新生パーティ“エクスペリエンス”始動
その日は、ロウがギルドの引き継ぎを行うとのことで、いったんホームに戻った。
そして――翌日。
ギルドに足を運ぶと、入口付近で手を振るロウの姿が目に入った。
……私服姿のロウ。
ぴっちりとしたシルエットの服だったけど、不思議と違和感はなかった。むしろ“これぞロウ”って感じの華やかさで、見事に着こなしている。
――いや、本当にオカマ?って、ちょっと思ったほどだった。
が、
「遅かったわね。さあ、行きましょうか。私のおうちになるホームにね」
……しゃべると、ちゃんと違和感が来るな。いや、それがロウなんだけどさ。
「でも、いいのか? 本当に俺たちと行って」
「良いのよ。それに、私、操舵資格持ってるから。ホームの操縦は任せて♪」
ウインクの破壊力、相変わらずすげえな。でも、それも込みで“ロウらしさ”だ。
ミケが興味深そうにロウを見ていたが、すぐに話題が変わる。
「あ、その前に――パーティ申請だけ行っておきましょうか」
「なに? パーティ申請って?」
ミケが首を傾げて尋ねる。
「パーティ申請ってのは、ギルドに正式に“チーム”として登録するってことなんだ」
俺は手元の端末を開きながら説明を続ける。
「もちろん一人でも依頼は受けられるし、個別に連携しても問題ない。でもな、パーティ専用の依頼ってのがあるんだ。その依頼には“パーティ登録済み”って条件がある。条件を満たしてると、より上位の依頼や報酬の高い任務も選べるようになるんだよ」
「なるほど……ちゃんと一つのチームとして認めてもらうための制度なのね」
ミケが頷くと、ロウが小さく拍手をしてみせた。
「そういうこと。つまり私たちは、これから公式に“仲間”ってわけね」
ロウの笑みに、ミケが優しく微笑み返す。尻尾も、ふわりと弧を描いた。
「よし、じゃあ登録して、ホームに向かうか」
自然と気持ちが引き締まる。
いよいよ、ここからが本当の“始まり”だ。
さて、今からありのままを話すぞ。
揉めてます。
何でもめてるかっていうと――パーティ名。
「俺は『エクスパーティ』でいいと思うんだけど」
「反対。『九尾』がいい」
「私は……あなたたちが納得したのでいいわよ」
というわけで、今、名前決めで揉めに揉めている。
「“エクスパーティ”って何よ! あんたのパーティって、そのまんまだし恥ずかしいわよ!」
「そっちこそ“九尾”って、自分の種族名じゃん! 同じだろ、それ!」
「いいじゃない。響きが綺麗だし、かっこいいし」
「なら俺だって、かっこいいだろうが!」
「どこが!」
ビシッとミケが即答。耳が勢いよく跳ねて、尻尾までぴんと立っている。
「……ちょっとちょっと、落ち着いて。これは建設的な話し合いってことでいいのよね?」
ロウが笑顔のまま、手のひらをパタパタと振って止めに入る。
「落ち着いて。お互い、ちょっと熱くなりすぎよ」
ロウが手を出しながら二人の間に入ってくる。
「まず確認させて。……あなたたち、冒険者になって、何がしたいの?」
その問いに、ミケがまっすぐ答えた。
「それは……いろんな場所を見てみたい。行ってみたい。世界を知りたいの」
俺も頷く。
「俺も同じだ。未知の場所に行って、知らないものを見て、自分の足で確かめたい」
そこで、ミケがさらに答えを言った。
「私はそれにプラスして――エクスの“専属メイド”。その誇りは、絶対に失わないわ」
その言葉に、思わず胸が熱くなる。
「……ありがとう」
俺は素直に、そう返した。
「そうね」
ロウが優しく微笑む。
「目標は同じ。なら――こういうのはどうかしら?」
少し間を置いて、ロウが提案する。
「“エクスペリエンス”ってどう? “経験”や“体験”って意味があるの。私たち、それぞれが世界を知りたいって思ってる。それをまっすぐに表す名前よ」
「それだ!」
俺が思わず声を上げると、すぐにミケも続いた。
「それよ!」
狐耳が勢いよく跳ね、尻尾が嬉しそうに揺れる。
ロウはくすっと笑って、両手を合わせた。
「決まり、ね。パーティ“エクスペリエンス”。これが、私たち三人の最初の名前。ちょっと時間がかかっちゃったから、ここで依頼も決めてしまいましょうか」
ロウがふわりと微笑むと、ミケの尻尾が嬉しそうに弧を描いた。
「よし、じゃあ――さっそく依頼を選ぼうぜ!」
勢いよく宣言する俺に、ミケが小首をかしげる。
「そうだけど……何から始めたらいいのかしら?」
俺とミケは端末を起動し、依頼一覧に目を通しはじめた。
すると、ロウが一歩前に出て、手元のホロディスプレイを展開する。
「一応、あなたたちの実力を見せてもらう意味でも――まずは簡単な討伐依頼が良いわね」
表示されたのは、鉱石採掘区画の案件だった。
「これ。採掘用の隕石群に“ブラックウルフ”の群れが現れて、作業員に怪我人が出たの。依頼は、その討伐」
「ブラックウルフ……?」
ミケが画面をのぞき込みながら、眉をひそめる。
「規模としては四匹。害獣ランクは“H”よ」
ロウが淡々と説明を続ける。
「今のあなたたちも、ギルドのランクは“H”。初級同士の対処としては、ちょうどいい難度だと思うわ」
「なるほど……初心者向けってことか」
俺は腕を組みながらうなずく。
「うん。でも油断は禁物ね。数は少ないけど、連携してくるタイプの害獣みたいだし」
ミケが静かに言い添えた。
……よし。
胸の奥に、ぐっと熱がこみ上げてくる。
いよいよ、俺たちの最初の一歩が始まる。




