39日目 逆転調査
公園でお面を被った謎の女子高生の集団に襲われた大阪さん。
しかし、大阪さんは襲われるような事をした覚えは無いという。
そこで、一体どこで恨みを買ったのか調べる事になった。
「前のあれは関係無いんですか? 正大連とか言うの」
夕暮れの公園。
僕と大阪さんは、ベンチに座って話している。
正大連というのは以前大阪さんを襲った謎の集団の事だ。
最初に撃退したのは下っ端連中らしく、今度は精鋭がやってくると言っていたが……。
「ああ、あいつらか。それはありえへん」
「え? 何でですか?」
「俺が潰したからや」
グシャっと飲み干した缶ジュースを潰しながら、大阪さんが言った。
「正しき大阪弁のための連合……などと言いつつ、あいつらは大阪弁を欲しいままにしとっただけや」
「そ、そうなんですか」
大阪弁を欲しいままにするってどういう事なんだろう。
今の僕には理解できない世界だった。
「俺を始め、大阪を愛する5人の戦士によって組織は打ち砕かれたんや」
そう呟いて遠くを見る大阪さん。
この人は……遠くに行っちゃったんだなぁ。
何が、とは言えなかった。
言えばきっと、大阪さんは傷付くだろう。
僕は大阪さんの横顔を見た。
この人は……僕が関わって良いような人じゃない。
というか関わらないべきだ。うんそうしよう。
そう結論付けた僕は、乾いた笑顔を浮かべながら言った。
「という訳で、僕はそろそろ帰ろうと思います」
「何が『という訳』なんや! おいこら坊主、何で視線を逸らすんや!」
必死に僕の肩を掴む大阪さん。
そんな大阪さんと視線を合わせないようにしながら言った。
「いや……大阪さんは5人の戦士みたいだし、恐れ多くて僕は目を合わせる事も出来ないんです」
「絶対尊敬してへんやろ! 何や!? 何が言いたいんや坊主!? 何かヘコむやろ!!」
何故か半泣きになる大阪さんだった。
「それで、聞きたい事って何かしら?」
翌日。授業の合間の休憩時間に、僕は冷蔵子さんの隣に立っていた。
彼女であれば何か知っているかもしれないと思ったからだ。
優雅にイスに座っている彼女。
その上目遣いな視線を見返しながら、僕は言った。
「お面を被って竹刀を持った女の子の事、何か知らない?」
「……それは普通に剣道をやってるとしか思えないんだけれど」
戸惑いがちに答える冷蔵子さん。
どうも僕の質問の仕方がダメだったみたいだ。
今度は具体的に言い直した。
「ヒーローのお面だよ。それを被って、『我は飛天』って名乗るんだ」
「……何の冗談かしら?」
「いや、冗談じゃなくて」
どうやら冷蔵子さんは何も知らないようだ。
どっと疲れた僕は、肩を落としながら言った。
「襲われたんだよ、公園で。お面を被った女の子に」
あの公園って、本当にろくな目にあわないな……。
そんな思いに僕は伏目がちになって溜息を吐いた。
「えい」
「痛っ……えっ? なんで今ツネッたの?」
突然、冷蔵子さんに手をツネられた。
本当に意味が分らず、僕は当惑しながら彼女の姿を追う。
そんな僕に、やや顔を赤くした冷蔵子さんが見えた。
綺麗な形の眉を、怒ったように吊り上げて言った。
「女の子に襲われるなんて……厭らしい」
「そういう意味じゃないよ!?」
結局無駄にツネられただけに終り、僕は天を仰いだ。
「……と、言うわけなんですよ」
「ふーん」
いつもの部屋。
僕は先輩に相談していた。
先輩は腕組みして考えいてる。
「私も知らないなぁ。見たら一発で覚えそうだもんね」
「そうですね」
少なくとも3日は忘れられそうに無い。
どうして忘れた方がいい事ほど、記憶に残ってしまうのか?
大いなる謎を抱えつつ、僕はこれからどうしたものかと思案していた。
「そんな連中、相手にしなければ良いのじゃないかしら?」
ビシッと僕を指差しながら言う冷蔵子さん。
何故か今日は妙に機嫌が悪いみたいだ。
そして瞳をギラリと輝かせて言った。
「それとも、あえて相手にしたいのかしら? 厭らしい」
冷蔵子さんに指摘され、お面女のリーダー格、飛天さまの顔が思い浮かんだ。
……いやよく考えると顔は思い浮かばない。
なんであの人たちはヒーローのお面を被っていたんだろう?
ライフスタイルの違いか……。
「そういう訳じゃ全く無いんだけどさ」
凄い目力の冷蔵子さんに、僕は頭を横に振って答えた。
少なくとも相手にはしたくない。
正直に言えば2度と関わり合いになりたくない。
だが、因縁を持たれてしまった可能性があるのだ。
僕を襲って来たお面女からは「勝負は預けた」と言われた。
預けたという事は、再び来る可能性がある。
嫌な予感ほど良く当たる。
僕は、再び彼女達が挑んでくるだろうとどこかで予感していた。
「う~ん……とりあえず、特徴を聞いてみようか?」
先輩に言われ、僕は特徴と言える特長を上げて行った。
その中で先輩が注目したのは、お面女の放った技だった。
「偽典ツバメ返し?」
「はい、そう言っていましたけど」
「偽典ツバメ返し……」
鋭く目を細めながら、何事かを考え始める先輩。
そう言えば、先輩も謎の流派の使い手だったな……と僕は思い出した。
以前スポーツチャンバラ対決をした時、先輩は僕に剣の極意を説いてみせた。
実際、先輩の剣を前にして僕は何もできなかった。
僕に出来たのは、敗北と絶望を味わう事くらいである。
「かつて、私は必殺技を作ろうとした事があるのよ」
厳かな口調で、先輩が語りだした。
「ついこの前もドラゴンふぁんぐとか、変な技を使ってましたよね?」
「うぬぬ!? そこに気付くとは……まあ、それは置いといて」
こほん、と1つ息を整えてから、先輩は話を続けた。
「その技の中の1つに、佐々木小次郎のツバメ返しを参考にした技があったわ」
「へえ。どんな技なんですか?」
「あえて敵に初太刀を受けさせ、神速の二撃目で仕留める技、よ」
「そ、それは……!」
完全に飛天さまの使った技と同じ技だ。
まさか、先輩がその技の創設者!?
愕然とする僕。そんな僕に、先輩は顔を曇らせながら話を続けた。
「でも、その技には1つ大きな欠点があったの……」
「ど、どんな欠点なんですか?」
「それは……」
「それは?」
「私が初太刀を浴びせると、その時点で勝負が終わっちゃうのよね」
…………。
「だからお蔵入りになった技なんだけど……なんか関係あるのかなぁ?」
結局何も分らないまま、無為に時間は過ぎて行くのだった。