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冒険者登録の五つの誓約

「……はいはい、俺が説明するよ」


 呆れながらも、俺はミケに向けて、手順の説明を始めた。


 ミケにチェック欄の説明をしながら、俺も同時に登録を進めていく。


「ミケ、ぶちゃけそこまで詳しく読まなくていい。簡単に言うと五つの事をしているか、もしくはこれからするって誓う形になる」


「五つの事?」


「そう。まず一つは――ナノマシン注射をしているか。これは生まれた時に全員してるからOK」


 そう言いながら指さした項目に、ミケは素直に視線を落とす。尻尾がゆるく揺れ、耳がぴくりと動いた。


「わかったけど。してない場合は?」


 そう尋ねながら、ミケは端末を軽く傾けて、内容を読み取るように目を細める。狐耳がわずかに伏せられ、慎重に考えている様子が表れていた。


「してなかったら、すればいい。理由としては、病気対策に言語翻訳、それと宇宙空間での筋力低下の防止……ってところだな」


「なるほど」


 ミケは小さく頷きながら、尻尾を静かに左右へと一度揺らす。その仕草には、納得と理解の色がにじんでいた。


「で次が、報酬に関する規約だ。依頼に表記されている報酬額は、既にギルド分の手数料を差し引いた金額で、万が一失敗した場合は自己責任で違反金が発生する場合がありますってこと」


「う~ん。厳しい世界ね」


 ミケは眉をわずかに寄せながら、端末を操作して該当の条文を読み進めている。耳がぴくりと一度跳ね、尻尾が思案するように小さくうねった。


「でもその分達成した時の達成感もあるし、違約金と言っても一応保険みたいなのがあって、ギルドが一旦肩代わりをしてくれるんだ。で、その間はランクの低い依頼をして返していくって感じだな。だけど失敗はランクに響くから気をつけないといけない」


「依頼選びも大事なのね」


 言いながら、ミケは端末から視線を上げ、まっすぐ俺を見た。耳は前を向き、尻尾はわずかに静止している。真剣な空気がその動きにも宿っていた。


「そう。身の丈に合わない依頼を受けると痛い目に合う。ロウも注意してたんだけど無視してやらかした冒険者も居たしな」


「そうね。全く、まだEランクなのにDランクを受けるって聞きやしない。おかげで依頼に失敗して、今でも違約金を返すため長期依頼の最中よ」


 ミケはあきれたように肩をすくめ、耳をぴくりと揺らした。尻尾が小さくため息のように揺れたのが、まるでその冒険者への同情を表しているようだった。


「そして三つ目。これは俺たちにはあまり関係ないけど、ギルドでのUNBや戦艦を借りた場合、修理費は自己負担てこと。ただ、今では基本買取一択なのが多いから、まあ気にしなくてもいい」


「私たちはもう持ってるから必要ないしね。でも、ギルドにUNBや戦艦ってあるの?」


 ミケは素朴な疑問を口にしながら、首を傾ける。耳が軽く倒れ、尻尾が一瞬だけ後ろへ引かれるように揺れた。


「引退する冒険者から買い取ったりしているよ。それを新人冒険者に貸し出したり、売ったりだな」


 そう説明しかけたところで、カウンターの横からロウの声がぴしゃりと入る。


「いい? 本来新人は借りたUNBをそのまま買い取るのよ。貴方たちは既にアドバンテージがあるってこと。優遇されていると言っていいわ。だからといって、油断はしないようにね」


 その忠告に、ミケの耳がぴくりと立ち上がる。尻尾もきゅっと引き締まるように動き、背筋を伸ばすように姿勢を正した。


「了解しました」


 言葉少なながらも、その動きにはしっかりとした決意が滲んでいた。


「四つ目。これは、当たり前なんだけど――一般市民に迷惑をかけないようにってこと。まあ、偉ぶるなってことだな。そんなことしてたら依頼も減るし、何よりギルドの理念に違反する。フリーギルドは犯罪以外、一般市民でさえ誰でも依頼を行える場所だからな。もしそんな奴がいたら資格剥奪だ」


