表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/85

向き合う時と、それぞれの役割

「ロウ、その辺で」


 静かな声が格納庫に響いた。ミケだ。その背後には、グレイブさんとゲイブさんの姿があった。


 ……リビングから連れて来てくれたのか。ロウの役目は、もう終わっている。ここから先は、“当人同士”で向き合う時間だ。


「ロウさん」


 グレイブさんがゆっくりと一歩前へ出て、深く頭を下げる。


「通信で、これまでのやり取りはすべて拝見しておりました。……孫のために、ここまで厳しく叱ってくださり、ありがとうございました」


 ロウは軽く会釈し、静かな口調で応じた。


「いえ……少々、出過ぎた真似だったかもしれませんが……彼にどうしても伝えたかったんです」


 そこへ、ゲイブさんが一歩前に出た。


 ぐるぐる巻きのまま動かないゴレイブを、まっすぐに見据えて言葉を投げる。


「ゴレイブ。――もう、やめよう。俺たちの喧嘩は、もう十分すぎるほど大きくなってしまった」


「……親父……」


 掠れた声が、ゴレイブの喉から漏れる。


「確かに、お前から見れば、俺は“へこへこしてる”ように見えたかもしれない。客に頭を下げ、低姿勢で対応する姿が、情けなく映ったってこともな」


 ゲイブさんは、静かに一歩踏み出す。


「でもな、それは全部――“ありがとう”の笑顔をもらうためだ。そのためなら、何度でも頭を下げる。みっともなくたって構わない」


 声に熱がこもる。だが、それは怒りではなかった。父として、職人としての信念がそこにあった。


「それが――“信頼”ってやつだ。それが、“黒狼運送”の誇りであり、同時に――お前の生活を守る手段でもあるんだよ」


 静かな余韻が、格納庫の空気を包み込む。


「ロウ。……もうロープを解いて、当人同士で話をさせよう。リビングでいいだろ」


 俺がそう言うと、ロウは小さく頷いた。


「そうね。ちょうどいいわ。その間にやっておきたいこともあるし。……監視役は私がやるから、エクスとミケには少しお願いがあるの」


 その言葉と同時に、俺とミケの端末に通知が届く。


 ――海賊船とUNBを一か所にまとめておき、カリバーンで待機。


 短い指示だったが、意味ありげだ。俺とミケは顔を見合わせて首をかしげる。するとロウが、口元に人差し指を当ててにっこりと微笑んだ。


 ……どうやら、内緒の“何か”があるらしい。


 まずは、目の前の“海賊もどき”たちのロープを外し、口元を塞いでいたテープも丁寧に取っていく。


「みんな、一旦リビングに移動して話し合ってちょうだい。私も付き添うけど、口出しはしないわ。それに……ゴレイブについてきたお仲間にも、ちょっと聞きたいことがあるのよね♪」


 ロウは軽やかな声でそう言いながら、グレイブさん、ゲイブさん、ゴレイブ、そしてその仲間たちを率いてリビングへ向かった。


 格納庫に残されたのは、俺とミケだけ。


「……聞かせてたんだな」


 俺が問いかけると、ミケが軽く頷く。その狐耳が、わずかに揺れた。


「ロウの指示よ。従業員さんをリビングに連れて行くとき、端末にメッセージが届いてて。あの子たちにも、映像付きで全部見せたわ」


「反応は?」


「悲しそうだった。でも、エクスとロウの言葉には感謝してたわ。ゴレイブの“本音”を聞いたときは……少し怒ってた。裏切られた気持ちもあったんだと思う」


「……そうか」


 俺は少し考えたけど、なんとなく“自分に置き換えてみようか”ってのはやめておいた。


 だって――うちの父さんときたら、基本、新聞データ読んでるかお茶飲んでるかのどっちかだし。訓練のときだけ、まるで別人みたいに鬼になるんだから……な。


「さて――格納庫に戻って、カリバーンの準備でもしておくか」


 軽く肩を回しながら歩き出したところで、ミケがぽつりと声を落とす。


「ねえ、エクス。今回の件って……ほんとに“裏”はなかったの?」


「裏?」


「うん。獅子リサイクル工業のこと、ちょっと調べてみたんだけど――あそこ、結構グレーよ」


 俺は一度足を止め、少し考えるように空を見た。


「……ああ、“ゴレイブたち”に関して言えば――裏はなかった」


「本当に?」


「ああ。馬鹿みたいに真っ直ぐ、独断で突っ走っただけだ。ただの暴走だよ。支援も指示も、誰かに操られた形跡も一切ない。彼らは……何の“闇”にも繋がってなかった。ただ、軽率だっただけだ」


 ミケが小さく頷く。けれど、すぐに言葉を重ねた。


「でも、獅子リサイクル工業自体は……怪しい。でしょ?」


「ああ、そこは問題だ」


 俺は歩きながら言葉を続けた。


「ギルドの内部でも“要注意企業”に指定されてる。表向きはリサイクル業者だけど、扱ってる品の出所が不明なことが多すぎる。今回の継ぎはぎ戦艦にしても、どこで拾ってきたのか見当がつかない。それに……型落ちとはいえ、軍用のUNBを五機も――普通じゃ手に入らない」


 ミケの狐耳がぴくりと動く。


「つまり、裏があるのは“ゴレイブたち”じゃなくて、売った“業者”の方かもしれないってこと?」


「そういうこと。今回、ゴレイブたちは“犯罪組織”の手先だったわけじゃない。でも、あの業者は……もしかしたら、そういう連中とつながってるかもしれない」


 俺は小さく息を吐いた。


「だからこそ、ロウは――話をちゃんと聞きたかったんだろうな」


 俺は歩きながらそう呟いた。


「証拠としての“証言”が取れるかもしれない。たまたまとはいえ、今回で尻尾をつかめる可能性があるなら――見逃す手はないだろ」


「なるほどね……でも、エクスってばすごいのね」


 隣を歩くミケが、ふと珍しいものでも見るような顔で俺を見つめてくる。


 おっ……なんだよ。俺の知識量に感心したのか?


「……700年も働けば、知識も擦り切れるくらいには蓄えられるのね」


「……は?」


 言葉の意味を一瞬で理解できず、俺は目を瞬かせる。


「どういう意味だ、それ?」


「じゃあ聞くけど――学校の授業内容、どれくらい覚えてる?」


「……いや、それは別の話じゃん」


 話題の切り替えが雑すぎるだろ。


 俺は小さくため息をついて、踵を返す。


「……いいから、行くぞ。とりあえず、指示通りまとめておこう」


「……逃げたわね」


 ミケの声が、背中越しに軽やかに刺さってくる。


 うるさい、動け。……って、後ろから“やれやれ”みたいな雰囲気を出すな。見えてるんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