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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
いつもの三人編
34/213

34日目 マジカル☆ドリーマー 夢見る少女

――夢は、全く見ないか、面白い夢を見るか、どちらかだ。

起きている時も同じだ、全く起きていないか、面白く起きているか。


(フリードリヒ・ニーチェ)







「ねえねえ、聞いて聞いて?」


いつに無く積極的に絡んで来る先輩。

その満面の笑顔に嫌な予感を覚えつつ、僕は言った。


「なんでしょうか?」


「すっごく面白い夢を見たの!」


他人の見た夢ほどつまらない物は無い。

誰が言った言葉かは知らないが、僕はこの格言が外れた事が無いのを知っている。

(ほお)を引きつらせた僕の背後から、冷たい温度の声が聞こえてきた。


「誰かの見た夢の話なんて、つまらない物じゃないかしら?」


冷蔵子さんが会話のキラーパスを放つ。

この場合、僕の味方をしてくれていると考えていいだろう。

絶好の位置に来た会話のボール。後は僕がシュートを放つだけだ。


「そうだね。あんまり、人の夢って聞いてて面白かった事が無いや」


冷蔵子さんからのパスを、シュートにして先輩に放つ。

誰が見ても決まるかに思えたシュートだが、先輩はそれを止めた。


「ふふっ。私の夢は一味違うよ……?」


何が先輩にそこまで自信を持たせるのだろう?

得意気な顔の先輩は、あくまで自分の見た夢を語るつもりらしい。

面白いじゃないか。そこまで自信があるなら聞かせてもらおう。

僕は先輩に対し、鋭い視線を向けた。


「ならば先輩。語ってもらおうじゃありませんか」


「むむ? 私を試す気ね少年! 超笑わしてあげるから!」


腕組みし、僕に対し挑むような瞳を向けてくる先輩。

決戦の火蓋が、切って落とされた――!!




「まず私は空を飛んでいるのよ」


はい、アウトー!!

空を飛んだ系の夢の話は、確実に面白く無い。

どれくらい確実かと言うと、僕が子供の頃に全戦全敗したくらい確実だ。

自分では面白いんだけどね、飛ぶってだけで。友達に話したら苦い顔されるんだよねー。


この時点で僕の勝ちは決まった。後は、先輩がどれだけ失点するかである。

僕はそっと審判に目を向ける。審判は当然、冷蔵子さんだ。

ぐっ、と親指を立てる冷蔵子さん。

いや違うよ!? 先輩をフルボッコにする為に勝負を仕掛けたわけじゃないよ!?


何かを勘違いしている冷蔵子さんだが、アイコンタクトだけでは全ては伝わらない。

そして先輩の話が続く。




「それでね! それでね! ウサギちゃんも飛んでてね」


「ウサギちゃん?」


「うん。前に描いたやつ。」


「あ、あれですか!?」


ウサギちゃん。それは先輩が描き出した悲しい怪物(クリーチャー)である。

長く伸びた目。2対の羽根を持ち、足は6本。

先輩の『可愛い物が描きたい』という願望から産み出されたそれは、誰の望みも叶える事なく闇に(ほうむ)られた。

そう、先輩自身ですら「ダメだこりゃ」と烙印を押したのである。


審査員である冷蔵子さんが困惑している。

彼女はウサギちゃんを見てない。だから判断に困っているのだろう。


「ターイム!」


ここで僕はテクニカルタイムを要求した。

その辺にあった紙に、先輩の絵を思い出しながらウサギちゃんを描く。

それを冷蔵子さんに見せると、彼女は「なにこれ……?」と短く呟いた。

なんだろうねコレ。僕も分んないや。少なくともウサギでは無いと思う。


完全な先輩の負け試合に思われたこの1戦。

しかし先輩は『ウサギちゃん』の投入により試合の流れを変えようとする。


僕は冷蔵子さんを見る。

冷蔵子さんの瞳には、否定の色が見える。

うん、そうだね。まだこの時点では先輩の話は面白く無い。

よしんば面白いとしても、それはウサギちゃんの見た目が面白いだけだ。


得点ならず。

先輩の放ったウサギちゃんというシュートは、惜しくも笑いのツボを外れる。

先輩と言うファンタジスタを前に、僕と冷蔵子さんの黄金のツートップは対峙を続けた。




「じゃあ話を続けるよ? ウサギちゃんがね、君を(かじ)ってて」


「え? なにそれ僕の事ですか?」


「うん。頭からバリボリ」


「え~。何か嫌な感じになってきたんですけど……」


何で僕が齧られなきゃいけないんだ。

しかも頭から。即死じゃないか。

想像するだけで気持ちが悪くなってくる。


「それでね、君はこう言ったの。『斬新な食べ方ですねー』って」


なんだよそれ……。

頭から齧られながら、その齧られ方の感想を言うなんて聞いた事ないよ。

やれやれと思いながら、僕は冷蔵子さんを見た。

冷蔵子さん、これでもう先輩の負けは決まったね。




冷蔵子さんは肩を震わせて笑っていた。




冷蔵子さん……冷蔵子さん!?

なんで笑ってんだよ! おい!?


「それでね、それでね。君は何故かウサギちゃんと合体して、『レッツゴーいえい!』って叫ぶの」


机をバンバン叩いて笑う冷蔵子さん。

僕はちっとも面白く無いんだけど!?

破られた黄金のツートップ。そして今日も先輩は勝利を掴むのだった。





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