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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幻水里 アオサギ村

作者: 仙 岳美

語り人

 浦部 とおる 五十歳 男性


 それは怪談と言うには少し違く、タイプスリップと言うのか、今振り返ればその時代は、時代が逆行した様に独裁者の古代妄想的な戦争が始まり、それに加え、年々酷く成っていた異常気象もいよいよ人類に本格的にその牙を向き出し、先人達がもたらしてくれた文明の利器の恩恵を打ち消し忘れかけた夏の暑さ怖さ感じる、そんな若い時にした不思議な体験を、この場を借りて伝えようと思う、最後まで付き合ってくれたら幸いである。

 

 当時俺が役所に勤めていた、その夏、古臭い言葉を借りると、干ばつ、もしくは、日照りと言うのか、そんな日々が続き、その年は米の生産量がガックンと落ち、俺を含めた庶民が手を出すには、考えてしまうほどの高値の米が店頭に並ぶようになる、そんな米騒動は、俺の勤めていた役所にも、その矛先である、要は、とばっちりである電話が飛んで来る様になる、まあ少しは、その責任はある様に個人的には思い、俺は率先してその苦情電話を取り、とりあえず壁に向かって、頭を下げ続けるその最中、上司にある事を頼まれる。

その内容は、神奈川県のある大山の中腹に雨乞いの神様が祀る神社があり、そこへ仕事として参拝に行ってくれとの事だった。

正直俺は、『神頼みって、いつの時代よ、それにこの猛暑の最中』と思うも、経費は全て出る事と同じ様な内容の電話を毎日取るのにウンザリし初めていた事もあり、その仕事を受ける事にする、と言うか当時新人職員だった俺には、断るすべは無かった。


 とは言え山の中腹に建つ目的の神社下社は、結構な観光地で駅から直のバスも出ており、またその中腹の下社迄はケーブル電車も通っており、なんの苦労も無く、神社には到着する事が出来た。

そして無事に参拝を終え、再びケーブル電車に乗り下山し、少し歩くと、何か違和感を感じ、見渡すと周りの景色が何か違う様に俺は感じる。

そして行けども行けどもバス停は見当たらない、スマホを取り出しても圏外、当然地図も見れない、ただ腕時計は正常に動いていてくれていた、その針が差す時刻は七時とは言え、俺は、歩いてればそのうち何処かに出るだろうと楽観的に考え、兎に角、まだ夕刻の道を歩いて行く、すると案の定、民家が見えて来る、民家、そう、民家と言ってしまうほど、その目の前に見える家々は全てからふき屋根だった、それに加えその姿は全て廃れていた……

俺はとりあえずその家々の中を手前から順に見て廻てみるも案の定、どの家も人が住んでる気配は無く。

そして周囲は暗くなる。

すると少し離れた家に明かりが灯るのを目にする。

その家の中を覗くと、着物を着たひとりの若い女性が囲炉裏にかけた鍋で何か煮ていた。

俺は話しかける。


「もし」

「これは旅の人、宿はお決まりで」

「いや、そのつもりではなかったのですが……」

俺はその訳を話す。

「で、このありさまなのです」

「このアオサギ村に住むのは、わたしひとりだけです」

「ひとり、どうやって暮らしてるんですか?」

そう尋ねると女は奥の部屋に敷いてある布団の方を指さす。

俺はイケナイ妄想を頭に浮かべる。

「泊まりますか?」

そのアレのつもりは無く、一応宿泊料を聞くと一両と結構高い、と言うより、円の世界ではなかった。

俺はまだ半信半疑で、笑いながら言葉を返す。

「ははは、冗談を」

と俺はとりあえず財布から一万円札を取り出し、その女性の前に差し出す。

「これで足ります?」

女性は札を手に取り首を横に振り、その万札を受け取らない。

外は暗い事もあり。

俺は思わず。

「寝るだけでもなんとかなりませんかね、いえ、いるだけでも、けして貴方には指一つ触れません」

そう言うと女性はニコリとし言う。

「やはり貴方は良い人、その願いを聞きましょう、明日、この先にある大きい水車の下に潜り、その底で回っているものを引け上げ、何処かに埋めてください」

俺は頷く。

起きると朝食が用意されていた、しかし女性の姿は無かった。

しかし約束は約束、俺は朝食を食べ終えると、言われた水車の方へ向かう。


 俺は目の前に大きな回っている水車に辿り着くと服を脱ぎ、水の中へ飛び込む、すると水車の下でクルクルと回る白いものを見つける。

それを手に取るとそれは、人の髑髏だった。

俺はビックリし、口の中に溜めてい酸素を全て吐いてしまい、慌てて水から上がると水車は止まっていた、それは髑髏がその水車の動力だった様に思えたその時、慌てながらも埋めようと離さずに持っていたはずの髑髏は手の中から消えていた。

そして辺りを見渡すと、目の前にあったはずの水車は無く、遠くに現代の町並みが広がっていた。

取り出したスマホも通常にアンテナが立っていた。

そしてその日の夕方には、久しぶりに恵みの雨が降り出す……


 後の調べによると、その昔、その地方で、日照りが続き、中場正気を失った人々は雨乞いの為、生け贄とし殺し、その遺体を水車にくくりつけ回したという、すると雨は降り出すも今度はその雨は降り止まず、多大な水害を引き起こし、それを祟りと恐れた人々は、その供養の為に山の中腹に神社を祀り、その怒りを沈めたと言う。

以上が若い時に体験した不思議な出来事である。


[終]


内容はフィックション。


お題・水に沿って筆。


令和7・8・4

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