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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
乙女のワルツ編
106/213

106日目 限りなくゼロの可能性




「先輩、これは一体どういう儀式でしょうか?」


一言で説明すれば僕は縛られていた。

座ったままの姿勢でイスごとロープで縛り上げられている。

そして目の前の机の上には真っ白なハリセン。


果たしてこれから僕の身に何が起きるのか!? 乞うご期待!

……なんて言ってる場合じゃねえ!?


なにコレ!? 

どこの部族の儀式なんだ!? 

そしてロープはどこから出て来たんだ!?


「少年はこれから真人間になるんだよ?」


「いわゆるスパルタ式ね」


当たり前のように言う先輩と冷蔵子さん。

彼女達の目は何故か笑っていなかった。

僕はタラリと汗を流しながら、確認するように訊いた。


「この際、縛り上げられた事は問いません。そのハリセンは……僕をはたく為にあるんですよね?」


「その通りだよ少年」


何故か胸を張る先輩。

どこか自慢するように目を閉じながら説明を始める。


「これから少年に向かって素敵な恋人同士の会話をします。回答に失敗したら、その時はハリセンアタックどーん!」


「あなたが真面目に答えれればセーフよ。簡単でしょう?」


捕捉するように言う冷蔵子さん。

なんだか良く分からないけど、どうやら僕はハリセンでアタックされる運命にあるらしい。


ちらりとハリセンの白い輝きを見つめる。

これなら叩かれてもダメージは低そうだ。


そして今度は冷蔵子さんを見る。

大丈夫、彼女は腕力は対して無い。

例えハリセンを持ったとしても、ハリセンを握った美少女になるだけ。

僕が恐れる要素はどこにも無いだろう。


最後に先輩を見た。

朗らかな笑みを浮かべる先輩。

一見してただの天然お姉さんだが、現在僕が最も警戒しなければならない相手だった。


握力が軽く人類の限界を超えている先輩。

エアーソードで人体切断を可能とする彼女が持てば、ハリセンですら凶器となり得るだろう。


僕はそっとロープの縛り具合を確認した。

ガッチガチやん。ヤバイ、抜けられない。逃げられねえわコレ。

そう判断するが早いか、僕の口は生き残りをかけた舌戦へと向かっていた。


「た、タイム! ルールが曖昧過ぎるんじゃないかな!? もっと詳しく決めるべきだと思うよ!」


「どこが難しいのよ。簡単じゃない。私と先輩さんが交互にあなたに会話をするから、あなたは真面目に答えれば良いだけよ」


面倒臭そうに答える冷蔵子さん。

おさげみたいにしている自分の髪を、くるくると指に巻きつけている。

そんな彼女に向かって僕は吼えるように言った。


「真面目かどうかってのは誰が判断するのさ!? それに、僕に与えられるのは罰ゲームだけじゃないか! こんな不公平なゲームは成立しないよ!」


そう、このゲームのルールは彼女達に有利すぎた。

ゲームとしては確かに簡単な物だ。

彼女達が質問し、それに対して僕が答えれば良いだけ。

そしてそれはクイズでは無く、単に僕の返答の真面目度を測るものだろう。


しかし一体誰が僕の回答を判定するのか?

恐らくは設問者である彼女達自身だろう。

つまり彼女達の気分次第で僕の勝ち負けが決まるのだ。

まさにイカサマとも言える状況だ。


それに、ゲームに勝っても僕が得る物が無い。

負ければハリセンアタック。それだけだ。

さらにそこに先輩が入る事で、罰のデス度が一気に急上昇。


明らかに公平性を欠くこのデスゲーム。

勝利への条理も道理も見出せない!

狂気の沙汰からシャケのように逃れようとする僕。

そんな僕に無慈悲な声がかけられた。


「何を言ってるのかしら? これはゲームじゃなくてリハビリよ?」


「少年はお遊び気分が抜けないねー」



――そうか!



