表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
王子登場編(そして放置)
40/213

40日目 修練と試練の狭間



「せい!」


「やあ!」


先輩と拳を合わせる僕。

本気で打ち合っているわけでは無く、寸止めだ。

いわゆる型稽古という物を行っていた。


「……あなた達、一体なにをやっているのかしら?」


うっとうしそうに冷蔵子さんが聞いてくる。

僕は顔だけ向けて言った。


「見て分らない?」


僕の言葉に、冷蔵子さんは目をギラリと光らせた。

ふふん、と言わんばかりの得意気な瞳。

完全に答えを分った顔だこれ。


「アメリカンな握手の練習……かしら?」


「いや全然違うけど」


「型稽古ってやつだよー」


自信満々に答える冷蔵子さんを、僕と先輩は一蹴した。

ムッとした表情の冷蔵子さんに事のあらましを説明する。


「ほら、最近何かと物騒だしさ。クンフーでも積んでおこうかと」


シュッ、シュッとシャドーボクシングしてみせる。

そんな僕を呆れた顔で見ながら、冷蔵子さんが言った。


「そんな事して、あなた一体何を目指しているのかしら?」


「うぐっ!?」


痛いところを突かれた。

大阪弁使いやお面女子高生に囲まれたりする日々。

そんな戦いの日々の中で、僕は武を鍛えようとしたのだが……。


一体僕は、彼らと戦ってどうする気なのか?

確実に言えるのは、そんな連中とは関わり合いにならない方が良いと言う事だった。

ぼ、僕は一体何をやっているんだ……?


「まあまあ。日頃の運動は大切だよ」


「ですよね、先輩」


先輩の言葉にあっさり立ち直る僕。

再び型稽古を始めた。




「せい!」


「やあ!」


先輩と真向かいで、寸止めの打ち込みを続ける。

こうやって体の動かし方を徐々に覚えるのだ。

相手の攻撃の避け方など、覚えておいて損は無いだろう。


僕と先輩はだんだんリズムに乗ってきた。

テンポ良く寸止めを続けていく。

次第に打ち込みが速くなっていき――回し蹴りが来た。


「!?」


咄嗟にしゃがむ僕の頭上を、切り裂くような音を上げて先輩の足が通り過ぎる。

先輩はそのままコマのように回り、今度は逆足で回し蹴りを放ってきた。

両手でクロスガードした僕。

しかしその防御した姿勢ごと吹っ飛ばされた。


「おっしゃーーー!!」


「おっしゃーじゃないですよ先輩!」


吹っ飛ばされた姿勢のまま叫ぶ僕。

そんな僕の姿にはっと気付くと、先輩はごみんごみんと謝ってきた。


「なんか体のキレが良くってね」


手を合わせて「てへへ」と謝る先輩。

まあ良いですよ、と手を振ろうとした僕は、両手の異変に気が付いた。


くぉぉ……!?

さっきの一撃で、両手が完全に(しび)れてる……!?

呆然とする僕に、先輩が声を掛けてきた。


「どーしたの?」


「いえ、腕が超痺れてて」


「あーそれ、きっと血行が悪いんだよ」


「いや、血行の問題では……」


「マッサージしてあげようか?」


指をパキポキならしながら先輩が近付いてくる。

先輩の握力100kg以上。

マッサージは死を意味する。


ぐうう……!?

鍛錬をするつもりが、まさかのデッドエンド!?

僕は一体何を目指していたのか……? 


「ついでに整体もしようかな~?」


楽しげな調子で先輩が言う。

恐ろしい事に、先輩は僕の骨の繋ぎをどうにかする気らしい。

本格的にヤバイ事になってきた。


「せ、先輩。ちなみに、マッサージした経験ってどれくらいあるんですか?」


僕は震える声で尋ねた。

そんな僕に、先輩は笑顔で答えてきた。


「うん? 実はゼロ回なんだ」


「ジェロ(ゼロ)?」


「妙に流暢(りゅうちょう)に言うね、少年」


てへへと笑う先輩。

ゼロってなんだゼロって。

それは今まで全くマッサージをした事が無いって事か?

つまりなんだ、先輩の初めての相手が僕って事か。


「僕が……先輩の初めてなんですか?」


僕は泣き笑いの表情になっていた。


何だろう。手術を受ける前に執刀医に

「今までどれくらい手術した事があるんですか?」

と聞いたら「ジェロ」って言われたような気分だ。


「そう……君が、初めての相手なんだ」


先輩は何だか頬を染めていた。

その顔はまるで、初めて手術台に立つマッドサイエンティストのようだった。


「なんだか面白そうね」


冷蔵子さんが、その冷たい目を面白そうに歪めて笑っている。

それは……まるで僕の指を折ろうとしていた時のような顔だった。


「私もやってみようかしら? 初めてだけど」


「どうして皆ぶっつけ本番なのさ!? 練習しようよ何事も!」


「その練習を、君の体でやるんだよ」


「そうね。あなたの体で練習するのよ」


迫り来る2匹の獣を前に。

「ジュネーブ条約が適用されるのって、捕虜だけだったっけ?」

と現実逃避する僕だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