第二章(傲慢の時代~復興の時代~統一の時代)
この作品は拙作『転生者なんて負け組だ』の舞台となっている世界の歴史を主人公ダンカンが語る形式の歴史物語です。
本編を読んでいなくても独立した読み物としてお楽しみいただけます。
第二次暗黒大戦の後、最も繁栄したのはヒトだ。
現在のように世界の大半を支配するようになったのはこの頃からだ。
エルフ族がアルフハイムの森に引き籠り、ドワーフやノームは地表に大きな領土を持たなくなった。
オークやゴブリン達が辺境に隠れ住むようになったから、必然的にヒト族が天下を取った形だ。
この第二次暗黒大戦後の時代をヒトの歴史では『英雄達の時代』や『栄光の時代』と表現されることが多いが、一方で『不毛の時代』、『傲慢の時代』と表現されることもある。
ヒト以外の種族は少なくともこの時代のヒトの歴史を後者で呼ぶ。
この時代、ヒトは領土を大きく広げ、世界の各地で数々の国が生まれた。
ヒトが単独で国家らしいものを築いたのはこの時代が初めてだ。
こうなると転生前の世界の歴史と大きく変わらない。
国と国の興亡だ。
ヒトの歴史を学ぶとき、この時代がもっともボリュームがある。
この時代の歴史では延々と国が生まれては戦争し、滅んでいく。
数えきれない程の国それぞれに王や大貴族、将軍、宰相、大商人に芸術家がいて、政治をして、外交をして、戦争をして、新たな文化が起こり…
正直きりがない。
転生前の世界で例えれば、南北朝、応仁の乱、薔薇戦争、五胡十六国時代を全て網羅するより大変と言ったらわかりやすいだろうか。
それだけにこの時代には多くの英雄や名君が出てくる。
歴史好きであれば学ぶのが一番楽しいかもしれない。
ヒトにとって自分達の祖先の勲しを多く知ることのできる華の時代とも言える。
当時のヒト達も世界の大半を手にして、他種族を抑え、最も思いあがっていた。
そしてヒト同士の争いにかまけ、世界は混沌としていた。
やがて、そのツケがまわってくる。
各国が戦争に明け暮れ、その治世が乱れ始めると、辺境地域での支配力がゆるくなっていった。
そこに闇の種族が付け入り始めたのだ。
ヴァラキア地方は元々オークやゴブリンが多く居住する地域だった。
芽吹きの時代には彼らの王国が繫栄していた。
しかし大戦末期の神々の争いにより、徹底的に破壊され、彼らは散り散りになり、この時代はヒトが移住して支配していた。
いつの間にかヒトの支配が疎かになり始めた辺境部にオークやゴブリンの勢力があらわれ、支配地域を広げていた。
呼応するように各地で、山奥に、森の奥に、洞窟に隠れ住んでいたオークやゴブリンの活動が活発になり、村や町が襲われるようになった。
そして魔王が現れた。
この魔王の正体は不明だ。
メルコルは神々の世界に既に囚われている。
ただ強大な力を持った者であることは間違いない。
元々、メルコルの副官には半神レネがいた。
この世界に唯一残った半神だ。
神々の世界とこの世界が断絶された時に、神性の大半を剝奪され、かなり力を失ったとされているが、とは言え、半神だ。
凄まじい力を持っている。
その半神レネが魔王の座を襲わず、副官として仕えているのだから、新たに生まれた魔王がいかに強大な者かわかる。
この新しい魔王がヴァラキア地方に興ったオークやゴブリン達の勢力を統べた。
ヴァラキア魔王国の誕生だ。
ヴァラキア魔王国は周囲の国々に侵攻を始めた。
敗れた国の村々では虐殺がおき、ヒトがいなくなり、オークやゴブリンが取って代わって居住した。
ヴァラキア地方のごく一部を占拠していただけのヴァラキア魔王国は着々と支配地域を広げ、この地域でもっとも主要な都市、かつての魔王軍の本拠地ブラドをも陥落させ、王都とした。
ヴァラキア地方全域を手中に収めた魔王国は更に周辺の土地へ侵攻を続けた。
呆れるのはヒト族諸王国だ。
ヴァラキア魔王国が出現しても自分達の争いを止めなかった。
中にはヴァラキア魔王国に攻められて苦境にある国に侵攻して、領土を広げた王国もある。
南方ではヴァラキア魔王国と同盟を結ぶヒトの国もあった。
こうしてバラバラのヒト族諸勢力は次々とヴァラキア魔王国に滅ぼされていった。
遂にヒト族は協力してヴァラキア魔王国に対抗しなくてはならないと思うようになった。
ヒト族だけではなく他種族達とも同盟を結ぼうとした。
