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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
僕達の絆編
167/213

167日目 サラマンダー・ベビー




「はぁ……」


「何を溜息を吐いているのよ? 幸せが逃げるわよ」


「ちょっと……悩みごとがあってね」


 授業合間の休憩時間。

 僕は間近に迫った土曜日を前にして憂鬱になっていた。


 その原因は、天敵である親戚とのストリート・バトルだ。

 自分の席に座る僕に、近くに立つ冷蔵子さんが話しかけてくる。


「溜息を吐いた時、どうすればいいか知っているかしら?」


「なに? おまじないか何か?」


 隣に立つ彼女を見上げる。金色の髪が白い肌と対比されるように流れている。

 いつ見ても目立つ色だな、冷蔵子さんは。地毛だから当たり前か。


微笑ほほえむの。逃した幸せの分、楽しい気分になればいいのよ」


「楽しい気分って言ったって……そうなれないから苦労してるんじゃないか」


 げんなりとしながら返事を返すと、冷蔵子さんとは逆方向から声をかけてくる人物がいた。


「悩みごとなら俺が聞いてやるぜ!」


 長ソバくんだ。

 妙に張り切っている友人に対し、僕はよりいっそうテンションを落とした。


「ありがと。でもさ、多分そんなに簡単に解決しないことだから……」


 言ってもムダ、と言外に匂わす。

 しかしどうしてだろう、長ソバくんはより一層語気を強めた。


「俺達は親友だろ? とりあえず話してみろよ、親友なんだから!」


 瞳に熱いものを灯す長ソバくん。

 そんなに僕のことを思ってくれていたのか……!?

 ソバカス顔に燃え上がる熱い何かを込めながら、長ソバくんは言葉を続けた。


「俺は友情に厚い男だぜ!(チラッ) 友達が困っていたら助けるのは当然だろ!(チラッ)」

 

 何故か定期的に僕から顔を外し、冷蔵子さんの方に視線を送っているのが気になるけど、そんな事はどうでもいい。


 僕らには友情があり、その友情はかけがえの無いものなのだ。ありがとう長ソバくん。君は本当の親友だ。


 伸ばしてる髪の毛がウザイとか、女の子の前だとやたら知識人ぶるのが笑えないとか、ラブレタードッキリに簡単に釣られてちょろ過ぎるとか、もう二度と思わない。


「それならさ、二人にちょっと相談してみてもいいかな?」


「おう、いいぜ!」


「いよいよ本題に入るのかしら?」


 こちらに注目を向ける二人の視線を感じる。すると再び僕の心に戸惑いが戻って来た。やっぱり訊いてもどうにもならないかな。


「う~ん、やっぱり止めとこうかなぁ……」


「まあ言ってみろって。俺はよく相談されるし、頼りがいのある男なんだぜ?(チラッ) 自分で言うのもなんだけど、男気があるっていうか(チラッ)」


「さっさと言いなさいよ」


 僕(と何故か冷蔵子さん)に熱い視線を送る長ソバくん。そしてどんどん温度を下げていく冷蔵子さんの瞳。対照的な笑顔を向けて来る二人に対し、僕は冷や汗を流しながら答えた。


「じゃあ訊くけどさ」


 ごくり、と息を飲む二人に向かい、僕は一気に喋った。


「知り合いに忍者の人とか居ない? ちょっとばかしブランクがあってもいいんだけど」







 やはり忍者は絶滅してしまったのだろうか? 忍者勧誘の相談をした後、何故か冷蔵子さんにほっぺたを引っ張られてしまった。なんでそんな事で悩んでいるのよ!? 貴方は!! と捲し立てる彼女の顔を思い出しながら、僕は先輩の背中に向かって話しかける。


「先輩、やっぱり居ないですよ忍者なんて……よっと」


「ふふん。それは違うし!」


 僕の前を走る先輩は、こっちを振り向いてきた。舗装された公園の小路をひた走る。ただ走るのでは無い。段差ではジャンプしたり、ジャンプした時に空中で腰を捻って半回転したりした。


 僕らは今、道にある様々な障害物を華麗に駆け抜けるスポーツを行っているのだ。フリー・ランニングという名前を持つそのスポーツは、平たく言えば忍者への道だった。


 僕の方を振り返ったままの先輩。前を見てないのに、器用に障害物を避け続けている。まあ先輩ならそのくらいは難なくこなすだろう。特に驚きも無い。


「忍者は今も居るんだよ? 君が見つけようとしないだけで、ね!」


 そんなことを言った直後、先輩は空中で二回転半の捻りを入れる。流れるように着地を決める先輩に向かって、僕は少しだけムッとしながら答えた。


「見つけようとはしましたよ。でも居るわけ無いじゃないですか」


 僕だって無為に時を過ごしたわけでは無い。自分なりにニンジャーズのメンバーを探したのだ。


 ニンジャーズに必要なのは忍者だった。そこで忍者を探した結果、最終的に冷蔵子さんからほっぺたを引っ張られることになる。しかも凍るように冷たい目で睨まれながら、だ。


「忍者なんてもう居ないんですよ。時代は変わってしまったんです」


 そう、時代は変わっていくのだ。

 電灯が夜から闇を奪ってしまったように、闇の影たる忍者も失われてしまった。


「居るわけ無いんですよ。だって本物の忍者を見たこと無いですし。忍者の子孫の人たちだって村興しのネタに使うくらいですよ? 全然影に潜んで無いじゃないですか。もう本物の忍者なんてどこにも居ないんです」


