痛恨の海賊宣言と電撃制圧
静かに待機する中、コックピット内に通信音が響いた。ロウからの回線だ。
『申請は全部終わったわ。依頼も変更済み。後十分ほどでスペースゲートを出て、予定のポイントに向かうわ』
「了解」
俺は短く応じ、魔力の流れを乱さないよう意識を保ったまま待機を続ける。
『再度注意しておくわ。今、グレイブさんに頼んで、内部に潜入している従業員へ指示を出してもらっているわ』
ロウの声は淡々としていたが、緊張感を帯びていた。
『こちらを捉え次第、UNBを発進させてホームを囲ませるように提案させる予定よ。もちろん、輸送品が傷つかないよう、攻撃は厳禁とも伝えてもらう』
全周囲モニターに、格納庫内の静かな映像が広がる。
『こっちは指示通り、倉庫と偽って格納庫を開けるから――即座に、行動不能にして頂戴ね』
「わかった」
そう答え、俺は再び待機に戻った。コックピット内に魔力の流れを安定させたまま、静かに時間が過ぎるのを待つ。
おおよそ三十分ほど経った頃、格納庫内にアラーム音が鳴り響いた。
『かかった! 今、通信を繋ぎながら流すから、タイミングを見てお願いね』
「了解だ。いつでもいける」
俺は即座に応じると、隣のミケに声をかけた。
「ミケ、固定アームを外しておいて」
『了解』
ミケの返事と同時に、格納庫内の固定アームが静かに解除される。機体がふわりと自由に浮き、俺はコックピットとのリンクをさらに深めた。視界が重なり、カリバーンと一体化する感覚が体中を駆け巡る。
その瞬間、格納庫に設置された外部スピーカーから、妙に勢いだけはある通信が響き始めた。
『おい! 聞こえるか! そこの変な黒狼運送の輸送艦! 大人しくしろ! 俺はブラックウルフ団キャプテンのゴレイブだ!』
……痛い。何だろう、心が痛い。聞いてるだけで、顔から火が出そうだった。
『聞こえるかって言ってるんだ! 海賊だぞ!』
さらに追い打ちをかけるような声が飛んでくる。と、ブリッジにいるロウの声が、やや困ったように応答した。
『あーっ。こちらは黒狼運送ですが……』
すごい。冷静なロウですら、対応に困っているのが伝わってきた。
『大人しくしろ! 俺の戦艦、ダークウルフのものすごい砲門がお前の艦を狙っている! 聞こえるだろ、ロックオンしている警告音が! 今、UNBも五機向かわせた! そのまま大人しくしているんだ!』
……やめてくれ。これ、絶対グレイブさんもゲイブさんも聞いてる。そう思った瞬間、猛烈な恥ずかしさが押し寄せてきた。
『エクス……私、なんだか泣きそう』
ミケの沈んだ声が通信越しに聞こえてくる。耳をぴたりと伏せ、尻尾も力なく垂れている様子が目に浮かんだ。
「やめてくれ……俺もだ。もう、聞いていたくない……いたたまれない!」
俺は心の底から叫びたくなった。こんなにも居たたまれない気持ちになったのは、生まれて初めてかもしれない。
『わかりました。大人しく従いますので、攻撃をしないでください』
ロウが演技を交えながら応答している。しかし、どこか笑いを堪えているような雰囲気を、俺は感じ取っていた。
『よしよし。恐ろしいだろ! いいか、今から積み荷を頂くから倉庫のハッチを開けろ』
『わかりました。ハッチは下部にありますので、そちらで待ってください』
静かに、確実に流れていくやり取り。――さて、出番が来る。
『エクス。敵のUNBはバージェンド帝国製みたい。だけど、かなりの型落ち。武装はしてるから、油断だけはしないで』
「了解!」
俺は短く応じ、集中を高める。ハッチが開いた瞬間、緊張が一気に解き放たれた。
さあ――お仕置きの時間だ。
カリバーンをハッチから滑り出させると、すぐに最も近くにいたUNBへと急接近する。敵機が気づく暇もなく、オーラを纏わせた拳を叩き込んだ。
右腕、左腕、右脚、左脚――四肢を吹き飛ばし、最後に顔面を一撃。鋼の仮面が砕け、機体が力なく崩れ落ちる。
「一つ」
即座にスケイルシールドを展開し、クローアンカーを射出。伸びたクローがUNBの腰部を挟み込む。魔力刃が発生し、腰のフレームを一気に切断。さらにショットライフルを素早く抜き、至近距離から顔面と両腕を撃ち抜いた。
「二つ」
周囲を見回す。まだ状況を飲み込めず、硬直している二機が目に入った。
俺は跳躍し、両機の間に飛び込む。両手をそれぞれに当て、魔力を一気に振動させる。
内部バッテリーに過負荷をかけ――ビリビリ、と短いスパーク音を立てて、二機が同時に動きを止めた。
「振動拳の応用だ。これで、残り一機」
最後の一機が我に返り、逃走を図る。だが――逃がすつもりはない。
「逃がさない」
魔力を展開し、逃げ道を塞ぐように正面へと氷の壁を生成。UNBは慌ててブレーキをかけたが、間に合わない。
俺は壁を利用して一気に距離を詰め、オーラを纏った拳で四肢を破壊、最後に顔面を打ち砕く。
「終わり」
無言で周囲を確認する。UNB、全滅。ホームを囲む予定だった敵機は、全て行動不能だ。
「ミケ、後は戦艦だけだ」
『わかったわ。モードチェンジ、ミューケイ』
通信越しに聞こえるミケの声とともに、タマモがカリバーンから変形する。白と緑の装甲が流れるように再構成され、狐耳と尻尾を持った、美しい姿が現れる。
ミケはそのまま戦艦へ向かって突き進んだ。
「撃ってきてるが……全然、狙いが合ってないな」
『躱すまでもないけど……哀れね』
砲撃は虚しく空を裂き、かすりもしない。
その間にも、タマモの尻尾からナノマシンが散布されていく。ミケは風の魔法を展開し、ナノマシンをダークウルフの内部へと送り込む。
「ミケ、十分だ。いいか、気絶程度だぞ。やりすぎるなよ」
『わかってるわ。雷』
ミケの声とともに、ダークウルフの内部が一瞬、白く光る。魔力による雷撃が艦内全体に拡散し、システムとクルーたちを一斉に無力化する。
『大丈夫そうかしら?』
「ああ。艦内には生命反応はある。誰も動いてない。制圧完了」
俺は静かに、しかし確信を込めて応じた。




