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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
いつもの三人編
28/213

28日目 時には甲殻が似合うダンゴ虫のように



「ダンゴ虫のように生きたい……」


机に突っ伏したまま、先輩が消え入るような声でそう言った。

酷く気落ちした様子の先輩に、僕は戸惑いながらも声をかけた。


「足をいっぱい、()やしたいんですか……?」


「いやそっち方じゃなくてさー」


ガバッと起き上がりつつ反論する先輩。

先輩のおでこには机に突っ伏した(あと)が付いているが、僕は黙っておく事にした。


「ダンゴ虫のように、殻に閉じこもりたいんだよ~」


へなへなと机に倒れながら先輩が言う。

よほどヘコむ事があったらしい。

僕は気落ちする先輩の為に話題を変える事にした。


「先輩、知ってます? 『変身』って小説」


「『変身』?」


「朝起きたら自分の体が虫になってた、って話なんですよ」


「ああ……。私もダンゴ虫になりたい……」


あれ? 話題(わだい)変わってなかった。

自分の話術の無さに愕然としながらも、僕は適当に話を続けた。


「殻に閉じこもるなら、他にも色々あるじゃないですか。貝とか」


「それじゃ転がれないじゃん」


「転がる気なの!? 意外とアクティブなんですね!?」


殻に閉じこもった後も動く気満々の先輩に、僕は驚愕した。

そんな僕に対し、先輩はニヤリと笑いながら言った。


「おう。超転がるぜ~。自分にこもりながら超転がるぜ~」


「無駄に前向きですね。もうちょっと後ろ向きにならないように努力しましょうよ」


(さと)すような意見を言う僕に、先輩はチッチッと指を振るった。


「どうやらダンゴ虫の良さに気付いて無いみたいね。少年」


「いや、気付きたいとは思いませんけど……」


「試してみよー!」


「ええー……」


何やらやる気満々の先輩に、僕は嫌な予感が鳴りっ放しだった。


「さあ、ダンゴ虫の気持ちになるんだ! ほら転がってごらん?」


「いや、転がってごらんって……」


「転がればきっと分る! ダンゴ虫の気持ちが!」


一体何が先輩をそこまでさせるのだろうか。

ダンゴ虫に取り付かれたかのような先輩は、(とど)まる事を知らない。

いきなり床に手を付いたかと思うと、そのまま前転を繰り返した。

危うくパンツが見えそうになって、僕は慌てて目を逸らした。


連続前転を終えた先輩は、ふらふらと頭を振りながら立ち上がった。


「うっわ、凄い目が回る」


「ダンゴ虫の気持ちですねー」


「世界が回ってみえるよ……。地面がぐにゃぐにゃに……」


「ダンゴ虫の世界ですねー」


適当に相槌を打つ僕の方に、ふらふらの先輩がゆらゆらと近付いて来る。

そしてついに僕の所まで辿り着くと、ガシッと肩を掴んできた。

あれ? 何かヤバくないか僕?


「じゃあ、次は君の番ね」


「え~。僕やらないですよ」


笑顔で断る僕。その僕の肩が、メキリと音を上げる。

先輩の、リンゴを素手で握りつぶす右手が、僕の肩を掴んでいる。

痛い。なにこの痛さ。肩ってリンゴのように砕けるものなのかな? 笑顔のまま蒼白になる僕。

そんな僕に向かって、先輩は満面の笑みを浮かべて言った。


「レッツゴーいえい!」


「レッツゴーいえい! いえい!」


先輩の謎のゴーサインに対し、僕も謎のゴーサインを返す。

肩を砕かれるよりは、ダンゴ虫のように転がった方がマシだ。

そう決断すると僕は床に手を付いた。


猛然と前転をする……が、途中でバランスを崩した。

斜めに曲がりながらも前転を繰り返す。

しかしとうとう、体が変な向きになって大の字に転がってしまった。

ああ、世界が回る……。目が回って上手く動けない。


そんな時だった。

部屋のドアが開き、冷蔵子さんが入ってきた。

最悪な事に、僕が倒れた位置はドアの真横だった。


あ、冷蔵子さんのパンツ見えた。


回る世界の中、僕がそんな事を考えていると。

足元に僕を発見した冷蔵子さんと目が合った。


「あなた、何をしているの?」


氷のように冷たい目だった。

僕は何をしているんだろう?

バカみたいに前転してましたと言うべきか。

あるいは冷蔵子さんのパンツを見てました、てへっ。だろうか。




……ダンゴ虫になりたい。





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