 きっぱりと言い切る僕に、先輩はニヒヒと笑いながら呟く。


「少年、気付いてる?」


「なにがですか?」


「さっきから少年は、忍者が居ない理由ばかり考えているよ?」


「えっ……?」


「そんなんじゃ、本当の忍者を見つけても見逃しちゃうよ?」


 イタズラな笑みを浮かべる先輩。

 何かを言い返そうとした時、僕はふと隣を走る影があることに気が付いた。


「……あれ? 大阪さん、なんでこんな所を走ってるんですか?」


 そこに居たのは青い野球帽を被った大阪さんだった。こちらの速度にスピードを合わせながら隣を走っている。


「なんでって、チーム大阪の練習や。坊主たちも練習か?」


「練習、っていうか……生き様ですかね? ねえ先輩」


「そうよ少年! 私達は闇を駆け抜ける最強の影だからね!」


「その設定はなんやねん!?」


「いや分かる! 分かるばい!」


 絶叫する大阪さんの後ろから聞き慣れない男の声がした。チラリと振り向くと、見たことの無い二人の男の姿がある。


 二人の男達は何故か僕らの輪に加わって来た。同い年くらいだろう。一人は頭にバンダナを巻いた男で、もう一人は顔にバイク用のゴーグルを付けている。


 五人の集団になりながら、僕らは次々に障害物を飛び越えていく。軽やかに響くステップの音と共に、バンダナをした男が口を開いた。


「最強の影……! 熱い……熱いソウルばい! オイラ感動した! 兄ちゃんもそうばい!?」


 盛り上がるバンダナの男とは対照的に、ゴーグルの男は冷めた声で言う。

 

「そうか? 俺は逆にお近付きになりたくないと思ったけどな」


 誰だこの人たち? 僕がそういぶかしんでいる間にも、謎の二人組は言い争いを始めていた。


「兄ちゃんは分かって無いばい! 男子なら誰でも最強の影に憧れるとよ!」


「男子? 俺の目には女に見えるが……?」


 ゴーグル男はジロジロと、不躾ぶしつけな態度で先輩を見つめた。やがて何かに納得したのか、視線をバンダナの方に戻した。


「お前が男だと言うのなら、そうなんだろう。言われてみればそんな感じがする。という事は……女装なのか。危うく騙されるところだった」


「誰が女装だ無礼者めキーーーック!」


「ぐあっ!?」


「に、兄ちゃーーーん!?」


 先輩の怒りにより蹴り飛ばされた謎のゴーグル兄ちゃん。凄い勢いで横っ飛びに吹っ飛んでいく。そのままフェードアウト……かと思いきや、空中で体勢を立て直した!?


 ゴーグル男は吹っ飛びながらも半身を捻り、体の向きを変えてコの字型の車止めを蹴った。横向きに流れていた力のベクトルが縦向きに変化する。


 そしてそこからさらに体に捻りを入れた。流れるような受身だった。先輩から受けた攻撃力を別の力の流れに転換し、分散させているのだ。


 着地。そして着地後に残った慣性により前転すると、ゴーグルの兄ちゃんは悠々とした姿勢で立っていた。先輩から受けた蹴りの威力は完全に消えているようだ。


「先輩の攻撃を軽くいなした……!?」


 自慢じゃないが先輩の打撃力は伊達じゃ無い。まず目に見えない。それに止められない。慣れた僕ですら打撃点をずらすのが精一杯だ。それを初見で見切ってしまうとは。


「あの人は一体?」


 驚きのあまり僕は立ち止まっていた。

 何者だ? と漏らしかけたところで、大阪さんがニヤリと笑う。


「驚いたか坊主? 奴らはそんじょそこらの奴とは強さが段違いやで? 見てみい。あの超人女の蹴りも、あいつらには通用せんかったやろ? なぜならあいつらこそが王の称号を持つ者なんや。最強の影っちゅーのになりたいなら、まずは知床しれとこ兄弟を超えることやな……!」


 そう言って大阪さんは、僕らから少し離れた所にいるゴーグル男とバンダナ男を指し示した。二人はなにやら話し合っているようだ


「おい、無礼者と言われてしまったぞ?」


「当たり前ばい! 兄ちゃん、あの人は女の人たい! オイラが男子ならって言ったのは言葉の綾とよ! それくらい気付くばい! このバカチン!」


「そうか。お前がそう言うんなら、そうかもしれないな」


「さっさと謝ってくるたい!」


「それはその通りだろう。だが弟よ、見てみろこの腕を。さっきの蹴りを受け止めてからすんごい痺れたままなんだ。そして俺の足を見てみろ。すごい震えてるだろう? 正直に言おう、俺はおびえている」


 たらりと一筋の汗を流す大阪さん。どうやら二人の会話の内容は、大阪さんの期待した物では無かったらしい。


 兄ちゃんと呼ばれた男は、ゴーグルを付けたままの顔をこちらに向けた。先輩の蹴りを受けた腕を痛そうに擦りながら、てくてくと大阪さんのすぐ前まで歩いて来た。


「おいリーダー、あの女の人に謝ろうと思うんだが、怖いんで一緒についてきてくれないか?」


「せっかく俺がお前らをカッコよう紹介しようとしてるのに、全部台無しやないかこのアホたれぇ!!」


 ガクガクと足を震わせながらそっと呟くゴーグル兄ちゃん。チーム大阪のメンバー。王の称号を持つ男を前にして、大阪さんは涙目で叫んでいた。





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