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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
王子登場編(そして放置)
44/213

44日目 山とトシちゃんと僕の決意 ザ・ホーリー・デイ



山に毒キノコ狩りに来た僕とジイちゃん。

しかしジイちゃんのアバウトな道案内で完全に迷うはめに。

何とか下山に成功した僕達だったが、時は既に夕暮れ。


疲れたと駄々をこねるジイちゃん。

そこからさらに驚きの発言をしてきた。


「のう。泊まって行こう」


「はぁ?」


「トシちゃんの家が近くにあるんじゃ」


「誰!? トシちゃんって!?」


「ワシの友達じゃ。ほら、今日登った山の持ち主。」


飄々と語るジイちゃん。

そりゃジイちゃんは良いよ、知り合いだから。

でも僕にとっては見ず知らずの人なんだよ!?


いきなり泊まりに行くって、すっごい気が引ける!!

絶対気を使うし! 向こうも微妙な感じになるはず!

困り果てる僕を全く気に止めないジイちゃんは、すたすたとトシちゃん宅を目指していた。




「ひゃっほー! 来たよトシちゃん」


「お前は変わらんな……」


豪快に挨拶するジイちゃん。

それを出迎えたトシちゃんは、やたら眼光鋭いジジイだった。

門構えの和風な家屋。結構デカイ。

ジャリまで気を使ってますといった風情の庭が広がっている。


「こいつ、ワシの孫」


「ほう。若い頃のお前によく似ているな」


「じゃろー? 遺伝って怖いわ」


そう言ってガッハッハと笑う2人。

そんな2人の姿を見ながら、僕は居心地の悪さを感じていた。

2人の会話は続く。


「それでのう、トシちゃん」


「なんだ?」


「今晩泊めて」


「はっ?」


絶句するトシちゃん。

おいおい、ジイちゃん。やっぱ無理があったんじゃないか?

言葉を失うトシちゃんの姿を見ながら、事の成り行きを見守る。

トシちゃんはふっと笑うと、鷹揚な笑顔を作った。


「お前、本当に相変わらずだな……。こんなジイさんで、君も困るだろう?」


トシちゃんから話を振られた僕は即座に答えた。


「すっごい困ってます」


「ええっ!? マジで!? ジイちゃんショックなんじゃけど!」 


「いい加減、自重を覚えろ……」


苦笑する顔を手で隠しながら、トシちゃんが言った。




ぐつぐつぐつぐつ。

現在、初めて来た人の家で夕食をご馳走になっている。

すっごい居辛い。だってこの場に居る人を誰一人知らないもの!

そんな僕を尻目に、余裕でくつろいでいるジイちゃん。自由過ぎるだろこの人。


「はっは。遠慮しないで食ってくれ」


トシちゃんが厳つい顔を緩めて大仰に言う。

その隣にはバアさん。多分トシちゃんの奥さんだろう。

そして中学生くらいの姉妹が2人。

トシちゃんの孫なんだろうか。多分そうだろう。


トシちゃんの言葉を真に受けてるだろうジイちゃんは、カセットコンロの上の鍋をつついた。

遠慮無く鍋の中身を自分の受け皿に盛っていく。

せめて受け皿に分けてもらうのを待ってくれジイちゃん。


「ムシャムシャ。おっ、この山菜美味いな」


「え? どれどれ。あ、本当だ美味しい」


ジイちゃんの言葉に、思わず僕も鍋をつつく。

ほろ苦い味がご飯に良く合う。


「でも、僕は肉の方がいいなぁ」


「ほっほ。若いのう。ジイちゃんはもう肉よりも野菜じゃな」


「この前、美味い美味いって言いながらボタン鍋食べてたでしょ?」


「おい、この鍋に毒キノコ入って無いじゃろうか? 探そうぜ!」


「話を()らさないでよ! そして毒キノコは絶対に入って無い!」


「ど、毒キノコ!? 妹ぉ! 毒キノコ入ってるのコレ!?」


「お姉ちゃん! 何でそんなに簡単に人の話を信じるの!! もう!」


喧々囂々(けんけんごうごう)たるカオスと化した食卓。

飛び交う嘘と現実(まこと)

幻の毒キノコに怯える姉と、それを叱る妹。

そして肉を奪うジイちゃん。全てが混沌だった。


「ジイちゃん!? 肉より野菜じゃなかったの!?」


「ほっほ。ワシ、人の欲しがる物が大好きなんじゃ」


性質(たち)が悪いよそれ!!」


「お前はほれ、その毒キノコっぽい奴でも食ってみろ」


「妹ぉ! 言われて見れば毒持ってそうだぞコレぇ!」


「だから騙されないでよお姉ちゃん! バカなの!?」


そんなこんなで夜は更けて行った。




夜も深まり。

お風呂どころか寝巻きまで借りた僕らは、あてがわれた和室で布団に入っていた。

静まり返った闇の中。

リリリ……と虫の音が聞こえる。


「のう、起きてるか?」


「起きてるよ」


ジイちゃんに話しかえられ、僕は返事を返した。

正直寝られない。枕とか布団が変わると寝られないんだよね……。

物思いに(ふけ)る僕に、ジイちゃんは話を続けた。


「今日は楽しかったじゃろ?」


「……山で迷子になるのは愉快な経験じゃないね」


「ほっほ。素直じゃ無いのう」


「正直に言うと、2度とジイちゃんと一緒には山に行きたくない」


「ええっ!? マジで!? ジイちゃんショックなんじゃけど!!」


ガバッと起き上がりながら絶叫するジイちゃん。

何が「マジで!?」だよ。

純度100%混じりっ気無しのマジだよ。


「嘘じゃろ!? 冗談じゃろ!? アケビも食ったし!」


「だから、あの甘いだけの実じゃ到底楽しいと思えない!」


僕も起き上がって叫ぶ。

しばし睨み合う僕ら。

闇の中、裂帛の気合がぶつかり合う。


しかし、やがてジイちゃんは溜息を1つ吐くとへなへなと肩を落とした。

心底落胆した様子で言う。


「そうか……ワシはもっともっと、山の魅力を教えてやりたかったんじゃがのう」


「道に迷わなくなったら誘ってよ」


僕はジト目になりながら返事を返す。

やれやれ、困ったジイちゃんだ。

そう思いながら再び横になろうとする僕。

そんな時、ふいにジイちゃんが呟いた。


「死の天使と呼ばれるキノコを、お前にも見せてやりたかったのう」


死の天使? なにそれ凄そう。

何よりネーミングが凄い。

未だかつて僕は、キノコを天使に例えた例を知らない。


僕は横になりかけた体を起こした。

そしてギラリと瞳を輝かせてジイちゃんに言った。


「その話、詳しく聞かせてよ」


「ほほほ。やっぱりワシの孫じゃのう」


ジイちゃんから僕へと連綿と受け継がれる血統。

その血の定めに従いながら。

僕はまだ見ぬ毒キノコに思いを()せた。





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