表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野良猫と拳銃  作者: ゆん
僕の世界が変わった日
7/9

僕の世界が変わった日 07

「バッカじゃないの!? いくら不良を相手にするからって銃を持ち出してんじゃねえよ!!」

「殺してはいない、麻酔銃だ」

「何あんた手加減してやったみたいな言い方してんの!? 相手にしてんのはヤクザじゃない、ただの意気がった不良なの! どんな馬鹿でも更生できんだから銃で脅すな!」

「脅しで使ったわけではないぞ」

「本気で使った方がもっと悪いっつーの!!」

 乱入してきた高瀬は今井に向かって発砲しようとしたが、慌てて姫宮が間に入って事なきを得た。不満そうな高瀬を無理矢理言いくるめる。

 嫌な予感がして部屋から出ると、そこには高瀬の銃にやられたのだろう、不良の屍がいくつも転がっていた。高瀬が言うには麻酔銃らしいからただ眠っているだけなのだろうが、起きたときはきっと銃撃されたとショックを受けるだろう。

 銃撃した本人は全く悪びれのない様子でふんぞり返っていた。スーツの上に羽織っている薄手のコートに黒い染みがついていて、頭が痛くなってくる。

「俺を敵にまわすとはいい度胸だな」

 絶対零度の視線で今井を睨みつけ、銃を突きつける高瀬に姫宮はため息をつく。

 確かに今井の取り巻きたちは双子に手を出そうとしていたけれど、もとはといえば高瀬が双子に心配をかけるからいけなかったのだろうに。

 自分の事はきっちり棚にあげて、高瀬は続ける。

「俺の所有物に手を出したんだ、それなりの覚悟はできているんだろうな?」

 けれど高瀬の言葉で姫宮の思考が止まる。

 所有物とはどういうことだろう。双子の話ではないのだろうか。

 今井は軽く両手をあげながら小さく笑って口を開いた。

「やっぱ姫宮はあんたのもんだったか」

「ふん、貴様など到底俺には及ばん」

「はっ言うね」

 姫宮を置いて話を進める二人の会話を聞きながら、姫宮はまたも頭が痛くなってきた。ちょっと待て、誰が誰の所有物だ。

 高瀬は銃を下ろすとスーツにしまい、姫宮の腕をとって踵を返した。いきなりの行動に姫宮は慌てて口を開く。

「た、高瀬? ちょっと、どこ行くの」

「帰るぞ」

「は? あたしまだあいつらに用事が、」

 転がっている不良たちを踏まないように注意しながら進む。高瀬はがんがん蹴り飛ばしていたが。

「放っておけ。奴が責任をとるだろう、男ならな」

 はっきりと告げられた言葉に、姫宮は黙る。

 本当は姫宮が責任をとるべきではないのだろうか。正しい道を進ませることができなかったのだから。

 けれど高瀬の力が強くて、腕を振り払うことができない。

 振り返ると、今井はあの暗い部屋から出て姫宮たちを見送っていた。目が合って、小さく微笑まれる。

 その笑顔が晴れやかに見えて、姫宮は今井に任せることに決めた。今度はきっと間違えないだろうから。


 建物を出ると外は真っ暗だった。夜が更けている様子に、姫宮は随分と長い時間あの部屋に閉じ込められていたのだと気づく。

 建物の目の前に停められていた高級車へ押し込まれた。乱暴に座席に転がされて文句を言おうと口を開く。けれど高瀬の顔が急に近づいてきたので、姫宮は咄嗟に己の口を手で覆いぎゅっと目を閉じた。

 手の甲に柔らかいものが触れる。恐る恐る目を開くと、高瀬が機嫌を損ねたようで、鋭く睨んでいた。

 むうっと眉間に皺を寄せた高瀬は姫宮の手をどかそうと腕を掴む。無駄に力の強い高瀬と力勝負なんて負けるに決まっている。姫宮はあわてて口を開いた。

「ちょっと待てって! 落ち着けこのバカ社長!」

「ほう。よほど激しい口付けが希望か」

「ごめんって言葉のアヤ! だからちょっと止まれってば!!」

 姫宮の余計な一言で高瀬のこめかみが引きつった。危うく濃厚なキスを仕掛けられそうになって速攻で謝る。すると高瀬は渋々ながらも力を緩めた。

 体を離して姫宮の向かいにある座席に腰を落ち着け、苛立った様子で足を組んだ。早く話せと目が語っている。姫宮は心の中で、どれだけ自己中なんだこいつ、と文句を言いつつ、体を起こした。

 とりあえず一回、息をつく。いろいろあって疲れているのだ。今が何時なのかもわからない。ふとコンビニのバイトは大丈夫だろうかと考えた瞬間、またしても高瀬が襲い掛かってきた。

