15日目 高速戦士フラップラー
「絶対にいるのよ、高速戦士フラップラーって」
「私もそれには聞き覚えがあるわ」
先輩の語る謎のヒーローに対し、冷蔵子さんが同意していた。
いつもの部屋に、僕、先輩、冷蔵子さんがいる。
定番メニュー、いや定番のメンバーだ。
何がどういう定番なのか、自分でもいまいち分からないが。
先輩と冷蔵子さんが言う高速戦士なんたら。
僕はそれには聞き覚えも思いでも無い。
というか、そんなヒーローが実在するんだろうか。
「なんですか、その高速戦士フラフープって」
とりあえず聞いてみた。
実際のところ、それほど興味があるわけでも無い。
ただ何となく、自分だけは知らないという状況は耐え難いものがある。
「フラップラーよフラップラー。あー何か今、凄い思い出しそうだった!」
予想以上に盛り上がる先輩。
さらに、意外なほどに冷蔵子さんも食いついてくる。
「決め台詞は確か、シャイニング斬(ざん)! だったわ」
「そうそう、シャイニング斬(ざん)! 眩しくて何も見えないのよね」
「今思うと、あれは制作費を浮かすための演出だったと思えるわ」
「う~ん。気付いちゃうと何か悲しくなってくる感じ……」
うっわー。話についていけない。
辛い。何か辛い。
2人には凄く楽しい話みたいなのに、僕は全然楽しさを感じられない!
この流れ、どうにかしたい。
「なんであれ、いっつも剣を振り回していたのかしら?」
「確かに、そんな覚えがあるわね」
「ヒロインも斬ったわよね、確か」
「斬ったの!? ヒロインを!?」
さあどうにか会話の流れを変えよう。
そう思っていた僕だったが、先輩のセリフに思わず叫んでしまった。
「そうよ。なんでか知らないけど斬ったのよねー」
「……今、薄っすらと思い出してきたわ。確か、ヒロインは偽者だったのよ」
「あー! あー! そうそう、斬られたヒロインは敵の用意した偽者だったわ!」
なんだ、偽者か。そりゃそうだ、本物のヒロインを斬るわけが無い。
なるほど、敵の作った偽ヒロインを斬ったのだろう。
その後に本物のヒロインを救出して万々歳、と言った感じか。
「あーでも、どうやって偽ヒロインだって見抜いたんだっけ?」
「愛の力とか何とか言っていた気がするけど……ビジュアル的にも分った気がするわ」
「でも、最後は本物のヒロインに撃たれて終わるのよねー」
「悲痛なストーリーだったわ」
「ヒロインに撃たれたの!? どういう流れで!?」
さっきまでは会話のネタを変えようとしていた僕。
しかし、今や高速戦士フラップラーに興味津々だ。
「う~ん……確かにフラップラーはヒロインに撃たれたのよ。でも子供の頃に見たっきりだから、細かい所覚えて無いのよね」
「私も、何だか悲しい流れだったのは覚えているけれど……どんな話だったかしら?」
「何とか思い出して下さいよ。気になって仕方無いんですけど」
「ちょっと待って。今こう……ぼんやりと浮かんで来て……」
腕組みしながら、先輩は目を閉じている。
まるで瞑想しているようだ。
ややあって、先輩はカッと目を見開いた。
「思い出した!」
「おおっ!」
「偽ヒロインはアイシャドウがきつかったわ!!」
「そこじゃねえよ!」
僕のツッコミは、どこまでも響いた……。