうだね! 私もやるー!」


「えっ!? ちょっと!?」


美しい夕日に照らされながら。

風薫(かぜかお)る草原の(もと)、僕の悲鳴が響くのだった。





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