ミケの涙とダンゴムシ凍結処理
「凍らせて♪ 凍らせて♪ 凍らせて♪ 凍らせて♪」
鼻歌まじりに、冷却魔法を散布しながら巨大ダンゴムシを徹底的に凍結していく。処理用コンテナがホームから投下され、ゆっくりと地表に着地した。
「砕く♪ 砕く♪ 砕く♪ 砕く♪」
俺は気合いを込めてスケイルソードを肩に担ぎ、凍った甲殻に刃を叩き込む。
『やめて! なにその歌!』
ミケの悲鳴が通信越しに響いた。
「いや、ミケの気を紛らわそうかなって……」
『バカなの!? 紛らわせれるわけないじゃない! 早く終わらせてぇ~~~!』
……うん、ごもっとも。これは逆効果だった。
仕方ない。黙って作業を続けることにするか。
ひび割れた凍結甲殻にもう一度剣を振り下ろし、音を立てて破片が飛び散る。地面に落ちた破片は、まるで石像でも砕いたかのように白く粉砕されていった。
回収は順調だった。凍らせた巨大ダンゴムシを、処理用コンテナの中へ次々と放り込み――ひたすら砕く。
スケイルソードを振るたびに、甲殻がひび割れ、砕け、白く粉のようになっていく。もはや原形はなく、そこにあるのはただのサラサラとした粒子だった。
「最後――」
残っていた塊をコンテナに放り込み、勢いよく一撃を加える。乾いた音とともに、粉砕音が響き、すべての処理が終了した。
地面にできた亀裂と凹みを、軽く魔法で修復しておく。地形データに合わせて、土壌をなめらかに均し、陥没跡も元通りに整えた。
「ロウ。終わった」
『お疲れ様。上がってこれる?』
「大丈夫。今、ホームのいる高度まで戻るよ。コンテナは倉庫でいいよな?」
『ええ、大丈夫。倉庫のハッチ、開けておくから入れておいて』
「了解。……ミケ、終わりだ。帰ろう」
『……うん。ごめん』
か細く返ってきた声には、まだ少し涙の余韻が残っていた。
「謝らなくていいよ。でも、久々に見たな――ミケのガチ泣き」
『うるさい! 仕方ないじゃない! あんなの……っ』
ミケの声が、再び涙まじりに跳ね返ってくる。語尾が詰まって、言葉の奥にまだ震えが残っているのがわかった。
「だけど、泣くことないじゃないか……」
俺が思わず返すと、
『あんたっ! よく言えたわね! 子供のころ、ホラー番組見て漏らしたくせに!』
「い、今それ関係ないよね……っ!」
返す言葉が見つからず、俺は思わず視線をそらした。……やっぱミケ、回復早いな。いや、根が元気すぎるんだろうな。
ホームの高度まで上昇し、そのまま倉庫に処理済みのコンテナを滑り込ませる。続いて、カリバーンを格納庫へ着艦――収納シークエンスに入り、すべてが完了したそのとき。
『エクス! あんたは、ぜったいに、コックピットから出るんじゃないわよ!』
「はあ!? なんでだよ」
唐突な宣言に思わず叫び返す。……なに? 泣き顔を見られたくないってやつか?
『いい!? 私が通信を入れるまで、ぜぇ~~~~~ったいに出ちゃダメ! 約束だからね!』
「はいはい、わかったよ。待ってるから――早くな」
気づかないフリしてやるさ。……ミケのあの感じ、今ごろ全力で涙跡を消してるな。尻尾ぐるぐるに巻いてるかもしれない。
ミケがコックピットを出てから――10分。さらに20分……30分……まだ通信はない。
「ロウ。俺、まだダメなのかな……」
思わずぼやくと、ロウの声が落ち着いた調子で返ってきた。
『そうね。ダメね。もう少し、ミケのことを考えてあげなさい』
「……歌がダメだったかな~」
つい口にすると、ロウが小さく笑った。
『違うわよ。あれはあれで、悪くなかったと思うわ』
声の向こうで何かを操作している気配がする。それから、少し優しいトーンで続けた。
『いいから、ちゃんと待っててあげて。今、私も宇宙に出る準備中だから――もう少し我慢してね』
「……はいはい。了解しました」
釈然としないけど――まあ、待つしかなさそうだな。そう思いながら、俺はコックピットの天井をぼんやりと見上げた。
……気づけば、もう50分。いくらなんでも待たせすぎだろ。そろそろ本気でトイレ行きたいんだけど。
「ロウ……さすがに、もう――」
そう思ったところで、ようやく通信が入る。
『エクス。お待たせ。もういいわよ』
「遅いよ! なにしてたんだよ」
『詮索しない! 今日のお昼、好きなもの作ってあげるから許して!』
ああ、そういうことなら……仕方ないな。
「OK、許す。オムライスがいい。あと、エビフライも」
『わかったわ。準備する……それと、ごめんね』
「気にすんな。それより――美味いやつ、頼む!」
『ふふっ。ありがとう。特別においしくしてあげる』
通信の向こうの声が、さっきまでと違って軽やかだった。……よし、元気出たな。もう大丈夫そうだ。
俺はコックピットを出て、軽く着替えてからリビングへと向かう。
――途中、足元に何か違和感。見ると、自動清掃ロボットが黙々と床を磨いていた。……なにか、濡れてたのか?
「……まあ、深くは聞かないでおこう」
俺はそっとロボの脇をすり抜けて、昼飯の匂いがしそうなリビングへと歩いていった。




