14日目 嵐の日に
朝から降り始めた雨は、今も降り続いている。
雫が窓を伝い、部屋に不思議な影を作り出していた。
机の上には一冊の本。
黒い皮製のカバーで覆われたそれは、冷蔵子さんの私物だ。
「先輩」
「ん? なーに?」
「あの本のタイトル、気になりませんか?」
本の持ち主である冷蔵子さんは、何故かいない。
以前から何となくタイトルが気になっていたが、
カバーがあるために分らなかったのだ。
「人の持ち物を勝手に探るのはダメよ?」
「そうですね」
その通りだったので、素直に肯いておく。
ピカッ……ゴロゴロゴローーー!
雷が鳴り始めた。
雨は止まない。
「先輩」
「ん?」
「僕達は、もっと積極的になっても良いと思いませんか?」
「ホワット!?」
「つまり……この部屋に集まった者同士、もっと友情を深めるべきだと思うんです」
「ああ、えっと、つまりどういう事?」
「お互いの趣味とか、興味のある事とか、趣味を知るべきだと!」
「う~んと、う~んと……あれ? 趣味って2回言わなかった?」
「そうです、趣味を知り合えば、もっと仲良しになれると思うんです」
趣味ねえ……と、先輩はしばし考え込んだ。
「急に言われてもパッと出てこないもんね」
「そうですか。趣味と言えば、僕の趣味は読書なんですが」
「切り替え早っ!! もうちょっと私に興味持ってくれない!?」
先輩は何やらツッコンで来たが、僕はあえてそれを無視して話を続ける。
「どんな本を読むのかにもよって、人の性格って分ると思うんですよ。……おや、あんな所にも本が」
そう言って僕は自然な動作でとある本を指差した。
冷蔵子さんの私物の本だ。そのタイトルは、カバーに覆われていて見えない。
「あの娘の持ち物よね。なんてタイトルなのかしら?」
計画通り。僕は密かに笑いながら、先輩を誘導していく。
「どんなタイトルなんでしょうね。気になりますね」
「うん。でも、人の持ち物だからね。カバーをあけて勝手に見るのはダメだよ?」
「……そうですね」
実にその通りだったので、僕は素直に肯いた。