家族の絆
2025/03/02 書き直しました
さて、その後どうなったかというと――
まさに地獄の一週間だった。
でも、記憶がない。
おかしいな。
朝昼晩と三食、きちんと食べていたはずなのに、何も思い出せない。
味も、食感も、何を食べたかすらも――まるで霧の中に消えたみたいに、記憶が曖昧だった。
違和感を抱えたまま、俺はゼン義兄さんに尋ねることにした。
「ゼン義兄さん。ここ一週間、記憶があいまいなんだけど……何か知ってる?」
俺の問いかけに、ゼン義兄さんは微笑みながら、さらりと言った。
「気にするな。問題ない」
……いや、めちゃくちゃ問題だろ!?
俺がツッコむ間もなく、義兄さんは話を続ける。
「それより、今度クランに来てほしい。君の機体を造ることになったからね」
――俺の機体!
その言葉に、胸が一気に高鳴る。
「これからちょくちょく身体検査と機体の訓練も必要になる」
義兄さんの言葉に、俺は迷うことなく何度も頷いた。
「必ず行くよ!」
そして、隣にいたミケを振り返り、ニッと笑う。
「もちろん、ミケも連れて!」
俺の言葉に、ミケの銀色の狐耳がピクッと動き、尻尾が軽く揺れた。
「当然よ。私もエクスの機体には興味があるし、そもそも放っておくわけないでしょ?」
そう言いながら、ミケは少し誇らしげに胸を張る。
――新しい機体、俺専用の機体ができる。
その事実に、胸が高鳴る。
「それより、センカ姉さんは?」
ふと、気になってゼン義兄さんに尋ねる。
さっきまでの話の流れで、姉さんの姿を見ていないことに気づいた。
「エクス。気にしないで良いわよ」
ミケがそう言いながら、急に気持ち悪そうに俯いた。
「……?」
どうしたんだ?
俺が不思議に思っていると、脳の奥に何かが引っかかる。
――思い出しそうな……
いや、思い出したくない……そんな記憶が、ゆっくりと蘇りそうになっている。
何か……何かがあった……
でも、それが何だったのか、まだ霞がかかったようにぼんやりしている。
ゼン義兄さんが、荷物を持ちながら苦笑していた。
「気にするな。今、お義母さんと話をしてるんだ。もう少しで来るよ」
「……そうか」
なんとなく、わかったような、わからないような。
でも――
母さんをすごく応援したいこの気持ちは何だろう。
そう思っていると――
廊下の奥から、憔悴しきったセンカ姉さんと、なぜか怒気が抜けない母さんが現れた。
「センカちゃん!」
母さんが、力強く呼びかける。
「約束だからね! ひと月に一回は帰って来なさい!」
その声には、有無を言わせぬ圧が込められていた。
「今度は逃げないように!」
「……わかりました……もうこの辺にして。また来るから……」
センカ姉さんは、魂が抜けたような声で答えた。
そのままふらふらと立ち尽くし、俺たちの方を見やる。
そして、力なく微笑んだ。
「ごめんね、こんな姉で。残念だったわよね」
――残念? 何言ってるんだ、姉さん。
俺は思わず一歩前に出た。
「そんなことない!」
胸の奥から込み上げてくる思いを、そのまま言葉に乗せる。
「何を言ってるのかわからないけど――姉さんは俺の憧れだ!」
姉さんが驚いたように目を瞬かせる。
俺はまっすぐに彼女を見つめ、力強く言った。
「姉さんみたいに強くなりたい! 俺の目標だよ!」
拳をぎゅっと握りしめる。
「だから――絶対にあきらめず、頑張るよ!」
俺の言葉を聞いた姉さんは、一瞬驚いたように目を見開いた。
そして――
ふっと、優しい笑顔を浮かべる。
「そうね……エクス、ありがとう」
穏やかに頷きながら、姉さんはゼン義兄さんと母さんの方を向いた。
「ゼン、母さん。私もエクスに負けないように頑張るわ!」
その言葉に、俺は力強く拳を握り直し、笑顔で応じる。
「お互いに頑張ろう!」
姉さんは何を頑張るのかわからない。
でも――
俺はただ、その言葉が嬉しかった。
そして、これからの夢のために――
俺は絶対に頑張ると誓った。