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アンチマジック・ギャラス出現

 最高の食事を終えた俺たちは、それぞれが椅子に身体を預け、食後のまったりタイムを満喫していた。ミケは尻尾をふにゃりと膝に乗せて撫でているし、ロウはソファの端で足を組み、ホロディスプレイに視線を向けている。


「しかし、ロウの特権ってすごいな。毎回ギルドに行かなくてもいいなんて、楽すぎる」


 俺が思わずこぼすと、ロウはくすっと笑って肩をすくめた。


「そうね。父上のおかげかしらね」


 本来なら依頼を受けるたびにギルドに出向く必要がある。でも、ロウの権限があればそれをスキップできる。


「普通は、一日に一件受けるだけで時間がギリギリなんだよな。ギルドまでの往復がないだけで、こんなにも楽になるとは」


「そうなの? ギルドに行ったときに何個も依頼を受ければいいんじゃない?」


 ミケの疑問はもっともだが、俺は首を横に振った。


「それができないんだ。Hランクの依頼は、一回につき一件までって決まってる」


 その瞬間、ミケの狐耳がぴょこっと動き、驚いたような表情を見せる。


「新人はまず“慣れること”が優先されるの。そして、無理をさせないためにも制限がかけられてるのよ」


「ランクが上がるごとに、受けられる依頼数や活動範囲が少しずつ広がっていくの。まずは、一般基準のFランクに上がるのが第一目標ね。そこまで行けば、国外の案件も受けられるようになるわ」


「――エクスが言ってた“地固め”って、そういうことだったのね」


 ミケはゆっくりと頷いた。納得の表情で、尻尾がふわりと揺れた。


「というわけで、さっさと必要な依頼数をこなしてランクアップを目指しましょう」


 ロウが手元の端末を操作し、俺とミケの前にホロディスプレイを展開させる。そこにはHランク依頼の一覧が並び、難易度や報酬、位置情報がアイコンで示されていた。


「今回は、ちょっと歯ごたえのある案件だけを抽出してみたわ」


「……よし。まずは虫系がないかチェック……」


 ちらちらと目を走らせるが、ホロの中にそれらしき名前はない。ミケ、ほっとしてるな。


「基本、Hランクは討伐系が多いの。その中でも、今回は“副収入”の見込める案件を選んでみたわよ」


 副収入――つまり、討伐対象から素材が取れるやつか。ありがたい選別だ。


「これが良さそうだな。怪獣退治などか……」


 表示された怪獣の依頼一覧に目を止め、俺がそう言うと、ミケが首をかしげた。


「そもそも、“害獣”と“怪獣”って、どう違うの? 学校でも詳しくは習わなかったけど……」


 確かに、言われてみればそうだ。俺は肩をすくめながら答える。


「実は、明確な違いってものはないんだ」


 ミケが驚いたように目を丸くする。


「簡単に言えば――いま確認されてる“動物や虫”に似てるヤツは“害獣”や“害虫”って呼ばれてて、それ以外の、見たこともないような連中は“怪獣”って呼ばれてる。要は、分類が間に合ってないだけってことさ」


「……それ、すごく適当な気がするんだけど」


「適当だよ。でも、現場ではそれが一番わかりやすいんだよな」


 ミケは呆れたようにため息をついたが、狐耳はほんの少しぴくりと動いていた。どうやら、ある程度は納得したらしい。


「ギルドでこの話を聞いたときは、正直“適当だな”って思ったよ。でも、いざ現場を見れば――怪獣を細かく分類なんて、無理だってわかる」


 実際、宇宙には“ダンジョン”まである。そこから何が出てくるかなんて、予想なんてつくはずがない。出現場所も時期もまちまち、姿形や生態に共通性なんてほぼゼロだ。


「一度、試しに分類してみろって言われたんだ。……で、結果は――地獄だった」


 思い出すだけで、頭が痛くなる。資料、映像、遭遇報告、膨大なログ。午前中はギルド業務、午後は訓練。その合間に家で深夜作業。寝る時間なんて削って当たり前。


「それで“無理”って報告を上げた時に、ギルマスがさ――」


 記憶の中の顔がにやりと笑う。


『気づくのが遅いな。見ればわかると思ってたよ。まさか真面目に何日もやるとは思わなかった』


 言葉が軽すぎる。絶対確信犯だった。


「……からかうならさ、せめて“できそうなこと”でからかってほしいよ。こっちはガチで寝不足だったんだからな……」


 苦笑しつつも、あのときの絶望は忘れられない。


「父上も意地が悪いのよね。私も同じことをやらされたわ。――まあ、私はすぐ“無理”って報告したけど」


 ロウが涼しい顔で言う。その横でミケが小さく吹き出した。


「……それ、真面目にやった俺が、ただのバカみたいじゃん……」


 肩が落ちる。俺の努力、何だったんだ。


「まあ、そういうわけでさ。ざっくりだけど、害獣と怪獣の違いってのは、そんなところだな」


 俺の説明に、ミケはふむふむと頷く。


「ロウのお父様って、スカイ様とは真逆なようで――どこか似てらっしゃるんですね」


 ……そうか? そうかもな。どっちも容赦ないとこあるし。


「で、今回の依頼はこの“怪獣退治”にしましょう。現場はここからおよそ四十分圏内。発見されたのは一体だけど……実は、軍が一度対処に出たの。でも失敗して、ギルド案件に切り替えられたわ」


