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神獣狩りと主婦の真顔――木刀で挑め!?環境保護惑星の闘い

 環境保護惑星の軌道上にある宇宙港に到着し、入港手続きを終えた俺たちは、輸送用シャトルで地表に降り立った。ロウは残留。支援と管制は彼女が担当する。そして地上に降りた俺とミケ、そして母さん――だが、ひとつ気になることがあった。


「いい? まずは目的地まで走って移動するわ。魔力で身体を強化しておいてね」


 そう言いながら、母さんはさらっと準備指示を出す。


「母さん、その前に一つだけ言っていい?」


「何かしら、エクスちゃん?」


 俺は眉をひそめながら、そっと指摘する。


「……着替えないの?」


 俺とミケは訓練で使っている動きやすい運動着に着替えていた。動きやすく、戦闘にも対応できる特殊素材だ。でも母さんは――白のセーターに、足元まで隠れるロングスカート。どう見ても“買い物帰りの主婦”だった。その姿で森を駆けるのか? 本気で?


 だが母さんは、まるで何の疑問もないかのように軽く笑った。


「必要ないわよ。これで充分。ほら、行くわよ」


 その一言で、全てが流された。


 ――いや、無理あるだろ……。


 足に魔力を集中し、俺とミケはシエルの後を追って走り出した。


 だが――速い。異常なほどに。


 こっちは強化魔術を使って全力で走っているというのに、母さんの背中はあっという間に視界の彼方へと遠ざかっていく。


「母さん! ちょっとスピード落として! どんどん引き離されてるってば!」


 必死に叫ぶが、前を走る彼女はまったく振り返らない。


 ……まさか、聞こえてない?


「シエル様、完全に聞こえてないわよ」


 横で走るミケが呆れ気味に言った。狐耳が後ろに倒れ、一本の尻尾がやや焦ったように揺れている。


「クッソ! ミケ、体力のこと気にしてる場合じゃない! 全開で行くぞ!」


「そうね。……このままだと、本当に見失いそうだわ」


 ミケも気配を切り替え、再び足に魔力を集中させた。


 ――どうして主婦スタイルであんな速度出せるんだ、母さん……!


 俺の中で疑問と尊敬と恐怖が混ざり合いながら、追跡が始まった。


 しばらく全力で走り続けたあと、ようやく前方の母さんが減速を始めた。スカートの裾を乱すこともなく、静かに――まるで散歩でも終えたかのように、歩調を落としていく。


 ようやく追いついた俺とミケは、息も絶え絶えだった。


「っは……はぁ……かっ、かあさん……ちょっと……スピード……抑えてくれよ……」


 膝に手をつきながら声を振り絞る。


 その横では、ミケも肩で息をしながら立ち止まっていた。狐耳はぺたりと寝て、尻尾も力なく垂れている。


「足が……笑ってるわ……内臓が置いていかれた感覚……久しぶり……」


 ぼそっと呟くミケの声に、俺は全力で頷いた。


 なのに――


「え? まだ準備運動のつもりだったんだけど?」


 母さんは平然と振り返り、まったく汗もかいていない様子で首を傾げている。


 ……いや、なんなんだよこの人!


 母さんは平然と振り返り、まったく汗ひとつかいていない。ロングスカートすら乱れておらず、軽く首を傾げながら、ごく自然に言ってのける。


「まだまだね。魔力の制御が甘い証拠よ。流れに無駄が多いから、余計に疲れるの」


 え? あれだけ訓練して、まだ“甘い”って言われるの……?


「うそだろ……」


「……かなり精密に調整してたつもりなんだけど」


 俺とミケは、疲れ切った体で互いに顔を見合わせながら呟く。ミケの狐耳は半ば垂れ、尻尾もぐったりと揺れていた。


 それでも、シエルは穏やかに微笑んだまま、続ける。


「“精密”って言っても、全体を整えただけじゃまだまだよ。魔力はもっと細かく使えるの。体内をくまなく流して、無駄なく隅々まで――そうね、比喩だけど“細胞のひとつひとつ”にまで行き渡らせる感覚かしら」


 あっけらかんとした口調なのに、言ってる内容は地獄みたいだった。


 ――いや、俺たちって、どこまで基準を求められてんだよ……。


 息を整えていると、母さんが片手をかざし、収納魔法を展開した。


 次の瞬間、彼女の前にふわりと浮かび上がったのは――


 木刀一本。短刀型の木刀が二本。そして――


「……こん棒?」


 思わず口から出る。


「すりこ木よ」


 母さんは何の迷いもなく、そう言ってすりこ木を手に取りながら続けた。


「それより、はいこれ。エクスちゃんは木刀。ミケちゃんは短刀ね」


「は?」


「え?」


 俺とミケの声が同時に漏れた。


 狐耳がぴくんと立ち、ミケはしっぽを固まらせたまま手元の木製短刀を見下ろしている。


 ……いやいや、待て。なんで?


「えっと、一応……ちゃんとした武器、俺たち持ってるんだけど……?」


 俺は腰からビームソードガンをひょいと抜き出して見せる。あのグランドさんから譲り受けた、性能も信頼性も折り紙つきの逸品だ。


 だが――


 母さんはにっこりと微笑みながら、すっと首を横に振った。


「意味ないわよ、それ」


 あっさり。


「いい? ベーウコウシには、その程度じゃ通用しないの。魔法と物理、両方が合わさって初めてダメージが入るのよ。だから木刀。これが一番効くの」


 木刀が、最適解――?


 いやいや、まるで原始人の発想なんだけど……。


「それと魔法は“風”だけ使用してね。他の属性は、お肉そのものに余計なダメージが入っちゃうから」


「……は?」


 今度はミケがぽかんとした顔で振り返る。狐耳が混乱したように揺れ、尻尾も止まっていた。


 まるで……狩猟というより“調理前提の伐採作業”みたいなんだけど。


 ――もう、突っ込む気力すら奪われそうだ。

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