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華麗なる復讐カレー、惨敗す

 現在地は、ギルド経由の中継拠点。ホームは停泊モードに入り、ギャラスの素材分解とデータ転送処理が進められている。俺自身も軽くシャワーを浴びて、一息ついたところ――だったのだが。どうしても、さっきのあれが引っかかっている。……ミケの、あの芝居じみたイナホさんモノマネ。しかも、耳と尻尾までフル活用して、目まで潤ませてたあの演技。……クッソ、今思い出しても腹立つ。


 というわけで、俺は動くことにした。ミケが風呂に入っている隙――今が好機だ。俺は静かに、そして確実に「反撃の準備」に取りかかる。舞台は今晩の夕食。そう、俺が作る。――ただ作るだけじゃない。ミケの得意分野で、一泡吹かせてやる!


 俺が選んだ勝負メニューは――カレー。だが、ただのカレーじゃ意味がない。ただの家庭料理では、あのミケを黙らせることはできない。だからこそ、俺は全力で挑む。隠し味の組み合わせ、火加減、香りの立ち上がりまで――すべてを計算し尽くし、完膚なきまでに“美味さで”勝ってみせる!


 目指すは――味も香りも見た目も、全てがミケ越え。豪華に! 華やかに! カレーだけに、華麗に!


「作戦開始だ!」


 俺は拳を握り、冷蔵庫に突撃した。


「で、これなに!」


 ミケの叫びが、ホームのリビングに響き渡る。そして俺は――見事にその目の前で土下座していた。端的に言うなら、失敗。不味い。大失敗。今晩の勝負に選んだ、俺の“華麗なカレー作戦”。だがその出来栄えは、“ただの災厄”だった。


 鍋の中から漂うのは、エビ、牛肉、レタス、バナナ――あらゆる主張が激突した末の、もはや“匂いの戦争”。色味は泥。形は崩壊。味見は……勇気がいる。


「隠し味って、何でもかんでも入れればいいってもんじゃないのよ」


 ミケが腰に手を当て、狐耳をぴくぴくさせながら睨みつけてくる。


「調理工程は見てなかったけど……これは酷いわね。エビの殻も牛肉の筋もそのまま、レタスの芯も丸ごと残ってる」


 ロウが冷静に、そして容赦なく指摘する。


「食材の系統も、香味の軸もめちゃくちゃ。調和どころか、全体の輪郭が消えてる。……逆に、ここまでブレさせるのは凄いわね」


 その素直な感想に、ミケが一歩前に出る。


「これはね、料理じゃないの。“混ぜたもの”よ! しかも災害級!」


 両手を広げながら、鍋の中を指さす彼女の目が、本気になってきている。


「エビに牛肉、レタスにバナナ!? もう意味がわからない! しかもなんでキャビアまで入ってるのよ!? 何狙い!?」


「い、いや……定番じゃつまらないと思って……カレーだけに、華麗に……」


 語尾が自動的に消えそうになる。自分でも、言ってる途中で「あ、これダメなやつだ」と分かる。そして――


「あっ?」


 ミケの口から漏れた、低くて鋭いひと言。空気が、止まる。狐耳がぴたりと静止し、しっぽもふるりと張り詰めた動きに変わった。その目が、明確に“怒っている”。


「スイマセン!!」


 俺は反射的に、床に頭をこすりつける勢いで土下座を深めた。けれど――


「……食べなさい!」


 ミケの鋭い声が頭上から降ってくる。その視線は、まっすぐ鍋を指し示していた。――お、おや? これは……ちょっと、ヤバくないか?


 顔を上げかけた俺は、即座にその表情を見て凍りついた。狐耳がぴくりと揺れ、尻尾がふわりと止まりかけている。あの状態は、“本気で怒ってる時”のサインだ。


「いや、ミケ……さすがにこれは……」


 恐る恐る言葉を継ぐ。


「無駄にする気?」


 低く、刺すような声。


「い、いや……無駄っていうか……食べ物と言えるのかどうか、その……」


 何とかごまかそうとするけど、自分でも無理があるのがわかる。


「せっかくの食材よ? エクスが選んで、エクスが手をかけて、作ったわよね。……責任、持ってくれるわよね?」


 ミケの声は、穏やかに聞こえて――でも、怖いくらいに真っ直ぐだった。その銀色の狐耳が、ぴくりとも動かない。――ああ、完全に逃げ場がない。俺の脳内には、もはや“食後の地獄”しかイメージできなかった。


「ロウ、何か作るわ。何がいい?」


 ミケがふっと表情を変え、リビング奥のソファにいたロウへ声をかける。


『カレー以外がいいわね。……パスタなんてどうかしら。ミートソースの、定番のやつよ♪』


「いいわね。じゃあ、今から作るわ」


 明るく頷くミケ。しっぽも機嫌よく揺れ始める。その雰囲気に乗じて、俺もそっと手を上げた。


「……俺も、それ……」


 希望を込めて言ったつもりだった。だが、ミケの視線がぴたりと俺に戻る。


「エクスは、自分で作ったやつがあるでしょ?」


 満面の笑顔。けれど、その笑顔が――何より怖い。


「ワカリマシタ……」


 俺は項垂れながら、鍋の前に座り直した。香りは……やっぱり、キツい。それでも俺は、一口すくって、口に運ぶ。


 ……うん、不味い。でも――(センカ姉さんよりは……まだ、食える……)その一点だけは、心の底から誇っていい気がした。

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