作戦準備とリビングのひととき
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素材の加工が終了し、黒狼運送からの依頼に向けた準備が始まった。
「簡易ペイントで黒狼運送のロゴを艦体に塗るって……後で落ちるんだよな?」
俺は艦体に描かれる派手なロゴをホロディスプレイを眺めながら、思わず疑いの声を上げた。
「落ちるわ。心配しないの」
ロウはあっさりと答える。 その自信満々な口ぶりに、逆に不安が募るけど……まあ、ここでゴネても仕方ないか。
隣では、ミケが興味津々といった様子で艦体に描かれていくロゴを見つめていた。
「これで、運送ルートを通るときに海賊をおびき出すのね」
狐耳をぴょこんと立てながら、ミケは面白がっている。
艦体に描かれた黒狼運送のロゴは、何度見てもインパクトが強い。 黒いサングラスをかけた狼が、葉巻をくわえてグッドサインをしている―― その下には『安心安全いつも笑顔の黒狼運送』という、妙に穏やかなスローガン。
(……いっつも思うけど、このギャップ、好きだわ)
黒い狼がガチガチにキメ顔してるのに、「安心安全」「笑顔」なんて、どう考えてもアンバランスだろ。 けど、そこがまたクセになるというか……見れば見るほど味が出る。
「さて、ペイントが終わる間に、打合せしてしまいましょうか」
ロウの声に、俺たちは自然とソファへ集まった。 そして端末を軽く操作し、今回の依頼詳細をホロディスプレイに映し出す。
「今回は、海賊の討伐。詳細はこれね」
画面に映し出されたのは――どこのメーカー製かも分からない、継ぎはぎだらけの戦艦。 艦体は塗装も剥がれ、あちこちが溶接跡で歪んでいる。 そして、側面には手描きのドクロマーク。 ドクロ……か? あれ……ドクロかな……。
「……なんか、情けなくないか」
思わず口に出すと、ロウが苦笑交じりに答えた。
「見た目で判断しない。でも、これは素人で間違いないわね。データにも一切登録されてないし……」
ロウは腕を組み、真剣な表情で続けた。
「……うーん。気になるわね」
「気になるって?」
ミケが首をかしげながら尋ねた。 狐耳がぴくりと揺れる。
「この運搬路で海賊行為をするなんて、自殺行為よ。しかも、まともな装備もない、こんな継ぎはぎの戦艦で。普通なら、絶対に手を出さない」
ロウは端末を操作しながら、やや声を落とす。
「深読みしたくはないけど――何か裏があるんじゃないかって」
俺も自然と背筋を正した。 ただの素人の暴走にしては、引っかかる点が多すぎる。
俺が問いかけると、ロウは軽く頷きながらホロディスプレイを操作した。
「黒狼運送から提供された映像では、逃げるときに戦艦からUNBが五機ほど発艦してるわ。ただ、かなり距離があったせいで、種類や型番までは識別不能だったみたい」
ロウは指先で映像を巻き戻し、じっと画面を見つめながら続けた。
「ここも不思議なのよね。普通、襲撃するなら最初の時点で発艦してなきゃ意味がないのに」
確かに、まともな海賊なら最初から一斉に機体を出して、奇襲をかけるのが常識だ。 わざわざ遅れて発艦するなんて、チャンスを逃すだけだろう。
「素人でいいんじゃないのか。考えすぎだよ」
俺は肩をすくめながら、あえて気楽に言った。 もちろん油断は禁物だってわかってるけど、今は変に身構えすぎても仕方ない。
「……そうならいいんだけどね。一応、注意しておいて」
ロウは苦笑しながらも、真剣なまなざしを向けてきた。
「了解」
俺は頷き、心の中で気を引き締め直す。
そのとき、ロウの端末にペイント作業終了の連絡が入った。
「さてと、行きましょうか」
ロウがソファーから軽やかに立ち上がる。
「今回は、私たちが黒狼運送の代わりに荷物を運ぶことになってる。一旦、黒狼運送の集積所に立ち寄って、ダミーの荷物を積み込んでから、指定された時間通りに運搬ルートを通過するわよ」
「……そこまで必要か?」
思わず問いかけると、ロウはすぐにきっぱりと答えた。
「必要よ」
その声音には、一切の迷いがなかった。
「万が一、集積所自体が監視されていたら――本物の運搬任務をしているように見せなきゃ意味がないわ」
ロウの言葉に、俺は素直に頷いた。 ただルートをなぞるだけじゃダメだ。“そう見せる”ことが必要なんだ。
ミケも静かに頷き、狐耳をぴんと立てた。
「やるからには、ちゃんとやらないとね」
「ああ。手を抜かない」
俺たちが覚悟を新たにする中、ロウはさらりと続けた。
「二人はこのリビングでのんびりしていていいわよ。この後、集積所に行ってから積み込みや手続きがあるから。そうね、二時間ほどかかるかしら」
「いいのか? ロウの負担に……」
「ならないわよ。それに、操舵席はリラックスできる仕様になってるから問題ないわ」
ロウはにっこりと笑うと、軽やかに玄関へ向かった。
「縮退炉は止めてないから、燃料役も必要ないわよ」
「いや、言わなくてもいいだろ!」
俺が叫ぶと、ロウは楽しそうに笑いながら、玄関を出てブリッジに行った。
静かになったリビングに、緩やかな空気が流れる。
「さて、二時間か……どうしようかな~」
俺は大きく伸びをして、ソファーにごろりと寝転んだ。
「私はお風呂に行くわ」
ミケがコーヒーカップを置き、軽やかに立ち上がる。
「いってら~。俺は漫画でも読むか」
そう決めると、収納魔法からデータを引き出し、ホロディスプレイに投影する。
ページをめくる音が、リビングに静かに満ちていく。
「この姿を見たら、王子には見えないわね」
ミケがくすっと笑いながら言った。
「その言葉、新聞データを読む父さんに言えるか?」
「スカイ様は別。読む姿が絵になってるもの」
俺は思わず天井を見上げた。 甚平を着て畳に胡坐をかき、新聞データを読む父さんの姿を思い出す。
(……いや、どう見ても絵になってないだろ)
心の中でそっとツッコミを入れる。
「のんびり入ってくるわ」
「おう、驚けよ。すごかったからな」
「はいはい」
ミケは軽く手を振りながら、嬉しそうに尻尾を揺らしてお風呂へ向かった。
リビングに残った俺は、再び漫画データに目を落とす。
「これ、美味そうだな。作ってくれないかな~」
漫画に登場する、湯気の立つ美味そうなご飯の描写に、思わず独り言を漏らしながらページをめくる。 満腹のはずなのに、こういう絵を見るとまた腹が減るから不思議だ。




