26日目 バカ2人
「まにまに……」
「え? 何ですか?」
「まにまに?」
「…………?」
どうしたんだろう先輩。
ついに知能を失ってしまったのだろうか。
本気で心配になって、先輩の顔をマジマジと見る僕。
どうしてこんなになるまで放っておいたんだ……。
「む。何か失礼な事考えてるでしょ」
「そんな事無いですよ」
平然と白を切りながら、僕は真顔で答えた。
「う……変な事言ってごめんね」
罪悪感に駆られたらしい先輩が、素直に謝ってくる。
本当に失礼な事を考えていた僕としては、そんな先輩の優しさに心が痛んだ。
だがポーカーフェイスは崩さない。
僕は素知らぬ顔をしながら「気にしてませんよ」とやんわり言った。
「それにしても、さっきから何です? 擬音か何かですか?」
まにまに、という言葉を呟いていた先輩。
一体どういう意味があるんだろう。
気にならないと言えば嘘になる。
「……何だろう?」
「いや、こっちが聞きたいんですけど……?」
顔に疑問符を浮かべる先輩。
本格的にダメになってきているんだろうか?
「何だかね、まにまにって単語を聞いたの。私も意味は分らないんだけど」
「まにまに、ですか。意味有るんですかね?」
「さあ……?」
どうやら、先輩自身よく分らない単語だったみたいだ。
まにまに、ねえ。意味が有るとは思えない。
擬音か何かだろう。
「まにまにとは、成り行き任せって言う意味の言葉よ」
すっと刺し込むような鋭い声。
冷蔵子さんが、氷のような目を向けながら僕らに指摘した。
「へえ……。よくそんな事知ってますね」
「たまたまよ」
やっぱり博識なんだなぁ。
そんな風に思ってると、同じように感心したらしい先輩と目が合った。
特に意識せず、視線を合わし続ける。
と、先輩が呟くように言った。
「まにまに」
…………。
何となく、僕も言い返した。
「まにまに」
「まにまに?」
「まにまーに」
「……あなた達、バカなの?」
冷蔵子さんに冷たいツッコミを入れられた。
じっと冷たい瞳でみつめられ、
為す術の無い僕と先輩はてへへと笑って誤魔化した。