 ロウがホロを操作しながら、淡々と状況を説明していく。


「うちの国の軍って、かなり強いんだろ? それを退けたって、相当なヤツなんじゃ……」


「ちょっと違うわ。これは“相性”の問題なのよ。今回の怪獣は――“アンチマジック・ギャラス”。私たちエルフ系にとっては、まさに天敵よ」


 ロウの声に、かすかな緊張が混じる。


「アンチマジック……魔法を無効化するってことか?」


「ええ。魔力そのものを歪ませて打ち消す体質と魔力自体を吸収する能力を持ってるの。通常の魔法や魔導兵器が通用しにくいのよ」


 なるほど。軍が失敗した理由もわかる。魔導兵器が主力の軍には、そりゃ厳しい。


「でも、実弾兵器とかビーム兵器もあるだろ? それなら――」


「エクス。ギルドにいたのに、知らないの?」


 ミケが驚いたように首をかしげる。ぐぬぬ……そこを突かれると痛い。


「……書類で見たことがあるやつとか、依頼規約なら覚えてるけど……さすがに全部の怪獣や害獣の情報までは……」


 自分で言いながら、ちょっとだけ情けなくなる。


「それは仕方がないわよ。私だって、全部を把握してるわけじゃないし。事前にチェックする“癖”がついてるだけ」


 ロウが肩をすくめるように言う。


「でね、実弾兵器やビーム兵器が通用しなかった理由だけど――それは、単に“火力”や“手段”の問題じゃないの。これは本当に、“相性”の問題」


 ロウがホロを指先で操作しながら、モニターに現場の簡易地形データを映す。


「うちの国の軍って、基本的に魔力系の動力が主流なの。つまり、戦艦もUNBも、魔力で稼働してるってわけ」


「ってことは……?」


 ミケが眉を寄せ、俺も思わず頷く。


「そう。魔力を吸収されるこの相手には、戦艦が近づくことすらできない。UNBも接近戦は不可能。魔力が抜け落ちて、稼働不能になるのよ」


「攻撃したくても、近づけないからできないってことか……」


「そのうえ、遠距離から戦艦の砲撃やミサイルを撃っても、相手が察知して回避・対処されちゃって、まるで通らない。もう、お手上げ状態だったの」


 なるほど。たしかに魔力が前提の軍には、どうにもならない。


「だったら、うちのホームも、カリバーンもダメなんじゃないのか?」


 ミケの素直な疑問に、俺も思わず頷く。だって、このホームも、カリバーンも、魔力エネルギーで動いてる。魔力吸われたら即アウトだ。


「そうね。もし“有限”な魔力ならね。でも、このホームとカリバーンは?」


「……二連魔力式縮退炉。魔力の供給が無限」


「ええ。それに――」


 ロウがゆっくり指を立てる。


「カリバーンで対処するなら、オーラ攻撃が主体になる。魔力とは別の系統だから問題ないわ」


「タマモなら、妖力とナノマシンが主体……これも、魔力依存じゃないから干渉を受けにくい」


「でも、問題は副収入だな。素材次第で、どっちで行くか変わる」


「そうね。今回は加工できるのは“心臓”、正確にはその中にある“アンチマジックストーン”。それと、“角”と“牙”」


 ロウの説明を受けて、ミケが即座に判断を下す。


「タマモの妖術やナノマシンで体内に侵入したら、ストーンまで壊してしまうかもしれないわ。だから……カリバーンで四肢を切断して動きを止めてから、頭部を狙う。それが一番確実ね」


「尾部の動きも警戒して。突進だけじゃなく、打撃もあるから」


 ロウの声は静かだったが、その中には明確な緊張感が滲んでいた。


「あと念のため、私はホームを予定ポイントから少し離して待機するわ。それと、二人とも、自分自身の魔力が吸収されないように――」


 ロウの指示は淡々としていたが、芯は鋭い。


「エクスはオーラを全身に張り巡らせて。ミケは妖力で内側から守って。外部からの吸収干渉を最小限に抑えるのよ」


「了解。方針は決まったな」


 端末に表示される座標と地形データを確認しながら、俺は深く頷いた。


「現在地の情報は軍からリアルタイムで更新されてるけど……どうやら、今は“お食事中”みたいね」


 ロウがホロの一部を拡大する。そこには生々しい熱源データが表示されていた。


「害獣を……食ってるってことか」


「ええ。見る?」


「いらない! 見たくない!」


 俺は即座に拒絶の手を挙げた。


「なんで、最高に美味いオムライスの後で、そんなグロ映像見せられなきゃいけないんだよ……」


 まだ口の中に余韻が残ってるっていうのに。胃がひっくり返る前に、さっさと準備に入った方が良さそうだ。


「そうね。そろそろ出発しましょうか。エクスたちは、到着十分前までにはカリバーンに搭乗していて頂戴。それまでは、のんびりしていていいわ」


 ロウは端末を閉じながらソファーからゆるやかに立ち上がった。そのままリビングを出て、ブリッジへと向かっていく。


「……お茶、飲む?」


 ミケが、控えめに、でも気遣うような声で問いかけてくる。その狐耳がほんの少し動いて、尻尾も軽く揺れていた。


「ああ、お願い。……にしても、怪獣か。カリバーンよりデカい相手は初めてだな」


 カップを受け取りながら、窓の外に広がる星の海へと視線を向ける。


「……頑張るか」


 言葉に出した瞬間、胸の奥に小さな火が灯った気がした。

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