王都の宇宙港と仮契約
「でっかいな……」
目の前に広がる巨大な宇宙港を前に、俺は思わず言葉を漏らした。
エルドラ王国の王都――そこに設置された宇宙港は、まるで都市ひとつが浮いているかのような構造物だった。
地上から見てもそのスケールには驚かされていたが、実際に目前にすると、その存在感に圧倒される。
「そりゃそうよ。何百って数の宇宙艦を停泊させてるんだもの」
ミケが言いながら、ぴくりと耳を揺らす。
口調は淡々としているのに、その尻尾は後方でゆるく上下に揺れていた。まるで「でしょ?」と返すように。
「でも、これでも“まだ小さい”方らしいわよ。別の国にある宇宙港なんて、比べ物にならないって話」
「マジでか……!」
俺は目を丸くしながら反射的に返す。
「考えてみなさい。ユグドラシルと比べてどう?」
ミケが首を傾けながら言うと、耳がぴんと立ち、尻尾もピクリと動いた。
その言葉に、自然とあの艦の姿が脳裏に浮かぶ。
あれはもはや戦艦の域を超えた、ひとつの世界だった。
「……ユグドラシルの方が、圧倒的にデカいな」
呟いた俺に、ミケは軽く目を細めて頷いた。
「でしょ。世界はとんでもなく広いんだから、この程度で驚いてちゃ……そのうち、心臓がもたないわよ」
「ふふ……そうなったら、俺にはもう一個あるからな。予備装備済みだ」
俺が軽口を叩くと、ミケの耳がぴくりと動き、尻尾が一瞬ぴんと立ったあと――はた、と揺れた。
「……あんまり調子に乗ってると、その“予備”もまとめて吹っ飛ぶわよ」
その静かな一言に、なんとなくゾッとした。
俺たちは冗談を交わしながらも、通信設備のあるターミナルへと歩を進めていく。
ホロパネルの表示が切り替わり、静かな電子音と共に通信回線が接続された。
『こちら、王立宇宙港第5ブロック管制官です。そちらの艦名とIDを提示してください』
端的で無駄のない声が、クリアに響く。
俺は姿勢を正しながら、少し焦り気味に返答した。
「わかりました。船名は《ホーム》で、IDは……」
言いかけて、ホロに映る表示を目で探す。
「……ミケ、IDってどこにある?」
慌てて横を見ると、ミケが小さくため息をついた。狐耳がピクリと震え、尻尾がわずかに揺れた。
「……代わって」
ミケはスッと前へ出て、操作パネルを指先で滑らせる。
「失礼しました。こちら、艦登録データになります。ご確認ください」
その声は落ち着いていて、必要な情報だけを正確に伝える。
画面には即座に《ホーム》の艦籍登録データとIDコードが表示され、送信ログが立ち上がった。
『確認しました。――ご利用予定期間は、どのくらいをお考えですか?』
落ち着いた女性の声が、通信越しに響く。
「とりあえず一年を予定しています。ただ、冒険者になる予定なので、延長する可能性もあります」
俺ははっきりと答えた。隣でミケが静かに頷く。
『承知しました。現在は、まだ冒険者登録はお済みではない――ということで、間違いないですね?』
「はい。本日中に登録予定です」
すぐに返すと、通信の向こうで一拍の確認が入り、再び声が続いた。
『そうですか。でしたら――本日は「仮契約」として、一日限定の利用をお勧めします。その後、正式な冒険者登録が確認でき次第、年間契約に切り替える形が最もスムーズです。なお、本日の利用料金は一日5千UCになります』
高い。マジでか~、予算ないぞ……。
『また、冒険者認定後は長期割引が適用可能です。月ごとのお支払いの場合は一年契約で月額10万UC、年間一括払いは100万UCとなります』
(……高っけぇ)
思わず心の中で叫んだが、宇宙港の規模や設備を考えれば、納得せざるを得ない。
俺はちらりとミケを見る。彼女の尻尾が細かく揺れているのは、既に頭の中で料金計算を終えた証だ。
「その料金には、整備代も含まれていますか?」
ミケが冷静に尋ねると、管制官はすぐに答えた。
『はい、含まれております。ご不要でしょうか?』
「はい、なくても大丈夫です。あと、エネルギー補給も不要です」
『えっ、いらないんですか?本当に大丈夫ですか?』
「はい。問題ありません。うちには“燃料タンク”がいますので」
さらっと言ったミケの横顔に、俺は思わず目を丸くする。
(おい、それ……俺のことだよな!?)
『そ、そうですか……。それでは本日のご利用料金は3千UCになります』
「年間契約の場合は?」
『一月7万UC、年間一括で70万UCです』
(値下げしてくれるのは助かるけど……やっぱり高い!)
心の中で天を仰ぎつつ、俺は横で淡々と処理を進めていくミケの尻尾の揺れに、頼もしさを感じるしかなかった。
心の中で天を仰ぎながらも、横で淡々と処理を進めていくミケの尻尾の揺れに、俺はただ静かに頼もしさを感じていた。
「わかりました。では、本日は仮契約で。冒険者登録が完了した後、本契約に切り替えてください。支払い方法は――年間一括でお願いします」
ミケが落ち着いた口調で告げると、通信の向こうから即座に返答が返る。
『承知しました。それでは、契約関連のデータを三点送信いたします。一つ目は本日の仮契約および支払いデータ。二つ目は冒険者証明の提出フォーム。三つ目は本契約と支払いの正式手続き用データです。順にご確認ください』
次の瞬間、ホロパネル上に三つのデータウィンドウが立ち上がった。
内容をざっと目で追う。――うん、大丈夫だな。
(まさか、こんなところでギルドのバイト経験が活きるとは……)
「ミケ。問題ないぞ」
「――もう読んだの!?」
驚いたように振り向いたミケの耳がぴくんと跳ね、尻尾がふわっと大きく揺れた。
「ギルドで嫌というほど書類見てきたからな。速読能力、かなり鍛えられたぜ!」
自信ありげに胸を張ると、ミケはほんのわずかに口元をゆるめた。
「……自慢できそうで、まったく出来ない特技ね」
尻尾が一度、くるりと弧を描いた。
「じゃあ、エクス。サインして、それと支払いもお願い」
「…………金、ないです」
小声で告げると、ミケの尻尾が一瞬ぴたりと止まった。
「全部そいつら――ホームとカリバーンに消えました」
ミケは無言でこちらを見つめた。耳がピクリと揺れ、ため息のように尻尾がゆっくりと下がる。
「……私が出しておくわ」
そう言った彼女の声は、どこか呆れと諦め、そしてほんの少しだけ優しさを含んでいた。