しかし、これまでのヒト族のふるまいを白眼視していた他の種族は簡単にヒト族勢力とは同盟を結ぼうとしない。
ヴァラキア魔王国軍は北上してアルフハイムの森にも侵攻した。
ダークエルフ達が手引きしたと言われている。
エルフ達もヴァラキア魔王国相手には多勢に無勢で存亡の危機ではあったがヒト族との同盟を初めは拒否した。
各種族は個々にヴァラキア魔王国に対抗したが、ヴァラキア魔王国軍は精強で常に優勢であった。
これは当時のヒト族にとっては意外なことだった。
ヒト族は戦争に明け暮れ、その軍隊は練度が高く、戦慣れしていた。
これまでオークやゴブリンは時折田舎の小さな村を襲撃する程度で、大規模な戦争で組織だった軍事作戦などできないと考えられていたのだ。
これは新しい魔王の統率力によるものといっても過言ではない。
彼は烏合の衆であったオークやゴブリンを短期間で統制の取れた軍隊に育て上げたのだ。
ヴァラキア魔王国はその領土を広げ、人類版図の北部域をほぼ制圧してしまった。
エルフ達のアルフハイムの森も蹂躙され、俺のこちらの世界での故郷カレドニアもその南のアルデアも、アルデアの東のスカニアもヴァラキア魔王国に滅ぼされてしまった。
それまでヒトが支配していた土地にゴブリンやオークが住み、かわりにヒトが山奥や森の奥に隠れ住むようになった。
ヴァラキア魔王国の軍勢は海も越えた。
アルデア、スカニアの各港を占拠したヴァラキア軍は接収した艦隊で北回廊海を渡り、ウェスタリア北岸に上陸した。
たちまちウェスタリア北部に割拠していた国々が滅ぼされてしまった。
当時、ウェスタリアの北東部から中央部にかけてを治めていたテルデサード王国も沿岸部を蹂躙されるとじわじわと侵略され、遂には王都クロンドロイを包囲された。
一方でヴァラキア魔王国と同盟を結んだ南方のヒト族の国々の軍勢も呼応してウェスタリア南部に侵攻した。
俺の住んでいるカサベラもこの時南方人とオークの連合軍に攻められている。
因みにこの頃のカサベラはテルデサード王国の一部ではない。
コルトーニアと言う別の国の王都だったんだ。
ここで奇跡が起きた。
召喚者の登場である。
記録ではヴァラキア魔王国軍にクロンドロイを包囲された夜にテルデサード王は天啓を受けたとある。
即ち、召喚者の召喚方法を知ったのだ。
王は半信半疑で儀式を行った。
こうして最初の召喚者がこの世に現れる。
さて召喚者だ。
召喚者とは何者か?
即ち、俺達転生者と同じ現代日本から転生してきた存在だ。
但し、俺達転生者がこちらで赤ん坊からやり直すとのは違い、元の姿のまま転生してくるんだ。
それも救世主として渇望され、召喚の儀式まで行ってもらって呼び出されてくるんだ。
しかも絶大な力を持った者として登場する。
転生前の世界でも優秀だったのかもしれないが、召喚者の力は桁違いだ。
何か神のご加護を受け、所謂チートスキルみたいなのを授けられているんだろう。
招かれざる忌まわしい存在として蔑まれ、生き延びる事すら厳しい転生者の俺とはえらい違いだ。
当時の記録には召喚者は奇妙な発言をする人物達であったとある。
さぞかしそうだろう。
こっちで赤ちゃんとして生まれる転生者であれば話をできるようになるまで、自分が異世界に転生したことに気づき、心の準備をする時間がある。
しかし、召喚者は転生前の世界から急にこちらに呼び寄せられるのだ。
恐らく混乱するだろうな。
そう考えると召喚者も少しは可哀想な連中だ。
俺は大嫌いだから、同情はしないが。
召喚者達の力は絶大だ。
更に召喚者達には神器と呼ばれる強力な装備が与えられる。
彼らの持つ魔剣や魔法の弓などの神器の出どころはわからない。
召喚者は歴史上、登場する度に凄まじい装備が与えられている。
俺は第二次暗黒大戦で神々が持ち込んだ神界の武器が何かの間違いでこの世界に残されたものだと思っている。
だから普通の人間には扱えない。
召喚者は特別な存在だから神界の装備も使いこなすことができるのだ。
実はそれだけじゃないんだけどな。
とにかく召喚者達の登場で戦局は大きく変わった。
召喚者達を先頭にしたテルデサード王国軍はヴァラキア魔王国軍を押し返し、ウェスタリア北部地方を奪還し、滅ぼされた諸王国の生き残りを解放した。
