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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
王子登場編(そして放置)
35/213

35日目 悟りを開け! 雑巾同盟


「ねえ、チリトリを持ってくれるかしら?」


「はいはい、いいよー」


冷蔵子さんに命令され、僕はチリトリを構えた。

僕の構えたチリトリに、集めた埃を掃く冷蔵子さん。


この学園では校内清掃を生徒の手によって行う事になっている。

日々使う学び()は、自らの手で清めるべきだというありがたいお達しだ。

そんな訳で、僕らはクラス内の生徒を6班に分けて掃除を分担しているのだ。


メインは教室だが、それ以外の場所を掃除する事もある。

例えば僕らが掃除している2階西階段。

2階西階段は教室よりも手間が掛からないというのが理由で、僕と冷蔵子さんだけで掃除していた。

残りのメンバーは教室を担当している。


「あらかた終わったわね」


ゴミを掃き終わった冷蔵子さんが、辺りを見回して言った。

人通りが少ないこの2階西廊下では、さほどゴミが目立つ事も無い。


「そだね。教室に戻ろうか?」


教室に戻ろうか、などと提案しつつ僕はあんまり帰る気は無かった。

何故なら、このタイミングで戻ると教室の掃除の手伝いもさせられるからだ。

そんな僕の意思を汲み取ったのだろうか、冷蔵子さんも何やら思案している。

そしてざっと辺りを見回しながら言った。


「雑巾がけもした方がいいかしら?」


真面目だなぁ。どうやら冷蔵子さんは、掃き掃除だけで終わる気はないらしい。

しかしそうなると問題がある。僕らはホウキとチリトリしか持って来てないのだ。

しょうが無い、僕が取ってくるか。


冷蔵子さんに言い残すと、僕は掃除用具入れを目指した。

てってって、と小走りに走る。廊下は走ってはいけないが、冷蔵子さんを待たせると後が怖い。


2階西階段を離れ、しばらく走っていた僕は前方に人影を見つけた。

同じ掃除班の賢者くんだった。なんでこんな所に居るんだろう?

不思議に思う僕に、賢者くんの方から声を掛けてきた。


「ちょっと、いいかな?」


「何? 賢者くん」


「……いつの間に定着しちゃったのかな、そのあだ名」


爽やかに苦笑する賢者くん。

賢者と呼ばれるのを嫌がる彼だが、もはや僕らの学年では当たり前の愛称だ。


端正な顔を持ち、成績は学年上位。

さらに穏やかな性格の彼は、僕らの学年にとって王子様のような存在だった。


どれくらい人気かと言うと、常に取り巻きの女子生徒が居るくらいだ。

しかし彼は、その誰とも付き合わなかった。

周りの女子にただ穏やかに微笑むだけで、手を繋ぐ事すら無い。

いつしか彼は王子から賢者と呼ばれるようになり、今では全男子から賢者と呼ばれている。偉大な人だ。


「それで、何か用?」


僕が聞くと、賢者くんは少し言い辛そうな顔になった。

しかし意を決したのか、その穏やかな瞳に決意の炎を宿らせた。


「その……掃除当番の場所、変わって欲しいんだ」


「え? なんで?」


「それはその……汲み取ってもらえると……」


恥ずかしげに顔を伏せる賢者くん。

そんな仕草も何だか爽やかだった。


理由は汲み取って欲しい、か~。

凡人である僕に賢人である彼の意を汲み取る事は難しい。

というか無理だ。無理ゲーだ。僕は早々に諦めた。

そんな訳で、即座に白旗を上げる事にした。




「ごめん、無理」




僕の返事を聞いた賢者くんは、不思議な事に険しい表情になった。

穏やかな彼がそんな顔をするのは珍しい。


何でそんなに掃除の場所にこだわるんだ?

大地の気とか、より精神修養に最適な所を探しているんだろうか?

やはり賢人の思考は僕には推し量る事が出来ない。


何故か対峙する僕ら。

どうしたもんかと考えていると、聞きなれた声が廊下に響いた。


「ちょっと、いつまで待たせるのよ」


げ、冷蔵子さんだ。

どうやら待たせすぎたらしい。

痺れを切らして自ら雑巾を取りに来たのだろう。


「あ、(れい)さん……」


賢者くんが冷蔵子さんに声を掛けた。

そんな賢者くんを一瞥(いちべつ)すると、彼女は僕の方に向き直った。

おい、何か言ってあげてよ冷蔵子さん!

賢者くんが凄く悲しそうな目になったじゃん!


「雑巾くらいすぐに見つけられないのかしら?」


賢者くんを華麗にスルーした冷蔵子さんは、雑巾を見るような目で僕を見た。

ぐぬぬ。何て冷たい目をした女なんだろう。雑巾の気持ちが分かりそうになるじゃないか。

本当に、冷蔵庫のように冷たい女である。


冷蔵子さんにスルーされた賢者くんは、苦笑を浮かべながら教室の方に去って行った。

その笑顔はどこか寂しそうだった……。

誰も彼もに冷気を振り撒く女、冷蔵子さん。ほとんどブリザードである。




「ごめんごめん。それにしても、賢者くんに返事くらいしてあげてよ」


謝りながらも、僕は彼女に忠言(ちゅうげん)する。

雑巾のように見られた僕と、雑巾のように扱われた賢者くん。

同類相憐れむというか、悲しみのシンパシーが生まれる。

そんな僕の言葉に、何故か冷蔵子さんは得意気な顔になって反論した。


「あら、あなた知らないの? 知らない人とは話をしてはいけないのよ」


そう言って、ふふん、と鼻を鳴らす冷蔵子さん。


…………。


何と言う事でしょう。

この人、クラスメイトを知らない人と言い切りました。

酷い。これは酷いと言わざるを得ない。


自信満々な態度を崩さない冷蔵子さん。

こんな人なのに、クラスで人気があるのが不思議でならない。

冷蔵子さんの無駄なカリスマ性には驚かされるばかりである。




「それにしても……」


「ん? 何?」


「何で皆、私の事を(れい)さんって呼ぶのかしら?」


(れい)さんというのはあだ名であって、彼女の本名では無い。

疑問を浮かべる冷蔵子さんに、僕は笑顔で答えた。


「ああ、それは君が皆の女王様だからだよ」


「えい」


「ぐはっ!? なんで肘打ちしてきたの!?」


「あなたが真面目に答えないからよ」


「ええー……」


冷蔵子さんは全く信じていない様子だが、僕の言葉に偽りは無い。

(れい)さん、あるいは冷様(れいさま)と言う呼び方の元を辿れば、『命令されたい』人だとか何とか。

命令の(れい)が元ネタなのだが、いつの間にか冷たいの(れい)の方に変わっていた。

多分、彼女が常にクールなのが理由。元々が冗談半分だし、その辺りは深く考えても仕方無いだろう。


まあしかし、女王=命令=冷という連想ゲームは無理矢理感があるのも否めない。

という訳で、僕は「君がいつもクールに見えるからじゃないの?」と冷蔵子さんに告げるのだった。





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