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忠義と平等と、芝居がかった狐

 ギャラスを粗く解体していると、ホームと巡回艦がほぼ同時に到着した。


『王子。ありがとうございます』


 通信越しに届いたのは、巡回艦の艦長の律儀な声だった。――やっぱり、そう来るか。


「いや、だから……」


 言いかけたが、向こうは止まらない。


『申し訳ございません。ですが、これは忠義とお受け取り頂ければと』


 その一言が、じんわりと胸に染みる。ありがたい。確かにありがたい……けど、やっぱり少し重い。俺は、小さく息をついた。


「ロウ。解体は大まかに終わった。残りは、どうする?」


 肩越しに声をかけると、それより早く巡回艦側から通信が入った。


『残存部材は、我々で回収・処理いたします。王子は、どうぞお戻りください』


 その言葉に続くように、巡回艦から数機のUNBが発艦する。エルドラ王国軍の軍用UNB――アイギスシリーズ『パラディア』が、ギャラスの肉片と残骸を的確に収集し、巡回艦の格納庫へと収めていく。軍の動きに乱れはない。任せて問題ないと判断できる。


「……助かります。お願いします」


 素直に礼を述べたあと、俺は少しだけ声の調子を落として続けた。


「ただ――」


 言葉を選ぶように、ひと呼吸置いて伝える。


「俺は、あくまで冒険者として依頼を受けて、ここに来ただけなんだ。それ以上でも、それ以下でもない」


 言いながら、自分の中の線引きを確認するように口にする。


「だから、忠義とかじゃなくて、普通に接してくれるとありがたい。他の冒険者がこれを見た時、『扱いが違う』なんて言われたら、俺もそうだし、エルドラ王国軍にとっても面倒が増える」


 言葉に棘はない。だが、曖昧にもさせない。


「ありがたさはちゃんと受け取ってる。でも、行き過ぎはちょっとね。兄さんの命令があるのは仕方ないとしても……するなら、冒険者みんなに平等に。それがいちばんだと思うよ」


 それはお願いであり、苦言でもあった。


『……確かに、その通りです。申し訳ございません』


 巡回艦からの通信に、わずかな沈黙が挟まれる。だが次の瞬間、再び艦長の声が届いた時には、そこに迷いはなかった。


『ただ、それでも――これだけは、どうかお許しください』


 そして、モニターに映った艦長が、深々と一礼をした。


『ありがとうございます、エクス王子。いえ――エクスさん』


 言葉の節に、ほんの少しだけ気負いが消えていた。軍人としての立場を越えて、ひとりの人間としての礼を述べるような、そんな声音だった。


『これは王族への忠義ではありません。エクスさん個人に対する、純粋なお礼です』


 続けて、彼は右手を胸元に当て、凛とした姿勢で敬礼を取る。


『この想いは、どの冒険者に対しても変わらぬものです。だからこそ、感謝の意を込めて……ありがとうございます』


 その言葉に、作り物の響きはない。戦場で助けられた者として、率直な感謝を伝えたい――それだけが彼の中にあった。少しだけ、胸が熱くなる。


「……わかった。ありがとう」


 俺は、素直にそう返した。こうして交わせた言葉が、形式や肩書に縛られない「普通のやり取り」として残ってくれるなら。それだけで、今日ここに来た意味があったと思える。


『王子様。そろそろ、素材部分を積んでいただければと思います』


 ――……おい、ミケ。せっかく、少しは良い雰囲気になってたのに。お前ってやつは、本当に空気を読まない。


『エクス様。私は感動しました。そんな言葉が佩けるなんて……なんてご成長でしょう!』


 映像越しに響く声は、どこか芝居がかった明るさで満ちていた。画面の中では、狐耳がぴくぴくと揺れ、しっぽも嬉しそうにふわふわ跳ねている。


「ミケ、楽しみすぎ。もう……からかわないでくれよ」


 軽くため息をつきながら、俺はカリバーンを操作し、ホーム左舷側の倉庫スペースに機体を移動させる。ギャラスの心臓部、それに牙と角――とりあえず、大まかに採取しておいた部位を慎重にコンテナへ収納する。血が残っている可能性があるし、倉庫を血まみれにするのはまずい。


「ロウ。積み終わった。帰ろう」


 そう言いながら、カリバーンをそのまま格納庫の下部ハッチの中へと滑り込ませた。カリバーンを固定し、さっさとコックピットを離脱する。


 更衣室へ向かう途中、ふと背後が気になってカリバーンを振り返った。――そして見てしまった。ちょうど出てきたミケが、どこから取り出したのか真っ白なハンカチを目元に当てている。しっぽはゆったりと揺れ、耳もやたら表情豊かに動いていた。


 その顔は、まるで成長した子供を見て感涙する親のような――いや、明らかにやり過ぎな演技。


「……な、なんだよその芝居は!」


 思わず声が漏れる。どこでそんな仕草、覚えてきた!? 父さんか? 母さんか? ……まさか、イナホさんの仕込みか!?


 そんな疑念が頭をよぎる中、ミケはにっこりと微笑んだ。


「どう? 母さんの真似。ドラシエル様のお子様の成長を見る時の母さんよ」


 ――うわ、やっぱりか。耳も尻尾も、演技に合わせて絶妙な揺れ方をしていて、妙に完成度が高い。それがまた腹立たしい。


 クッソ……このままで終わってたまるか。何か一泡吹かせてやりたい。もやもやを抱えたまま、俺は足早に更衣室の扉を押し開けた。

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