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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
いつもの三人編
13/213

13日目 時の調べ



「牛乳なら俺に任せろ~ドブドブ~」


「やめて!」


意味不明のセリフを言いながらカップラーメンに牛乳を注ぐ先輩。

僕は割と本気で非難した。

いくらカップラーメンとは言え、食べ物を冒涜してはいけない。


「んだよ~こういう食べ方が美味しいらしいんだよ~。良いだろ~」


ヤサグレ気味の態度な先輩。

きっと購買のパンに飽きたのだろう。


「本当に美味しいんですか? 美味しそうに思えないんですけど……」


「う~ん……失敗無くして成功も無いしぃ」


先輩自身、半信半疑で作っているらしい。

その目は捕食者というより科学者。

己の実験の成果を舌で判断しようと待っている。


「失敗を恐れていては、前には進めないわ」


「明らかに失敗しそうな時は、避けて通るのが知恵じゃないですかね」


「ふふん、愚かな判断ね、少年。それこそが失敗するよりも性質(たち)の悪い考えよ」


やたら自身満々に語る先輩。

そのドヤ顔にイラッとした僕は、少々つっかかった返事をした。


「そういうの、考え無しって言うんだと思いますよ」


棘のある返事に、先輩は怒るでも無く、きょとんとした顔をした。

そのすぐ後にどこか大人びた表情をすると、僕に語りかけてきた。


「失敗を恐れるのって、何でだと思う?」


「何でって、そりゃ……」


言いかけて言葉が止まる。

失敗を恐れる理由は、沢山あった。

沢山あるから、一言では表せない。

とにかく失敗は悪いからだ、なんて言い方はそれこそ考えが無い。


「誰だって、自分をよく見せたいのよ」


返事に窮する僕に、先輩は滔々(とうとう)と語りだした。


「失敗すると、格好悪い。だから失敗を怖がる。でもね」


ふいに、先輩は真っ直ぐな瞳で僕を見た。

貫かれた思いがした。何より、先輩の誠意に。

冗談半分や冷やかしでは無い。

確かに彼女は、僕に何かを伝えようとしている。それが分った。


「格好悪い自分を隠して、それに慣れてしまうのは怖い事よ」


「慣れる?」


「うん。自分の嘘に慣れるとね、何が本当だったか分らなくなっちゃうの」


まるで自戒するように、先輩は目を伏せた。


「自分が何を為すべきなのか。それは他人に決められる事では無く、

自分自身で決めないといけない。そう、思うの」


そう言うと、先輩は少し照れたようにはにかんだ。


「まあ、死んだお爺ちゃんの受け売りなんだけどね」


気恥ずかしそうに笑う先輩。

自分が何をするのか、自分自身で決める、か。

言い言葉だと思う。その意味を、十全に分るとは言えない僕でも。

窓の外には青空が広がっている。切ないくらい、綺麗な空だった……。


「どうでも良いけど……」


そんな時だった。

今まで黙って本を読んでいた冷蔵子さんが、ふいに言った。


「そのラーメン、伸びてるんじゃ……」


空気を読んでか、少し恐る恐ると言った感じで指摘する冷蔵子さん。

そりゃそうだ、今まで何だか言い話をしてたんだ。

ラーメンが伸びるとかそんなの……ラーメン!?


僕と先輩と冷蔵子さんの目が、先輩のカップラーメンに集まる。

謎の理論により牛乳が注ぎ込まれた実験ラーメン。

3分は……とっくに過ぎていた。


「うはぁ」


ぽろりと呟く先輩。

ただでさえ伸びているのである。

このラーメンが美味しい確率は……いや、皆まで言うまい……。

怖い。味を想像するのが怖い。


先輩は、きっと食べるのだろう。

何となく、冷蔵子さんと目が合った。


(……言わなかった方が良かったかしら?)


(いや、悪く無い……。きっと君は、悪くなかったんだ……)


視線と視線で会話する僕ら。

覚悟を決めた先輩が、ラーメンを啜る音が聞こえる。

僕はもう一度、部屋の窓から外を眺めた。

窓の外には青空が広がっている。切ないくらい、綺麗な空だった……。





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