3日目 気分アゲアゲ
「ザッピング的手法ってあるじゃん」
先輩のいつものような唐突な質問に、僕はしばし考えを巡らせる。
「何か聞き覚えはありますね」
「うん? いやこの前ビデオ借りたんだけど、」
カップラーメンに熱湯を注ぎ終わった先輩は、
それを慎重に運んでいる。
無事机の上にラーメンを置いた先輩は、話を続けた。
「パッケージに『ザッピング的手法を使ったほにゃらら』とか書いてあったのよ」
手元の本から先輩に視線を向け、僕は聞き返した。
「ふ~ん……。それで、面白かったんですか?」
「何が?」
「いや、ビデオの話ですよ」
先輩の前には、先ほど置かれたカップラーメンがある。
3分間で食べられる素敵に手軽な食べ物だが、
3分間は待たねばならない面倒臭さもある。
カップラーメンが出来上がるのを待つ3分間。先輩は、デタラメな会話をするのだ。
「うん? ビデオの話だったっけ?」
「借りたって話じゃないんですか?」
「あれぇ? まあいいや。何か見ててよく分からなかった」
再び手元の雑誌に視線を戻しながら僕は言った。
「じゃあ面白く無かったんですか?」
「いや所々では面白くて、晴れ時々雨ってところかな」
「斬新な論評ですね」
「そんなに褒めんなよ/// お姉さん照れちゃうだろ」
別名マウンテンゴリラ(命名は僕)の先輩が照れている。
照れ隠しに何か握りつぶす勢いだ。
とりあえずリンゴを握りつぶせるのは知っている。
そんな事を思いながら、僕は返事を返した。
「いや褒めては……無い事もないか」
「素直になれよ少年。うん? もっと褒めてもいいぞ。私の美貌とか」
気分アゲアゲな先輩に、今なら檻の鉄柵も曲げられそうですねと
心の中で言いながら、僕は会話を続けた。
「捻じ曲げられそうですね」
「えっ? 何を?」
ヤベエ。心の声をそのまま口に出してしまった僕は、かつて無い悪寒を感じた。
このままでは僕の腕が捻じ曲げられてしまう。具体的に言うと折られる。
ポーカーフェイスを気取りながら、僕はさらりと言った。
「男子の視線を、ですよ」
その誤魔化しの言葉をさらりと出せた時、僕は自分で自分を褒めたくなった。
「うっわ何? 上手い事言ったつもり?」
キャハハとはしゃぐ先輩。内心冷や汗だらりの僕。
こうして今日の3分間が過ぎていくのだった。