「当たり前だけど、それがここに書かれてるってことは……」


 ミケは端末の文面を見つめながら、耳を少し伏せ、尻尾を揺らしてつぶやく。その仕草には、ただの建前では済まされない“過去”の気配を感じ取った様子がにじんでいた。


 俺が続きを説明しようと口を開いたとき――それを遮るように、ギルマスが面倒くさそうな声で話し始めた。


「昔な……もちろんこの国じゃないぞ。まぁ、態度の悪いやつがいたんだ。そのせいで、一国からギルドが締め出された。今は許されてギルドはあるが、その国では今でも冒険者の肩身は狭い」


「それでこれが追加されたってわけ」


 ロウが補足するように呟くと、ミケはそっと視線を落とし、尻尾を小さく揺らした。


「……そういうの、嫌いです」


 静かな声でそう呟いたミケの耳はぴんと立ち、まるでその過去の失敗を自分のことのように受け止めているようだった。


「俺たちはいつも道理にすればいい。偉ぶらず、楽しみながら行こう」


「そうね。教訓としてきちんと受け止め、楽しんでいきましょう」


 ミケはふわりと微笑み、耳が柔らかく傾いた。尻尾も穏やかに揺れ、彼女の中で芯のある覚悟と柔らかな優しさが共存しているのが伝わってくる。


「よし、じゃあ最後。どんな理由があれ、戦争や犯罪に手をかさない。当たり前だけど、一番重要なんだ」


「そうね。でも、戦争の加担って……依頼として来るんじゃないの?」


 ミケは眉を寄せて端末の画面を見つめる。耳がわずかに後ろへ倒れ、尾も一瞬だけ静止する。


「役割が違うんだ。そこは傭兵ギルドの分野。こっちは傭兵じゃない。冒険者なんだ」


 そう言う俺の言葉に、ミケは小さく頷き、耳を戻すように動かす。尻尾も再びゆるやかに揺れ始め、納得の色を浮かべていた。


「それと、犯罪。これは本当に“しないのが当たり前”……なんだけどさ、ロウ」


 俺がそう話を振ると、ロウはわずかに表情を引き締め、苦い笑みを浮かべながら頷いた。


「そうね。毎年、何人も手を染めちゃうのよ。力を手にしたことに酔って――バカが行うのよ」


 ロウの言葉に、ミケはぴたりと動きを止めた。


 狐耳がわずかに伏せられ、尻尾もその動きを止める。その静けさは、彼女なりにこの言葉の重さを受け止めている証だった。


「……力に責任が伴うって、わかってないんでしょうね」


 静かに呟いたその声には、悔しさと、どこか哀しさが滲んでいた。


 その余韻を受けて、俺は自然に言葉を継ぐ。


「――そういうやつは、もれなく“賞金首”行きだよ」


 ミケがこちらを見返す。耳がわずかに立ち、尻尾が緩やかに揺れ始める。


「犯罪者や海賊は、必ず賞金首リストに登録される。情報は傭兵ギルドと共有されて、こっちのギルドの掲示板にも張り出される」


「そうなのね……」


 ミケは静かにうなずきながら、少しだけ端末を見やった。


「まあ、実際に狩るのは――大抵、傭兵ギルドの連中だけどな。あっちは“賞金稼ぎ”専門だし、動きも早い」


 俺が肩をすくめると、ミケはほんの少し笑った。


 耳がわずかに和らぎ、尻尾がふわりと左右に揺れる。


「……でも、私たちも知識として持っておくべきね」


「うん。いつか、関わることがあるかもしれないしな」


 チェック項目の説明を一通り終え、端末を閉じながら俺は言った。


「――以上がチェック項目の内容。……まあ、ホントはもっと細かい規約がいろいろあるけど、最初のランクじゃ滅多に関わらないから、今はそれで十分だろ」


 それを聞いたミケが、少し首を傾ける。耳がぴくりと反応し、尻尾がふわりと揺れた。


「でも……気になるわね。どんな内容なの?」


「――ダンジョンのことだよ」


 その単語を口にした瞬間、ミケの耳がピンと立つ。


「ダンジョン?」


「ああ。魔力溜まりが異常値まで上がると、空間に“穴”が開くことがあってな。その向こうに異常空間が生まれて、害獣や害虫が湧き出す。地上でも、昔あったろ?」