召喚者達に率いられた軍勢は海を渡り、アヴァロン、ノルメルク地方も奪還し、ヴァラキア地方へ攻め込んだ。
一方で国王に率いられた別動隊はヴァラキア魔王国軍と同盟を結んだ南方人達の軍勢と戦い、一度は占領されていた諸国を回復した。
この頃にはヴァラキア地方へ攻め入る軍勢はテルデサード王国単独の軍ではなく、英雄である召喚者のもとに結集した諸勢力の連合軍となっていた。
エルフやドワーフ、ノームたちの軍勢が合流し、滅ぼされたヒト族の国々の遺民達の義勇軍も参加していた。
後の世で言う光の種族大同盟軍だ。
奪還された地ではヒト族が受けた仕打ちを今度はオークやゴブリンが受けた。
大虐殺である。
占領地では急速にオークやゴブリンが村落を形成し、暮らし始めていたが、それらは全て焼き払われ、住民は皆殺しにされた。
召喚者率いる光の諸族大同盟軍が反転攻勢でヴァラキアの国境地帯に迫った頃からヴァラキア魔王国軍が粘り腰を見せ、一時は取ったり取られたりの一進一退が続くが、結局は光の諸族大同盟軍がヴァラキア魔王国の王都ブラドを落とし、魔王を滅ぼして幕を引く。
ヴァラキア魔王国軍が一時的に粘り腰を見せるようになった理由については後から述べる。
記録によると召喚者達が魔王を倒したとも、召喚者達に恐れをなした魔王が逃亡したともある。
少なくとも魔王の死体が確認されたという記録はない。
第三次暗黒大戦が終わると『復興の時代』が到来した。
大戦で傷ついた各地が復興するのがだから『復興の時代』なのだが、同時に思いあがっていたヒト族が他の種族達と互いに手を差し伸べ合い、共に復興に尽力したことから政治的な『復興の時代』でもあった。
ヒト族の中ではテルデサード王国を中心に復興が進められた。
テルデサード王国はヒト族の諸王国中でも召喚者を呼び出してヴァラキア軍への反攻の中心を担った為、ヒト族の中心的な存在となった。
少なくともテルデサード王国の者達はそう思っていた。
テルデサード王国は特にエルフ族との交流を重んじた。
ヒト族を見下しているエルフ族であったが、大戦の経緯からテルデサード王国には一目を置かざるを得なかった。
そんな中、テルデサード王国がすり寄ってきたのだから、これ幸いと仲良くなった感じだ。
『復興の時代』は短い。
『芽吹きの時代』が十世紀、『傲慢の時代』が五世紀近くあったのに比べるとわずかに一世紀ほどしか『復興の時代』は続かなかった。
魔王国軍の再興が早かったのである。
或いは『復興の時代』は魔王にとって都合が悪かったのかもしれない。
エルフ、ドワーフ、ノーム、ヒトが完全に強固な同盟を結び共に反映すれば、それを覆すのは大変だろうと思われるからだ。
これは俺の勝手な推測だが。
とにかく、まだ前回の大戦から立ち直り切っていない各国に、突如として魔王国軍が襲い掛かったのだ。
魔王は死んでいなかった。
或いは新たな魔王が誕生した。
どちらかはわからない。
そもそもメルコルが神々の虜囚になってからの魔王の正体は誰も知らないんだ。
第四次暗黒大戦は各地で山奥や森の奥深く、洞窟の中に隠れ住んでいたゴブリン、オークの連合軍が各地でバラバラに襲撃をしだしたことで始まる。
これらの魔王国軍は装備も劣弱で前の大戦の装備をそのまま用いているようにさえ思われた。
『復興の時代』は光の各種族が絆を固めており、連合軍の形成は極めて迅速であったが、敵が各地でゲリラ攻撃を繰り返す以上、折角終結した軍隊も再度分散し、各地に派遣されることになった。
これこそが魔王国軍の戦術だったのである。
各地で小規模の戦闘が常態化するようになり、各地に軍隊が派遣された状態が続くようになって初めてトロール族を中心とした重量級の軍勢がまとまって現れたのである。
彼らは北辺の山岳地帯に隠れていたらしく、アルフハイムの森の北東から進軍してきた。
アルフハイムの森を蹂躙し、一部は西へ向かい、本隊は南東に侵攻を続け、旧ヴァラキア魔王国の版図を奪還し、そこからついに海岸線にまで到達した。
一度、各地に分散した連合軍の再結集は間に合わず、各個撃破されてしまった。
この時、俺の故郷にあったカレドニア王国も滅ぼされた。
第三次暗黒大戦でも壊滅的な被害を被っていたのだが、王家はかろうじて生き延び、南に亡命していた。
カレドニア人の多くが殺されはしたが、南に逃げた者や山間部に隠れて生き延びた者もいた。
