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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
VSオカルト同好会編
139/213

139日目 エックス氏の悲劇(3) ザ・ロックスミス

前回に続いて作者の趣味全開です。




「え~っと……それで、なんやったっけ? ザ・鍵師?」 


 B級映画のタイトルのような単語を口にする大阪さん。

 公園の街灯に縛られたまま、エックス氏は嘲笑した。


「魂の座と鍵だよ、イエス君」


 貼り付けたような笑みを浮かべたまま、エックス氏は言葉を紡ぐ。


「神聖なる魂の地に作られた部屋。部屋にはデータがあり、神聖な地の霊性を帯びた人格データは聖なる属性の情報因子と成る。人格はただのデータでは無い。かといって純粋に神聖な存在でも無い。ただの鉄片が、磁石とくっつくと磁力を帯びるようなものだな」


「ワケわからへん……!」


 大阪さんは額の汗を手の甲で拭った。

 あ~あ、だから話し合いなんてしなけりゃ良かったのに。


 後悔が先に立たない男、大阪さん。

 自らの選択の責任を果たすように何とか返事を返した。


「じ、磁石? それが何で俺がイエスゆう人の生まれ変わりになるんや? なんや、その辺りの話しが全然無かった……? あったんやろうか? いや、やっぱり無かった気がするんやけど」


「ふむ。君がイエスの生まれ変わりである理由か。そうだな……その理由を語るのは少し難しい。人類の霊性、五感を超えた感覚。その呼び名は幾通りもあるが、確たるものは決まっていない。霊感。シックスセンス。言葉だけは増えて、本質には辿り着けないままでいる。つまり……」


 ゴクリと息を飲む僕らの前で、エックス氏は断言した。


「君にも分かりやすく言えば、俺の"かん"だ」


「か、勘やと!?」


 公園の高台に大阪さんの叫びが響き渡る。

 一陣の、風が吹いた。


「……つまり根拠が無いって事やないかッ!?」


 絶叫する大阪さんにしれっとした顔を向けながら、エックス氏は弁明を始めた。


「おおっと、君はケェルケゴールの言葉を知らないか? ヨーロッパの哲学者なんだが、彼はこう言った。"信頼の跳躍"をする覚悟を決めろと。この世は不条理に満ちている。真理に至るには従来のやり方では足りんのだ」


「お前が不条理って事だけは理解出来たわ!」


「ほう!? 理解は大いなる前進だよ! あはーっははは!!」


「は、話しが噛み合わへん! もうアカン! ……誰か助けてくれへんかなー?」


 こちらをチラチラと見てくる大阪さん。僕は全力で視線を反らした。


「我々は理論に縛られながら観察を行う。これを理論負荷性と言うんだが。リンゴが落ちる所を見て、それが物理現象だと考えるのは何故だ? どうしてポルターガイストが原因だと考え無い? それが理論負荷性だ。俺達の思考は、気付かない内に縛られている。

 理論負荷性の檻を抜け出すには、最初に跳躍した理論を組み立て、それに沿って観察を行うわけだ。一見して不条理な考え方だが――、」


 自分で自分の考えを論理的では無いと認めながら、エックス氏は続ける。


「その方法こそが唯一真実に近づけるのだ。人格の部屋。それは誰でも開けられるワケでは無いと俺は考える。それを為すのが鍵だ。鍵の種類は無限だろうか?

 いや、俺は有限だと考えた。遺伝子が四つのアミノ酸のパターンで作られるように、人格の部屋の鍵もまたパターンが決まっているだろう。そして……」


 一端言葉を切ると、エックス氏は何かを考えるように黙り込んだ。

 が、それも一瞬で、再び彼の長口上ながこうじょうが始まる。


「鍵と同じく人格もまたパターンが決まっている、と俺は考える。これは何も突飛な話では無い。何世代、何億もの人間が生まれれば、双子のようにそっくりな人格を持つ人間も現れるはずだ。そうで無いと誰に言える?

