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お金を食べる男の子

「このドラ息子!! またお金を盗んで食べたね!!」

「やあ、そんな大声出すなよ母ちゃん! これが上流階級の人たちにバレたら、あんたの息子は処刑されるぜ?」

「そうだよ母ちゃん、お金は庶民は口にしちゃいけないものなんだから……」

「そうそう、父ちゃんの言うとおり! だいたい母ちゃん、お金は『食べる』んじゃなくて『飲む』もんだぜ?」

「うぅう、やかましい、そんなヘリクツ言うんじゃないよ!! だいたいね、あんたがさっき飲んだお金で何が買えるか知ってるかい!? 子ウサギ一羽だよ、お金三十粒で子ウサギ一羽!!」

「まあまあ母ちゃん、こいつもそのうち立派な大人に育ってさ、今まで口に入れた分は稼いでくれるよ、きっと!」

「そんなわけあるかい、こんなドラ息子! あんたはホントに『金食い虫』だよ、金食い虫!!」

「やあ、うまいこと言うなあ母ちゃん! さぁて、そろそろ小言は終わりかい? じゃあオレ、遊びに行ってくらぁ!!」

「ああ、こら待ちな! まだ説教は終わってないよ!!」


 母親が伸ばした褐色の腕をすり抜け、『ドラ息子』は子ウサギみたいに()()()と家を飛び出した。みるみるうちに遠くなる後ろ姿を目で追いながら、年若い母は情けなくため息をついた。


「……やれやれ、誰に似たかねえ、本当に! だいたいお金をすりつぶして、コーンの粉と唐辛子と水とを混ぜたもんなんざ、ここらじゃ『儀式の飲み物』じゃないか! ご近所さんが良い人ばっかりだから見て見ぬふりしてくれてるけど、お上にバレたら処刑だよ、ホントに冗談にもなりゃしない!!」

「まあまあ、今はあんなんだけど、あいつもそのうち落ちつくよ。文字どおり『金を食って』育ったやつだ、金を意のままにあやつるでっかい男になるかもなあ!」

「――……そう願いたいけどねえ、どうなるもんかねえ……」


 楽観的な夫のとなりで、妻が疑わしい目を向ける。疲れた目のまま問題の『お金』をひと粒つまみ上げ、深くふかくため息をつく。


 ――ここは十五世紀のアステカ。ドラ息子の母がつまんでいるのは植物の種……その当時は貨幣としても使われていたカカオ豆。今現在はココアやチョコレートの原料、カカオ豆。


 小さな『お金』は褐色の細い指ではさまれ、油分を含んでつやっとした茶色の照りを見せていた。




「――っていう『昔話』を、自社製品のチョコレートのパッケージに載せるのはどうかな?」

「そんな長文、どんだけ小さな表記になると? ていうか史実ベースでも、設定に無理があります、社長」


(完)

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