24日目 暗躍する者たち
「ちっ! 囲まれたで!」
「大阪さん! 後ろは任せましたよ!」
「坊主も油断するなよ!」
拝啓、先輩。
お元気でしょうか?
僕は今、謎の集団に囲まれています。
異様な光景だった。
のどかな昼下がりの公園。
そこには、前身タイツに目出し帽を被った集団がいる。
その手には白いハリセンが握られていた。
泣き叫ぶ子供。
唖然としている老人。
そして、囲まれてしまった僕と大阪さん。
一体日本に何が起きているのか? 僕は疑問を感じずにはいられなかった。
「せいや!」
集団の1人が、唸りを上げてハリセンを振り下ろしてくる。
「はいぃ!」
驚きながらも、僕は咄嗟に蹴りを出す。
足底が運良く相手の手に当たった。ハリセンが宙を舞う。
腕を押さえよろめく覆面(その1)の隣から、覆面(その2)、覆面(その3)が襲い掛かってくる!
僕は振り上げた足を下ろさず、そのまま連続して蹴りを放った。
「あたたたたたた!!!」
後ろでは、大阪さんが気勢を上げながら攻防を繰り返している。
一体どんな技が繰り広げられているのか。
しかしそれを気にする余裕は無かった。
目の前には覆面、覆面、またまた覆面とカーニバル状態だ。
「ほわあああああ!!!」
物凄い勢いで、覆面の1人が突進してきた。
――速い!
そう判断する僕の目に、宙を舞うハリセンが見えた。
何かに閃いた僕は、咄嗟にハリセンを蹴飛ばした。
ハリセンが突進してくる男の視線を塞ぎ、一瞬の隙が出来た。
ここだ!
僕は蹴り足と軸足を瞬時に入れ替え、回し蹴りのように腰を捻りながら足を突き出した。
カウンター気味に入った蹴りは、相手を一瞬浮かせて沈めた。
「おりゃあ!!」
ゴスン、と鈍い音が響く。
どうやら大阪さんも善戦しているようだ。
「まだやるんかいな、この悪党ども!」
威風堂々と叫ぶ大阪さん。
悪党って何だよってツッコミそうになったが、
覆面の集団で襲い掛かってくるのなら悪党なのかもしれない。
変態、の方が正しい気もする。
そんな事を心の中で思っていると、覆面のリーダー格らしい男が不敵に笑い声を上げた。
「悪党だと!? 果たしてどちらが悪党かな……?」
「なんやとっ!?」
マジな感じで大阪さんが激昂した。
その声の大きさに、むしろ僕がちょっとビビった。
しかし覆面リーダーは大阪さんの怒りを鼻で笑うようにして宣言した。
「我々は『正しき大阪弁のための連合』、通称『正大連』のメンバーだ!!」
せ、正大連?
頭が混乱から抜け切らない僕を尻目に、覆面達が次々に怒声を上げた。
「貴様、偽りの大阪弁を使うに飽き足らず、自らを大阪であると喧伝しているらしいな?」
「我々は貴様の存在を許さない! 真の大阪弁を前にして泣き叫ぶが良い!」
「悔しかろう。怖かろう。大阪弁で身を纏おうと、心の弱さは守れないのだ!」
これは一体どういう事なんですか!?
そう大阪さんに問いかけようとした僕は、大阪さんが薄く笑っているのに気が付いた。
「正大連、か。お前らを倒せば、俺が真の大阪やという事やな……?」
いやその理屈はおかしい。
だが大阪さんはやる気満々だった。
ゆらりと腕をふるうと、静かに構えを取る。
そして、残り全員を1人で叩き伏せた。
「虚しい戦いやった……」
夕焼けの公園。
倒れ伏す覆面達から視線を外し、ぽつりとこぼす大阪さん。
本当に虚しかったですね。
僕はそう思ったが、何故か言葉に出すことは出来なかった。
「く……くくくっ……!!」
倒れ伏す覆面の1人、リーダー格らしい男が、うつ伏せのまま哄笑を上げた。
それ冷たく見下ろしながら、大阪さんは吐き捨てるように言った。
「なんや。言いたい事でもあるんか?」
「くく……我々に勝った気でいるようだが、それは間違いだ……!」
「なんやと!?」
「我々は、しょせん大阪弁を使う事も許されない下っ端……! 正大連の真のメンバーを前に、絶望するが良い……!」
大阪弁って許可制だったのかよ。
新たな驚きに怯む僕と、まだ見ぬ敵に拳を握る大阪さん。
真の大阪を巡る戦いは始まったばかりだ!
ガンバレ? 大阪さん! 僕もう帰っても良いですかね? 大阪さん。