 こんな実験がある。まとに目掛けてボールを投げるんだ。的にボールが当たるのは"偶然"だが、ずっと的に向かってボールを投げ続けるならそれは"必然"だ。

 人格もそうじゃないか? 湧き出る泉のように命が生まれ続ければ、"偶然"同じような人格が現れるだろう。しかしそれは"偶然"では無く、一種の"必然"でもある――」


 ここでは無いどこかを見つめて。

 夢見るような――陶酔に満ちた表情のまま、彼は続ける。


「生命の営みはある種の試行実験だ。繰り返す試行を人は輪廻と呼ぶのでは無いか? そして輪廻のかえる地は魂の座。俺達はみんなその地に還るのだ。あるいは最初からそこに居る。さながら巡礼者のごとく」


 そこで急に夢から覚めたように、エックス氏はハッとしながら、


「おっと、話が横にれたな。俺としたことが。はっはっは」


「横にれとったんか……?」


 何が何だか分からない話は、正道も横道も同じに見える。

 つまりどちらも平等に、分け隔てなくワケが分からない。

 呆然としている大阪さんに気付いているのかいないのか、エックス氏は改めて口を開いた。


「それで転生の話だが、俺は人格の近似性がそれを引き起こすと考えいてる。ある程度の近似性があれば、過去の人物の記憶が収められた部屋を開けられるはずだ。目に見え無い神聖な因子による人格の遺伝。それが転生。もっとも全ては……」


 そこで言葉を止めると、自嘲するように笑い、


「"跳躍した理論"による推測に過ぎないのだがな。ふふふ」


「……ん? ああ、やっと話が終わったようやな」


 それで、と呟きながら、大阪さんは僕の方を向いた。


「俺はどないしたらええんや?」


「ええっ!? いや、それを僕に聞かれても困るんですけど!?」


「俺にはどう対応すれば良いのか分からへんのや……! 坊主も協力するって誓ったやないか! あれは嘘か!?」


「大阪さんが話を聞くって決めたんじゃないですかッ!? やっぱり放置しとけば良かったんですよ!」


「せやかて、しゃーないやん!!」


 心の底から叫ぶように、悲痛な声を上げる大阪さん。

 あ、よく見ると涙出そうになってる。


 しかし対応と言っても、僕に思いつく手は"あれ"しか無い。

 やりたく無いんだけどなぁ~。……やるしか無いか。


「こうなったらあの手しか無いですね……!」


「あの手? どの手や?」


 僕はそっとポケットに右手を入れる。

 釣り銭なんかを財布に入れず、ポケットにそのまま突っ込んでいるのだ。

 そこから目当ての硬貨を握り締め、別のポケットから紐を取り出した。


「ここに五円玉と紐があります」


「ふんふん」


「そして五円玉の穴に紐を通してぶら下げます」


「!! 坊主、お前まさか……!?」


 何かに気が付く大阪さん。

 恐らく大阪さんの想像は間違っていないだろうと予想しつつ、僕は次の言葉を放った。


「そう……催眠術ですよ。こうやって五円玉を揺らして暗示をかけて、エックスが僕らに関わって来ないように思考を誘導するんです」


「効くわけ無いやろッ!? 何を考えとんのや!!」


「じゃあ大阪さんが案を出して下さいよ!! どうしろって言うんですか!!」


 ギリギリと顔を突き合わせて睨み合う。

 しかし大阪さんに代案などあろうハズも無く、やがて矛を収めた。


「ダメもとでやってみよか……ほんじゃ、頼むで坊主」


「任せて下さい。これでも昔は催眠術を散々練習してましたから」


「ホワッツ!? 何が目的でや!?」


 はて? そう言われれば、なんで催眠術の練習なんかやってたんだっけ?

 改めて聞かれると思い出せず、適当に返事した。


「……そこに五円玉があったから、ですかね?」


「なんやどこぞの登山家みたいな理由やなぁ」


 ぶらぶらと紐を通した五円玉をぶら下げながら、僕はエックス氏の前に立った。

 街灯に縛り上げられた彼は、それでも泰然とした態度でいる。


「ソロモン王か」


 エックス氏は僕に何やら変な名前を付けているようだ。

 どう言う意味だろうか?


 気にならないと言えば嘘になる。が、彼は頭が沸騰してる人なのだ。

 きっと大宇宙からの電波か何かだろう。


 理由を尋ねるだけ幸せ度数が減るに違いない。

 深く考えずスルーする事を決めて、僕は五円玉を突きつけた。


「さあて、これを見てもらいますよ」


「五円玉……? ふっ、俺に暗示をかける気か? 残念だが俺に暗示は効かん!」


 自信満々にそう言うと、エックス氏は豪語する。


「目を閉じれば良いだけだからな!」


「閉じたら潰します」


「潰す!? 何をだ!? 貴様、笑顔でさらりとエグい事を……。恐ろしい奴!」


 言葉一つで退路を断ちながら、僕はエックス氏に催眠術をかけ始める。

 それがまさかあんな悲劇に繋がるとは。

 今の僕には理解できず、また理解したとしても止めるはずも無く。

 悲劇は静かに、冷酷に、そして確実に進んでいた。





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