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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
僕達の絆編
188/213

188日目 逃げろ! 風の如く!




「その声は……飛天さま!?」


 天から降り注ぐ声。見上げれば、遠く高台の上に飛天さまの姿が見えた。この公園のシンボルとなっている銅像の上に立ち、お面を被ったまま声を張り上げている。


「朝から貴様を尾行させてもらっていたのだ! 学生運動とやらが、ならず者達を集めて騒ぐことだったとはな! せっかくだから通報させてもらったぞ!」


「なんだって!?」


 返事代わりのように叫ぶ。

 僕と飛天さま以外に喋る人間はいなかった。

 先輩や遮那だけでなく、集まったギャング風の集団も呆然としている。


 何故か? その理由は何となく分かっていた。

 突然お面を被った女が現れ、そして銅像の上に立ったなら言葉を失うしかない。

 僕が対処できるのは単なる慣れだった。そして僕にしか出来ない事を為すため、


「どうして……」


 銅像の上に立つ飛天さまに問いかける。皆が固唾を飲んでいた。

 僕らの会話を見守っているのだ。見えない期待を背中に背負いつつ、僕は言葉を放つ。


「どうしてそんな暇なことを? 今日は土曜日だよ、せっかくの休みの日に尾行とかやってて悲しくならない? 他にやる事なかったの?」


「うるさいわボケェ! 貴様が来いと言ったんだろうが!」


 大地の神タイタンのように大股開きで絶叫する飛天さま。そして遠く銅像の上に立ったまま竹刀の切っ先を僕に向けると、続けざまにして言った。


「来てみて驚いたわ! まさか貴様の言う学生運動とやらが、不逞ふていの輩を集めることだったとはな! 少しは骨のある男かと思ったが、どうやら見込み違いのようだな!」


 彼女の言う不逞の輩とは誰の事か? 言わずとも分かる。具体的に言えばドレッドヘアの人とかヒップホップ風の格好をした人とか真昼間からフードを被った人達の事だ。


 一見すると少年ギャング団。しかしてその実体はストリート・スポーツを愛するただの好青年達だ! ……だったらいいなぁ。無理だろうなぁ。警察来てから凄い慌ててるし。


 何かしらの後ろ暗いところがあるのだろう。パトカーの鳴らすサイレンと共に彼らは不穏な気配を漂わせている。抗戦と闘争。どちらにしろ治安維持組織に向けるものでは無い。


「ちぇっ、面倒くさいことになったね」


 公園の入口に停まったパトカーを見つめながら遮那しゃなが呟いた。かつてより街の不良達と繋がりのある遮那。警察との間で面倒なことになった経験があるのだろう。


 大阪さんは知床しれとこ兄弟に指示を出している。大阪を守るために路上でバトルに明け暮れていたチーム大阪。遮那を笑えないくらいに警官と追いかけっこをしたことがありそうだ。


「果たして彼女はヒロインなのでしょうか? くっ、お面で顔が見えない……!」


 佐々木ロミオだけはよく分からない理由で悔しがっていた。制服姿にヒーローお面を被った飛天さまを遥かに見上げながら、わずかに眉をしかめた。


「これだけは使いたくありませんでしたが」


 悲痛な面持ちでスマートフォンを取り出す。なにをする気だろう?

 いぶかしむ僕の前で彼はスマホのレンズを飛天さまに向ける。


「ヒロイン(りょく)スカウター! 判定は……怪人のアイドル度☆三万八千? あはは、意味が分かりません。参りましたね」


 どうやらスマホのアプリにヒロイン度を測るものがあるらしい。それにしても飛天さまは怪人のアイドルか。そうか……。

 密かに憐憫れんびんの情を湧き起こしながら、僕は飛天さまに鋭い視線を向けた。


「あんたが警察を呼んだのか?」


 問いかけに対し、怪人のアイドル女は息を抜くようにフッ……と笑ってみせる。そして、


「かつて貴様の策により警察から職務質問された恨み。われは一日たりと忘れたことは無かった……」


 急に声のトーンを落としたかと思うと、切々と語り始めた。


「あれほど惨めで、辛く、そして恥ずべき体験が他にあるだろうか? 我が魂をけなされ、馬鹿にされ……! そうだ! 確か貴様からは可哀想な女扱いされた!」


 そこで一度言葉を切ると、お面女は少しめを作った後に叫んだ。


「今こそ通報される身の悲しみを知れ! そして我の味わった苦しみを知るのだ! ははは、どうだ? 可哀想な人になった気持ちを言ってみろ!」


「ぐう……! どこまでも執念深いヤツ!」


 宿敵を睨み、ギリリと歯噛みしていると大阪さんと先輩が声をかけてくる。


「なに遊んどんのや坊主! もたもたするんや無いで、さんさん! 散会や!」


「逃げるよ少年! 風の如くはやく!」


「あれっ!? 大阪さんはともかく、先輩は何で手慣れてるんです!? 妙に迷い無く逃げの体勢に入ってませんか!?」


「忍者だからねー」


「答えになってないですよ!? それともマジで先祖が忍者なんですか!?」


 俺たちに明日は無い、という感じで走り出す大阪さん。その後ろに続いて知床しれとこ兄弟が駆け出していく。


「今回も俺は負けなかった。そういう事だな?」


「そげな勝ち方は自慢できんとよ! 兄ちゃん!」


 言い争いながら遠ざかっていく兄弟の姿を見つめていると、背後から声をかけられた。


「兄さん」


遮那しゃな


 振り返るとそこには年下の親戚の顔があった。女装姿が板についてきた親戚は、一見しても二見しても少女のようにしか見えない。猫のように大きな瞳を開け、ジッと僕を見つめている。


