牽引と拘束、そして静寂の果てに
戦闘が終わり、宙域には静けさが戻っていた。
損傷の少ない、継ぎはぎだらけの海賊船を前にして、この後どう動くか――そんな思考を巡らせていると、コックピット内にロウの通信が響いた。
『エクス。その戦艦をホームの倉庫の横に持ってきて頂戴。カリバーンなら可能でしょう。その後、いったんカリバーンを格納庫に戻して、内部探索に移って頂戴』
「何か、縛るものってあったっけ?」
『ロープがあるわ。海賊なんでしょ? ぐるぐる巻きで良いのよ』
脳裏に、情けなく拘束された海賊の姿が浮かび、思わず口元が緩む。
『急いで。中の人間が目を覚ますかもしれないし、それに……漂っているUNB五機の回収も忘れずに』
「了解。ミケ、モードチェンジするぞ」
俺の言葉に、隣からすぐに落ち着いた返事が返ってくる。
『わかったわ。いつでも』
ミケの狐耳がピクリと揺れ、尻尾が小さく弧を描いた。その仕草に、気持ちの切り替えが伝わってくる。
「チェンジ完了。――さて、クローアンカー射出」
スケイルシールドが展開され、クローが海賊船の船体へと突き刺さる。しっかりと固定されたことを確認し、縮退炉の出力を引き上げた。
背部に埋め込まれた双子の縮退炉から、無限を象徴するような光が背中を包み込む。その輝きが、宙域にひときわ眩く広がった。
カリバーンが、静かに船体を引き始める。
「……軽いもんだな」
『まあ、相手は止まってるし。カリバーンの推進力は桁違いよ。全身が推進装置みたいなものだし』
ミケの声には少しだけ誇らしさが滲んでいた。俺も頷きながら、そのまま牽引を続ける。
『はい、そこで止まって』
ロウの声が再びブリッジから届く。位置を見極めたロウが、搬入のための正確な座標を指示してくれる。
『OK。搬入口を伸ばして……接続完了』
ロウの指示と同時に、ホーム側から接続用のアームが展開され、海賊船のハッチと接続された。
『エクス、まずはUNBのパイロットを確保して頂戴。私が宇宙服を着て、ぐるぐる巻きにしてあげる♪』
……なんで、最後だけ楽しそうなんだよ。
思わずツッコミそうになったが、まあ――それはそれでいつも通りか。
まずは、漂っていた五機のUNBを順に引き寄せ、カリバーンの周囲に集めた。
「聞こえているだろ。……コックピットから降りろ。降りないなら、こじ開ける。怪我しても責任は取らんぞ」
カリバーンの外部スピーカーを通じてそう呼びかけると、数秒の静寂の後――次々とハッチが開き、パイロットたちが飛び出してきた。
まるで隠れていた虫を炙り出したような反応だ。
「逃げるなよ。逃げた瞬間、凍らす」
言葉だけではなく、しっかりと“証拠”も見せる。俺は手をかざし、漂っていた一機――胴体部分だけ残ったUNBを魔力で凍らせた。
シュウッという鋭い冷却音と共に、その機体は一瞬で氷柱と化す。その光景に、五人のパイロットは一様に立ちすくんだ。
「そのまま、下部の格納庫に向かえ。くれぐれも、変な気を起こすなよ」
凍てつく魔力の残滓が漂う中、彼らは慌てて動き始めた。……が。
「……あれ? 推進装置、ついてないのか?」
海賊仕様の簡易パイロットスーツ。機動補助の装置もなければ、スラスターも見当たらない。ただ手足をばたつかせているだけで、微動だにしない。
『エクス。やんわりと風魔法で動かしてしまった方が早いわ』
ミケの声が落ち着いていて、少しだけ呆れていた。
「……そうだな、ミケ。……なんか哀れだな」
『仕方ないわよ。やらかした内容を考えたら、それでも生きてるだけ感謝すべきよ』
彼女の狐耳がピクリと揺れ、尻尾もわずかにため息のように揺れるのが、通信越しに伝わる。
俺は軽く手を振り、抑えた風魔法で五人をやんわりと押し流す。パイロットたちは半ば転がるように、ゆっくりと格納庫方向へ流れていった。
「……さて。全員入ったな。カリバーンも、いったん格納庫に戻すぞ」
牽引を終えた俺たちは、静かにホームへと向かい、外部搬入口からカリバーンごと格納庫へと滑り込んだ。
すると――
「……おい」
思わず声が漏れた。
格納庫の中央。五人のパイロットは、床に寝かされた状態でロープでしっかりと拘束されていた。抵抗の余地すらないその姿は、もはや海賊というより脱力した雑魚キャラだ。
その傍らでは、ロウが淡々とロープを巻き上げており、まるで日常の作業のような手際だった。
固定アームがカリバーンのフレームを正確に掴み、俺とミケはゆっくりとコックピットから降りた。
「さて、お次は――海賊船の中の人ね。こいつらは私が見張ってるから、お願いしてもいい?」
ロウが振り返ることもなく、拘束の最終チェックをしながら言う。
「わかった。それと、内通してた従業員……目印みたいなものは?」
「ないみたいね。だから全員拘束して、後で倉庫に集合でいいわよ」
「了解。ミケ、行こうか」
「ええ」
二人で小さく手を振って、再び海賊船の中へ向かう。
――船内は、静まり返っていた。全員、ミケのナノマシンによる電気ショックで気絶しており、すでに動ける者はいない。
俺とミケは、それぞれの個体をロープで縛り、重ねるように並べていく。全員を拘束し終えたのを確認してから、ミケに海賊たちの移動を任せブリッジへ向かった。
「端末を確認……アンチウイルス作動、データ抽出開始。……転送完了」
表示されたログを確認し、俺はケーブルを引き抜いた。
「これで、この船もおしまいだな」
静まり返った艦内には、もう誰の気配もない。まるで魂を失った器のように、ただ空間に浮いているだけだ。
俺は海賊船を後にして、再びホームの格納庫へと戻る。しかし――扉が開いた瞬間、思わず立ち止まった。
「……なんだ、これ」
格納庫内には、ロープでしっかり縛られていた海賊たちが、なぜか床の上で暴れ……もとい、無様にもがいていた。
ものすごく、動きが騒がしい。




