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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
いつもの三人編
25/213

25日目 2対の羽根



「先輩、何を描いてるんですか?」


「う~んとね、ウサギちゃん」


「へぇ……ええっ!?」


「……何?」


先輩が何やら描いているのが気になった僕。

そこに描かれていたのは異形の化物だった。


「何で目が伸びてるんですか?」


「バカだなぁ。これは耳だよ」


「先端に目玉らしき物が描かれているんですが……」


「ちょ、ちょっと描き間違ったんだよ! うるさいなあ」


ウサギと言われれば、そういう名前の妖怪だと納得してしまいそうだ。

けっして白くてモコモコした愛玩動物は思い浮かべない。


「足が6本あるんですけど……」


「だから2本は耳だって……あれ? しまった多く描きすぎた」


長く伸びた耳(先端に目玉がある)を入れると、合計で8本の突起が胴体から伸びている。

……何類(なにるい)なんだこの生物は。

慌てて消しゴムをかける先輩。

しかし僕は、6本足よりも先に消してもらいたい部分があった。


「先輩。なんで羽根が生えているんですか?」


先輩が描いた謎の生物には、2対の羽根が生えていた。

どこへ飛ぶ気なんだ……?


「ああこれ? 可愛いでしょ。チャームポイントだよ」


先輩は得意気に言ってきた。

どこに自慢できる要素があったのか分らない僕は、ジッと先輩の手元を見つめた。

消しゴムを握るその手は、ぴたりと止まったままだ。

しばし、会話が止まる。


「なんで羽根を消さないんです?」


「ええっ!? なんで消すの!?」


「ほわい!? ウサギを描いてるんですよね!?」


「ウサギに羽根があったら可愛いじゃん!」


なんと! 確信犯であったとは。

なるほど、ウサギをベースにしたマスコットキャラ(キメラ)だったのか。

しかし残念なことに、少しも可愛いと思えない。

羽根を付け足す前に、本体をどうにかして欲しかった。


僕は眉間に皺を寄せながらジッと絵を見た。

そんな僕を一瞬見た後、先輩は自分の絵に視線を戻す。

そして短く「はぁ……」と溜息を吐いた。


「う~ん。やっぱり可愛く描けないなぁ。なんでだろう?」


「ああ、やっぱり先輩の目から見てもグロいんですね。安心しました」


「うう……可愛い絵が描きたいのに~」


「それにしても、何で絵なんて描いてるんですか?」


「美術の課題で、好きな物を描いてくるようにってさ」


それで描いたのがこれか。

何と言うか、悲劇というタイトルを贈りたい。

描いた先輩自身も「ぐぬぬ」と気難しげに口を曲げる出来である。

あんまりだなぁ、と思った僕は「他にも何か描いて無いんですか?」と聞いてみた。


「うん、他にも描いてるよ。可愛くないけど」


「どれどれ……うっ!?」


先輩がスケッチブックをめくる。

残酷な天使のウサギが描かれたページの下から出てくる次の絵に、僕は思わず(うめ)いた。


「せ、先輩、これは……!?」


「やっぱり可愛くないよね。てへへ」


先輩が申し訳無さ気に見せるページには、猿が描かれていた。

描かれているが……それは……。


「め、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)上手じゃないですか!? うわスゴッ、プロの絵みたいだ!」


そこには、見事に描かれた猿が居た。

毛並みまでリアルに表現され、その表情には妙な愛嬌を感じる。

かつて日本画家は、猿の絵の上手さで腕を競ったという。

つまり猿の絵の上手さは、即ち絵の上手さとイコールなのだ。


「私は本当は、こういうのは好きじゃないんだよね~」


自分の描いた猿の絵を示しながら笑う先輩。

描きたく無い物は上手くかけるのに、本当に描きたい物は描けない。

ちらりとウサギ(妖怪)に目を向ける。

難儀な物だな……と、僕は先輩の描いたウサギ(妖怪)を見ながら涙した。





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