「ぎゃーーー!!」

 ばふ、と座席に押し倒されて、必死に高瀬の口を塞ぐ。すぐさま手を外されて、高瀬が唸った。

「遅い」

「遅いったって、ちょっと一息ついただけでしょうが!」

「違うことを考えていただろうが」

「まあ今何時なのかなとは思ったけど! 忍耐力ないわねあんた!!」

「喧しい。それ以上喚くなら本当に口を塞ぐぞ」

 高瀬の言葉に姫宮はぐっと言葉を止めた。急に大人しくなった姫宮を見て、高瀬がため息をつく。初めから大人しくしておけばいいものを。

 高瀬の指が姫宮の髪をさらさらと梳いた。その指が思いのほか気持ちよくて、姫宮は目を細める。高瀬も小さく微笑みを返し、言葉を促してきた。

「どうした。何かあったか」

 高瀬の優しい問いかけに、姫宮は胸が苦しくなる。いきなり優しくなるなんて卑怯だ。

 高瀬の目を見ていられなくなって、姫宮は視線を外した。

 言いにくいが、言わなければ解決しない。

 姫宮は一度ぎゅっと目を瞑って言葉を紡いだ。

「……なんでキスすんの」

 それを聞くと高瀬が訝しげに片眉をあげた。姫宮はちらりと高瀬に視線をやって、また外す。

 高瀬は何と答えるだろう。ただのからかいか、遊びか。どちらにしろ、姫宮はこれ以上遊ばれたくなかった。

 けれど、あのとき口づけを拒まなかった姫宮も悪いのだ。その理由は認めたくないけれど、もうわかっている。

 高瀬はしばらく考えるように黙ったあと、ぽつりと言葉を紡いだ。

「……言ってなかったか?」

「何をよ」

「貴様が好きだと」

 言われた言葉の意味が一瞬わからなくて、姫宮は高瀬に目を戻した。そこにはいつもの無愛想な顔。

 聞き間違えたかと首をひねると、高瀬は姫宮の目を見て繰り返した。

 深い深い青が姫宮をとらえて離さない。

「貴様が好きだ。離すつもりはないから側にいろ」

 その言葉に、姫宮は数回瞬きをしてから、顔を真っ赤に染めた。

 高瀬の目を見ていられなくなって視線を外す。けれど高瀬の手が頬に添えられ、促されるままに高瀬へ視線を戻した。高瀬は柔らかく微笑んでいた。

「逆に聞くが。なぜ貴様はあのとき拒まなかった?」

「……っ!」

「俺が嫌いなのだろう?」

 意地が悪い問いかけに姫宮は高瀬を睨みつける。高瀬は姫宮の気持ちに気づいているのだ、きっと。気づいているうえで、言わせようとしている。

 込み上げる羞恥の衝動に任せて、姫宮は荒い仕草で高瀬の胸ぐらを掴み、噛みつくように口づけた。すぐに唇を離すと、驚いたように開かれた青い双眸に映る自分の姿を睨むように見つめる。

「意地悪いこと言ってんじゃないわよ、ばか」

 紡いだ言葉は不満を込めていたはずだけれど、なぜか甘い、拗ねたような響きになっていて。姫宮は高瀬の胸に顔を押しつける。顔が熱い。

 高瀬はくつりと笑った。そんな可愛らしいことをされるとは思わなかった。姫宮の頭を優しく撫でてやり、上を向くよう促す。羞恥に潤んだ瞳を見て、高瀬は顔を近づけた。

 そして、触れた唇。柔らかくて優しい。

「貴様は俺のものだ」

 口づけの合間に囁かれた言葉に、姫宮は歓喜を感じたけれど、あえて口元を引き上げる。綺麗に微笑んで、高瀬の背に腕をまわした。

「猫は自由気ままなものよ。逃げられないようにしっかり捕まえておくのね」

「ふん、言われるまでもない」

「たまゆら」をお読み頂きありがとうございました!

本編「僕の世界が変わった日」はここでおしまいです。

俺様社長と不良娘の恋物語、如何でしたでしょうか。

接触も少なく、いきなりくっついたというなんともサバサバしたストーリーになってしまいました^^;

姫と高瀬の二人がとても好きすぎるため、続編も書いてしまいました。

本編ではサバサバしてる二人が続編ではべったべたにいちゃついてます;

姫の家事情や高瀬の会社事情、学校での二人の様子をのんびり書いていきたいと思ってますので、よければお付き合いくださいませ。

姫が元不良という設定上、多少の暴力描写もありますのでご注意くだ

さい。


***


追記。諸事情にて続編はサイトのみで公開することにしました。

ゆっくりのんびり更新しておりますので、気になる方は面倒ですがサイトまでお越し下さいませ。

最後に番外編を二つだけ置いていきます。

高瀬と姫のなんでもない日常を、よかったら覗いてみてください^^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