21日目 飢竜の伝説
「ここをこうして……どう!? ドラゴンの構え!」
「ドラゴンですか……」
先輩は奇妙なポーズを取っている。
左手を右手の肘に当て、右手の指は龍の顎のように開いている。
「それで、構えてどうするんですか?」
「ふふっ。……強いよ!」
強いらしい。
自信満々に言う先輩を「ふっ」と鼻で笑うと、僕は手元の雑誌を読み直し始めた。
「ドラゴンふぁんぐ」
「ぐわあああああ!!」
「ふふっ。この威力……!」
「先輩! 僕の首の肉がえぐれたように痛いんですが!?」
「どれどれ? 紫色になってるだけだよー」
「鬱血してるじゃないですか!?」
突然、僕のうなじの辺りをつねってきた先輩。
恐らくそれがドラゴンふぁんぐなる技なのだろうが、滅茶苦茶痛い。
握力が100kgを軽く越える先輩だからこその威力。
今の一撃が本気だったら、冗談抜きで肉がえぐれていただろう。
「あなた達、静かにできないの?」
1人黙々と本を読んでいた冷蔵子さんが、鬱陶しげに指摘してくる。
イライラしてる感じだ。カルシウムが足りて無いんだろう。
しかし、そんな叱責も気にならないくらい、うなじが痛い。
痛いというか怖い。今どんな状態なんだ僕のうなじは。
「ちょっと見てよここ。本当に鬱血してる?」
そう言って僕は冷蔵子さんに近付いた。
彼女の冷めた目で見てもらった方が客観的に正確だろう。
「ちょ……いきなり近づけないで!」
「お願い! 見るだけ見てよ! えぐれて無いよね!?」
「ドラゴンふぁんぐ」
「ぐああああああああ!!」
傷痕を冷蔵子さんに見てもらおうとしていた僕は、何故か再び先輩から攻撃された。
痛い。さっきとは逆方向のうなじが痛い。
「うわぁ……」
僕のうなじの辺りを見ながら、冷蔵子さんが嫌そうに呟く。
どどど、どうなっての僕の首!?
「ちょっ、先輩! 何ですか!? 何で攻撃してくるんですか!?」
「私は先輩では無い。飢えた竜だ」
「え? 何その設定! え……今度は左手も構えて……?」
「双頭ドラゴンへっど!」
「新技!? 何嬉しそうな顔してんですか! ちょ、マジで止めてください!」
新技を試そうと、どこか嬉しそうに僕を追いかけてくる先輩。
ヤバイ、この人変なスイッチ入ってるわ。
顔面を蒼白にした僕は、ひたすら逃げに徹した。
が、周りこまれた。現実は非常である。
「へ、ヘルプ! ヘルプミー!」
必死に冷蔵子さんに助けを求めると、彼女は僕に向かって何かを投げてきた。
「それを使いなさい!」
「サンキュー! ……ってこれはフマキラー!?」
殺虫剤を手にした僕は、剣の如く先輩に突きつける。
伝説の戦いが幕を開けた。