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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
いつもの三人編
30/213

冷蔵子さん記念日【前編】




「この感じは……!」


休日の街角。

街路に立つ僕の背に悪寒が走る。

この感じは……大阪さんか!?


大阪さん。それは大阪代表である。

謎の組織『正大連(せいだいれん)』を相手に共に戦った仲であり、僕にとっては鬼門のような人である。

こうも街中で大阪さんと出くわすとは……呪われているんだろうか?


僕は直感力(フォース)の導きにより、大阪力(せんとうりょく)を探った。

近い。奴はこの近くにいるはずだ――!

静かに研ぎ澄まされる僕の直観力(フォース)が、目に見えぬ力で大阪さんの位置を知らせる。


「そこか!」


脳裏に閃く何かにより、僕は振り返った。

そこには予想通り、冷たい目をした金髪碧眼の少女が立っていた。

……あれ?


「あれ?」


「何?」


そこに居たのは、大阪さんではなかった。

いつもクールなクラスメート、私服姿の冷蔵子さんだった。

あれー? おかしいなー?

直観力(フォース)の導きだと完全に大阪さんの気だったんだけどなー。


まああれかー。直観なんてあてにならないって事か。

1人納得した僕は、「やあ」と冷蔵子さんに挨拶した。


「こんな所で何してんの?」


「あなたを見かけたから、挨拶しようと思ったのだけど……」


やや戸惑いがちの冷蔵子さん。


「あなたこそ、何で私に気が付いたの?」


なるほど。そりゃ後ろから声をかけようとして、いきなり振り返られたら驚くか。

しかし何でと言われても僕も困る。

直感を信じた結果、直感が外れてしまって……と説明しても意味不明だろう。

こういう時は、もう直感が当たった事にしてしまった方が何かと面倒が無い。


意図せず放ったシュートがゴールを決めたサッカー選手のように。

僕は「完全に狙い通りです」みたいな表情をしながら言った。


「なんとなく、冷蔵子さんが居る気がしたんだ」


そんな僕のセリフに、冷蔵子さんは緩く笑った。


「何よそれ。あなたって、本当に変わった人ね」




それから、何となく連れ立って歩く。

……どこまで一緒に歩くんだろう?

何となく普通に並んで歩いてるけど、特に目的地は無い。

……どこに向かって歩いてるんだ? 僕ら?


晴れた空が眩しい。

賑やかな店の喧騒や、街行く人々の活気。

それを打ち消すような冷蔵子さんの冷めた視線や、クールな態度。

熱い物と冷たい物が交互にやって来る感じだ。


どこに行くの? とは聞けない。

そもそも一緒に歩こうとか、どっか行こうとかって約束を交わしたわけじゃない。

つまり、僕も冷蔵子さんも成り行きに任せて歩いているだけなのだ。

えーと、何て言ったかな。そうだ、まにまにだ。僕らはまにまに歩いてるんだ。


そんなまにまに状態の僕らであったが、ふいに冷蔵子さんが言葉を切った。




「あなた、暇なの?」




……まるで、「暇人なの? うぷぷ」と馬鹿にされたような気がする。

しかし特に否定できる程の用事も残って無かったので、僕は正直に答えた。


「もう今日の用事は済ましちゃったからね。ぶらぶらしてるよ」


「なら、ちょっと付き合いなさい」


ぷいっと横を向きながら、冷蔵子さんは無造作にそう言った。



言われるがままに、冷蔵子さんと共に移動する僕。

着いたのは瀟洒(しょうしゃ)な装いのカフェだった。

無造作にカフェのドアを開く冷蔵子さん。

その後に続き、僕も中へと入っていった。


「ここのアンミツ、結構美味しいのよ」


どうやら冷蔵子さんは、アンミツを食べたかったようだ。

食いしん坊キャラはどっちかと言えば先輩の方だと思ってたんだけどな……。

僕の中で、急速に冷蔵子さん=食いしん坊説が強まりつつある。

そんな事に気付くはずも無い冷蔵子さんは、美味しそうにアンミツをパクついていた。


「でもあれだね、私服で会うのは初めてかもしれないね」


「そうだったかしら?」


アンミツを食べながら冷蔵子さんが答える。

口の端っこにクリームが付いているが、僕はそれを教えないままジッと見ていた。


「前に会ったじゃない? あの夜……」


「夜の図書室部の時? あの時、僕は寝巻きだったんだけど……」


そうだ。寝巻きのまま、僕は冷蔵子さんに無理矢理連れ出されたのだ。

さすがにあれを私服にカウントされるのは心外だ。甚平じゃねえか。


そういえば、冷蔵子さんはジャージだったな……と思い出す。

ジャージも私服と言えば私服か。




「先輩とならたまに会うんだけどね。ジャージで」




ジャージ繋がりで思い出した僕は、何気無く冷蔵子さんに言った。


「……なんでジャージ限定なのかしら?」


そんな冷蔵子さんの疑問に、僕は即答する。


「たまに先輩と公園でスポーツするんだよ。先輩が考案した謎のスポーツを」


特に酷かったのが『ウニでバトミントン』だった。

痛いし汚いし食べ物を粗末にするしで、散々だった。

先輩も「ウニじゃなくて栗にすべきだったわね……!」と反省しきりだった。

あれ? 反省してなかったかもしれない。




どうしてその話の流れでこうなるのか分らないが、僕と冷蔵子さんは公園に来ていた。

この公園には色んな思い出がある。

ウニでバトミントンしたり、ハリセンを持った謎の集団に襲われたり。

良い思い出と言えないところが切なくもある。


果たして、僕と冷蔵子さんはこの公園でどんな思い出を残すのか。

経験則から言えば、ろくでも無い思い出になる確率が8割ほどか……。

たまには良い思い出を残したいなぁ。無理かなあ?

僕が運命に抗おうとしている時だった。何かに気付いた冷蔵子さんが、そっと耳打ちしてくる。


「ねえ……あれ、何かしら?」


「えっ?」


冷蔵子さんの指差す方を見る。

公園の中央。そこには一見アスレチックな遊具に見える物体があった。

しかし良く見ると、その物体に見知った人が縛りつけられている。


「なっ!? あれはまさか!?」


それは、何者かの手によって十字に(はりつけ)にされた大阪さんだった――!!




【続く】





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