「残念だけど試合は終りみたいだね。一度警察にマークされるとしばらくはここに近寄れないから……」


 何だか上級者っぽい発言だ。何の上級者かと言うとアウトローの上級者だ。

 警察にマークされることに慣れた女装癖のある親戚か。う~ん……。


「ではまた今度。ふふっ……また会えるよね? 兄さん。たとえ理由なんか無くても」


 ほろ苦い物を感じていた僕にそう言い残し、遮那は田中スカイウォーカーと佐々木ロミオに囲まれながら逃げていく。


 っていうかスゲエ。三人ともそこらの構造物を蹴りながら空中移動してるんだけど。人間の技じゃ無いみたいだ。


「ワタシ達も早く逃げよう。そうした方がいい、かな」


 職質経験でもあるのだろうか? 風の王が妙に焦燥感のある態度で急かして来る。

 なんだか最近、僕の周りには警察と対戦経験がある人達ばかりが集まっている気がする。


 ……これは何かの罠だろうか?

 ふとそんな考えが胸をぎった。


 いやよく考えるんだ、僕がそんな怖い人生を送っているはずが無い!

 心の中で葛藤を繰り返す僕の目に、悠然とその場に立つ冷蔵子さんの姿が映った。


「なんでそんなに余裕あるの? 早く逃げないと」


 何をのんびりしているんだ、状況が分かっているの? と言外に含めながら声をかける。すると冷たく青い瞳が僕を見つめ返した。


「私は逃げないわ。誰かに恥じるような生き方なんてしていないもの」


 毅然と言い放つ冷蔵子さん。その言葉はまさに平和の世界の住人のセリフだった。

 そうだよ、僕もそっち側の人間であるべきだ。

 頭でそう考えながらも、僕の口から出た言葉は彼女の行動を否定するものだった。


「いやでも、警察沙汰になると確実に学園で問題になるよ? そりゃあ君にだって、僕にだって恥じるようなことは無いけど、世間じゃ警察と関わるだけで立派な恥なんだ。大人達は僕らの言い分なんて分かってくれやしないしさ。人々の規範たるにふさわしくない行為だーって決め付けられて、あえなく説教部屋行きになると思うけど……」


 冷蔵子さんはそっと微笑んだ。そんな事は分かっているとでも言いたげな表情で。

 金色の髪が儚く風に揺れ、彼女はそっと口を開く。


「私は走るのが苦手なのよ。だから今から逃げても無駄だわ。そうね、座して死を待つという言葉の意味を噛み締めている所かしら?」


「早くも諦めてただけ!? いさぎよければ良いってものじゃないよ!?」


「もうヤバイ、かな!」


 冷蔵子さんにツッコミを入れている途中で風の王が金切り声を上げた。先輩が「なぬっ!?」っと呟くのが聞こえ、僕は釣られるようにして視線を声の方に向けた。


 うわっ、なんだアレ!? 何か凄い装備の人がうじゃうじゃいる! そして少年ギャング団を囲もうとしてる! 妙なプロテクターを着けた警察官の群れとか初めて見たよ! 


「少年、タイムリミットは近いみたいだね」


「先輩は何でそんなに余裕があるんですか!?」


「忍者だからねー。ふふふ」


「だから答えになってませんって!? そしてタイムリミットって何のリミットですか!? 教えて下さい!」


 尋ねる僕に向かい、先輩は何故か自慢気に答える。


「それはだね? この場に残るのか、それとも逃げるのか。その選択のことだよ!」


「そんなの逃げるに決まってるじゃないですか! って、あ……」


 冷蔵子さんが物凄い目で僕を睨んでいた。うわあ超怖い。


「行くならいけば良いじゃない」


「いや、ちょっと待って……!」


 そうだった。冷蔵子さんはここに残るとか言ってたんだった。


「私に構う必要は無いわ。だから、行くならいけばいいじゃない」


「い、今いい方法を考えてるからさ」

 

 マイナス四十度を思わせる目を向けられ、僕はたじたじと言い返す。しかし彼女の瞳は相変わらず極寒のままで、周囲の温度を下げながら拒否の言葉を繰り返した。


「……そんなのいいわよ。私はここに残るし、貴方は逃げる。それでいいんじゃないかしら。別に気にしていないわよ?」


 気にしていないと言いつつ冷蔵子さんはぷいっと顔を逸らす。気にしてんじゃん!


「うわあー。超面倒くさい怒り方してる……」


 相手に聞こえないようにそっと呟きながら、僕は頭をフル回転させていた。





おかしいな、話が終わらないですね。

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