大戦が終わるとこうした者達が再びカレドニアの地に戻り、『復興の時代』にカレドニア王国は一度復興した。
王家を中心に各支族が力を合わせて国を栄えさせた。
しかし、第四次暗黒大戦で、遂にとどめを刺された。
王家の主だった者達が討ち死にしてしまったのだ。
前回の大戦で光の諸族の盟主的な存在になっていたテルデサード王国からの命令で王族が若者達を集めて軍を興し、自らが率いて戦場に赴いていたんだな。
この大戦ではカレドニア王国だけでなく、南の隣国アルデア王国も、スカニア湾を挟んだ東に位置するスカニア王国も同様に王族が戦死し、王国としては最後を迎えた。
大戦そのものは再びテルデサード王国の王が召喚者を呼び出して終結させて、終わらせた。
やはり召喚者達の力は絶大だ。
召喚者の率いるテルデサード王国軍を中核とした連合軍が地道に一つ一つ各地の戦いで勝利を収めていき、ウェスタリア地方を回復すると渡海し、ヴァラキア地方に攻め入り、王都ブラドを陥落させ、再び魔王を撃退したのだ。
魔王が撃退されると魔王国軍はバラバラになってしまった。
テルデサード王国軍は転戦して魔王国軍の残党を掃討しつつ、各地の治安を回復していった。
この過程でおこったのがテルデサード王国による『大統一』だ。
さっき言ったようにカレドニア王国も大戦で国土は荒れ果てた上に王家を失い、国家としては滅亡寸前であったが、テルデサード王国によって回復した。
そしてテルデサード王国の一部として吸収されてしまったんだ。
『大統一』によって吸収された国はカレドニアだけではない。
アルデア、スカニアを始め、アヴァロン、ノルメルク、ウェスタリアの国は全てテルデサード王国に吸収されてしまった。
カサベラのあるコルトーニアも同様だ。
無論、かなりの抵抗はあった筈だ。
カレドニアだって有力な氏族の族長から王を選び、自分達の国を自力で復興しようとしていたんだ。
しかし、魔王国軍を二度に渡り撃退したテルデサード王国には逆らえなかった。
結局、カレドニアを含む多くの国がテルデサード王国によって併合され、ある土地は王国の直轄領とされ、ある土地は自治領として王国を構成する属国のような存在になってしまった。
少し脱線するが俺の生まれたマカリスター家はカレドニア王国時代は今よりも力のある一族だった。
テルデサード王国が属国にした際に各支族の領地を王国の都合で入れ替えられたり、削られたりした。
王国に従順で貢献した氏族の領土が拡大され、そうでない氏族の領土は削られたり、不毛な辺境の地に移されたりしてしまった。
王国の直轄領にされてしまった土地もある。
マカリスター家は領土を削られたクチなんだ。
だから俺のこちらの世界での父親、ロバートは王国の事が大嫌いだった。
逆に厚遇された氏族もいる。
シンクレア一族がその代表例だ。
シンクレア一族は決してテルデサード王国によって故国が併合されることに賛成ではなかったのだが、大戦では光の諸族の一員として奮戦した。
特にシンクレア一族のある者が大戦中に傭兵として王国軍で戦い、抜群の功績をあげた。
だからその者はシンクレア本家から分かれて、王国内に別途領地を与えられて、領主即ち貴族となった。
これがノルデル伯シンクレア家の始まりだ。
シンクレア本家の一族も厚遇を受け、その領地は安堵されている。
兎に角、この時代、ヒト族の版図の北西部全域がテルデサード王国によって吸収合併され統一されてしまった。
だから、第四次暗黒大戦の後の時代は『統一の時代』と呼ばれている。
テルデサード王国は狡猾だった。
エルフ達に対してはアルフハイムの森の回復に力を貸し、併合などせず、エルフ達との結びつきを強くして同盟を更に強力なものとした。
ドワーフ族、ノーム族に対しても同様だ。
彼らの王国の大半は大戦中にオークやゴブリンに占拠されていたが、これを駆逐するのに力を貸し、その王国を彼らに返している。
他種族からの信頼を勝ち得ていたのだ。
しかし、ヒト族の諸王国は強引にテルデサード王国の一部にされてしまった。
テルデサード王国に吸収される側は他種族からの援助を期待できない。
泣き寝入りだな。
だから今でもカレドニアの人々は王国への忠誠心が薄い。
これが後に大きな影響を及ぼす。
まぁ、俺のこれからの話を楽しみにしていてくれ。