僕は冷えた方程式を理解するように気付いた。

そう、これはゲームじゃない。処刑だ。

このイスに縛られた時点で僕の運命は決していたのである。


時に残酷な現実を前にして。

僕はふっ、とニヒルに笑った。


「放せー! クソッ、こんな事が許されてたまるか! 捕虜への虐待はノー! 国境無き記者団、助けてー!」


「もう。またバカな事を言って。さっさと始めましょうかしら?」


「そうだねー。少年がこれ以上手遅れにならないようにね」


月の女神のように冷たく告げる先輩と冷蔵子さんを前に。

僕は囚われた鹿のように、いつまでもジタバタと足を動かしていた。




「じゃあ私から行くよー!」


先輩が元気良く言った。

僕の傍らにはハリセンを持った冷蔵子さんが立つ。

どうやら先輩の会話の時には冷蔵子さんが、冷蔵子さんの時は先輩がハリセンを持つようだ。


上機嫌な先輩は、深い色をした瞳で僕を見据える。

そしてズビシと指を突きつけながら訊いてきた。


「今日の私は普段と違います! さあどこが違うでしょうか!」


むふふん、と口を閉じる先輩。

縛られた僕、指を突きつける先輩、ハリセンを持つ冷蔵子さん。

僕達はそのままの姿勢で固まり、部屋の中は静まり返る。

いくら待ってもそれ以上の会話は無かった。


……はっ?

ちょっと待って、ノーヒント!?

何のヒントも無しに、訳の分からない間違い探しっすか!?

慌てて僕は叫んだ。


「ヒント無しですか!? それはちょっと無理ですよ!」


瞬間、僕の目の前にハリセンが振り下ろされる。

机の上を叩くハリセンの音にビビる僕に、冷蔵子さんが無慈悲に言う。


「これは恋人同士の会話なのよ? それを踏まえて会話してちょうだい。今のはセーフにしてあげるけれど、次からはアウトよ?」


「て、手厳しい……!」


予想以上に困難なルールに涙を堪える僕。

泣いたって逃げられない。

歯を食い縛って頑張るしかない……!

いつもの先輩と違う部分を血眼になって探した。


まず服装だけど、うちの学園は私服では無く基本的に制服着用だ。

まさか制服が違うって訳は無いだろう。


次にアクセサリーの類を疑った。

しかしこれも可能性は薄い。


校則がその手の事に厳しいし、何より先輩はアクセサリーを好まない。

特に金属製の物はかなり苦手だと知っている。

たまに自然素材っぽい物を付けてる時もあるけど、今日は見あたら無かった。


ぐぬぬ……!?

一体どこが違うと言うのだ……!?


「はい、あと五秒」


「ええっ!?」


突然タイムリミットを切られて僕は慌てて冷蔵子さんを見た。

冷蔵子さんは淡々と秒読みしていく。

ええい、ままよ!

決心すると、僕は震える声で叫んだ。


「か、体のキレが普段より良い! そうでしょう、先輩!?」


「ブッブー!」


先輩の否定と共に、冷蔵子さんはハリセンを振るった。

頭に縦にでは無い。横っ面をはたくように、僕の左頬を一閃する。

その叩き方は完全にサディストのやり口だった。


「痛い! マジで口の中切った!」


「耐えるのよヘレン! これは愛のムチよ!」


痛がる僕を尻目に、完全にサリヴァン先生の気分に浸る冷蔵子さん。

盲目かつ難聴のヘレン・ケラーは確かに触覚を頼りに言語に目覚めたが、果たして心のリハビリにそれは必要だろうか!?


様々な疑念を抱えつつ。

とりあえずは正解を訊いておくか……。

僕は傷口から広がる鉄の味を感じながら先輩に視線を向けた。


「ちなみに正解は何だったんですか?」


「もう、少年なら気付いてくれると思ったのになあ。ほら、髪の毛のシャギーを普段よりも鋭くしてるんだよ」


「ソ、ソウデスカー……。」


憮然として答える先輩に、おざなりな返事を返しながら。

改めて正答の望みを薄くする僕だった。





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