「……あったわね。まだ小さかった頃に、封鎖されたって話を聞いたことがある」


 ミケは記憶をたどるように目を細めた。耳がわずかに伏せられ、尻尾が静かに揺れている。


「で、その“ダンジョン”ってさ――今じゃ“資源庫”って名前になっててさ。俺、ギルドでバイトしてた時に初めて知ったんだけど――」


「――資源庫って、あの……? 国家の直轄施設でしょ?!」


 ミケの声がわずかに強くなり、耳が一気に立ち上がる。尻尾もぴたりと止まり、その視線が俺に突き刺さる。


「国の重要施設じゃない!」


 その瞬間、横から鋭い声が飛んだ。


「おいおい、エクス」


 ギルマスターが手を止め、じっと俺をにらみつけていた。額に軽く手を当てながら、呆れたように言う。


「お前それ……完全に極秘情報だぞ」


「え、マジで……!?」


 俺が思わず声を上げると、ギルマスターは小さくため息をついた。


「まあ、王族と――そこに仕えてるメイドなら例外で聞かされてても問題はない。だがな……絶対に他の連中には口外するな」


 その言葉に、ミケの耳がぴくりと反応し、尻尾が背後で一度揺れたあと、きゅっと静止する。


 彼女は真っ直ぐにギルマスターを見据え、はっきりと答えた。


「了解です。……誰にも話しません」


 その瞳はまっすぐで、言葉に一切の曖昧さがなかった。


 その姿に、ギルマスターは少しだけ安心したように目を細め、静かに息を吐いた。


 そして――俺を見た。


「エクス。お前はな、ちょっと口が軽すぎるのを直せ。いくら家族でも仲間でも――ダメなことはダメだ」


 その言葉に、俺は思わず背筋を伸ばし、頭をかく。


「……すいません。今後、気をつけます」


 場の空気がぴりっと締まる。でも、それもまた、冒険者としての一歩なんだと――俺は胸の奥で静かに思った。


「まあいい。……でだ」


 ギルマスターは背もたれにどっかりと体を預けながら、続ける。


「ダンジョンってのは、地上だけに現れるとは限らない。宇宙にも存在する――そして、そっちの方が遥かに厄介だ」


 重々しい言葉に、俺とミケは自然と姿勢を正す。


「なんせ広大な宇宙空間の中で、それが発生しても――普通は気づかん。センサーも、警戒網もすり抜けてしまうことがある」


 ギルマスターは一瞬、目を細めた。


「その結果が今だ。宇宙害獣、宇宙害虫、そして――怪獣。全部そのせいで生まれ、広がった。ダンジョン起因の“異常生命”たちだ」


「それも……魔力溜まりが原因なんですか?」


 ミケがまっすぐに問いかけた。耳が正面を向き、尻尾は静かに止まっている。真剣な視線だった。


 ギルマスターは一瞬だけ口をつぐみ――そして、無表情のまま、短く言った。


「言えん。――機密だ」


 その一言に、ミケはすぐに反応した。ぴたりと姿勢を正し、耳がすっと伏せられる。尻尾も静かに収まり、短くうなずく。


「……わかりました」


 それ以上、詮索はしない。


 その態度に、ギルマスターはほんのわずかにうなずくと、視線を逸らして言葉を継いだ。


「低ランクの冒険者に回る依頼はな、害獣や宇宙害虫の討伐、調査――それと、一般市民や企業からの採取・輸送依頼が主になる。地味だが数も多いし、油断すれば死ぬ。簡単だなんて思うなよ」


 その言葉に、ミケはすぐさま応じた。


 耳を立て、尻尾をきゅっと引き締めたまま、凛とした声で――


「わかってます。気を引き締めて、行動します」


 その短い返事の中に、彼女なりの覚悟がにじんでいた。


 ギルマスターは黙って頷くと、机の上の端末に操作を加え、最後のホロウィンドウを呼び出す。


「……よし。なら――署名して、正式登録完了だ」


 透明なホログラムが目の前に展開され、名前の記入欄と指紋認証のマークが浮かび上がる。


 ここが、冒険者としての本当の“始まり”。


 俺たちは、ゆっくりと手を伸ばした――。

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