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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
いつもの三人編
22/213

22日目 あの日に帰りたい



「ねえ、覚えてる?」


一面に青空を映す窓ガラス。

それを背景にして、先輩は僕に言った。

あまりにも鮮烈な青色が目の前一杯に広がり、

まるで海の中にいるような錯覚を覚える。


「2人でプラネタリウムに行った時の事。」


先輩の顔は、逆光になって見えない。

どんな表情をしているんだろうか?

気にならないと言えば嘘になる。

分らないならそれでも良い。そんな風にも思う。


「いや、行って無いですよ? プラネタリウム? 何のことですか」


「えっ?」


ゴォォォォォ…………。

直線状に白い筋を残しながら、飛行機が上空を飛んで行く。

静かな陽光が窓から差している。

先輩はどんな表情をしているのだろうか? 空が青すぎて見えない。


「あれ? 一緒に行ったよね?」


「え~? 何時ですか?」


なおも聞いてくる先輩に、僕は胡乱(うろん)な目つきで答えた。

プラネタリウム自体に行った記憶が無い。

誰かと勘違いしてるんじゃないのか? この人。

半ばそんな事を考えながら、先輩の返事を待つ。

先輩は、自分に何の疑いも持たない真っ直ぐな瞳で答えてきた。


「10年くらい前。」


「10……年ですか。年……」


予想外に過去の事だった。

2・3日前の話かと思ってた……。

10年。う~ん、どうかなぁ。

記憶には全然無いけど、僕が忘れてる可能性もかなり高い。


忘れてました、てへ。とか、ちょっと言い辛いなぁ。

先輩に対して悪すぎる。僕が何だか薄情みたいじゃないか。

それにしても、10年も前からこの人と知り合ってたのか?

完全にこの学園に入ってからだと思ってたわー。


窓から見える遥かな稜線。

青く透けた大気を(はら)み、鳥が羽ばたいていく。

ダメだ、現実逃避してみたけど全然思い出せない。

こうなったら探り探りいこう。


「あ~、えっと。僕達2人だけで行ったんですっけ?」


しどろもどろ聞く僕。

嫌な汗が流れる。

まるで溺れるように記憶を手繰る。

先輩、握力、ゴリラ……あ、ラーメン! ……いやこれは違う。


「え~? 忘れちゃったの?」


非難がましい視線を送ってくる先輩。

そうだよなぁ、知り合った事を忘れてたら薄情だよなぁ。

僕の背中を流れる嫌な汗は、濁流となりつつあった。

思い出せ、思い出すんだ僕。やれば出来るはずだ、右脳の辺りに意識を集中させろ!


瞬間。

ふっ……と浮かんでは消えて行った映像があった。

麦わら帽子を被った少女。眉毛を描かれた犬。

何だ、何だこの記憶は――!?


何かを思い出せそうだった。

いける、僕がそう感じた瞬間だった。

眼前に甦るように、幼き日の幻影が見えた。


「星と星を繋いでも、天秤とかサソリとかに見えねーよ!」


厳粛なプラネタリウム。その静寂を破るように、気勢を上げるバカがいる。

僕だ。幼き僕は星座に対して物申していた。


「大人の言葉に騙されるな! 星座なんて、星と星を繋げただけのデッチ上げだ!」


僕は、まるでクーデターを始めた青年将校のように熱弁していた。

当然周りの友達からは非難轟々である。何言ってんだこいつ、という状況である。

そんな中、見ず知らずの少女が熱い瞳で僕を見ていた。あ、これが先輩か?


「わ、私は大人になんて騙されない!」


バカな子なんだろう。

そして幼きバカな僕と、麦藁帽子を被ったバカな娘は共に走り出した。

後ろから先生の絶叫する声が聞こえる。

しかし、ハイテンションな僕らは笑いながら駆け抜けた。


その後の事ははっきりしない。

ただ、どこからかヨークシャーテリアの犬を見つけた。

弱々しい見た目が可哀想だという理由で、マジックで眉毛を描いた。

僕らは大はしゃぎだった……。


そこまで思い出して、僕は先輩に向き直った。

海のように深く澄んだ先輩の目。

それを真っ直ぐに見つめながら、僕は言う。


「ごめん。ちょっと思い出せないや」


そして、うっかり思い出してしまった黒歴史を

再び封印する事を胸に誓った。

海の底に沈めるように、深い空を見つめながら。





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