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それぞれの旅立ち?

 俺とミケは、それぞれの更衣室でパイロットスーツを脱ぎ、私服に着替えた。――もう、間違えないよ。そして、並んでハンガーへ向かう。そこでは、タマモが――仰向けに寝そべった形で、ホームにゆっくりと収納されていくところだった。


 ホーム。俺たち専用の小型艦だ。


 全長はたったの七十メートル。だが、最大横幅は百メートルにも達していて、全長よりもはるかに広い。さらに最大全高も七十メートル――まるで横に膨らんだいびつな台形のような、独特なシルエットをしている。


 だがその形も、今はどこか頼もしく見えた。


 ホームの前には、父さんと母さん、それにセンカ姉さん、ゼン義兄さん、ジジさんの姿があった。みんな、あたたかな視線で俺たちを迎えてくれていた。


 ミケと肩を並べながら、俺は一歩ずつ歩み寄る。


 そして――


「さて、これからはお前たちの人生だ」


 父さんが、儀式のように厳かに告げた。


「ギルドに行って、冒険者登録をしてこい。……後は、自由に生きろ」


 短いけれど、ずっしりと重い言葉だった。


 俺は、無意識に拳を握りしめる。


 自由。それは、俺たち自身で道を選び、切り拓いていくということだ。


 隣でミケも、きゅっと拳を握りしめ、真剣な顔つきで頷いていた。


 その時、母さんがふわりと笑いながら言葉を継いだ。


「でもね、いつでも帰ってきてもいいわよ」


 その優しい声に、ほんの少しだけ緊張がほぐれる。


 けれど、次の一言で思わず吹き出しそうになった。


「センカちゃんみたいに、二十年も帰ってこないことは、無いようにね」


「母さん、そのことはもう言いでしょ」


 姉さんが少し苦笑いを浮かべながら、こちらに向き直る。


「ユグドラシルには、いつでも来なさい。専用のハンガーは開けておくわ。それに、何なら拠点にしてもいいからね。いつでもいらっしゃい」


 センカ姉さんの声は、少し照れたように、でも確かなあたたかさを含んでいた。


「そうだな。また力がついたら――模擬戦をしようか」


 ゼン義兄さんが、腕を組んだままにやりと笑う。


「今度は、いい勝負になるといいがな」


 俺は、思わず背筋を伸ばす。


「エクス君~、ミケ君~」


 ひょいとジジさんが顔を出す。


「いつでも来てねぇ~。その時は、データと稼働記録をちょうだいよぉ~!」


 ちゃっかりと手を振りながら、嬉しそうにそう言った。


 みんなの視線が、自然と俺たちに集まる。


 その視線は、どこまでも温かく、優しかった。


 だけど――俺は、ちょっと言いたいことがあった。


「いや、暫くは国にいるよ」


 俺は苦笑しながら手を挙げる。


「まだ、冒険者としての下地を作ってないし。確かに、寝泊まりはホームでするけど……何だったら、昼飯食いに帰るくらいに考えてたんだけど?」


 ミケが、隣で小さくくすっと笑った。


 それは、どこか肩の力が抜けた、自然体の笑顔だった。


「お父さん。エクスちゃんとミケちゃんが着替えてる間に、もうあいつらは帰ってこないって言ってなかった? さっき」


 母さんの声には、ほんのりと圧を含んだ空気が漂っていた。思わず俺は、背筋を伸ばし、母さんへと視線を向ける。


「…………」


 父さんは無言で顔を逸らし、バツが悪そうに頬をかいた。


「私は、センカちゃんの時みたいに、勢いで宇宙に飛び出すのかと思ってたんだけど?」


 母さんの刺すような一言に、センカ姉さんへ流れ弾が直撃する。


「いや、ロウのアドバイスでさ。今すぐ宇宙に飛び出すんじゃなくて、まずは少しずつ慣らしていった方がいいってなったんだ」


 俺は慎重に言葉を選びながら続けた。


「俺自身、ギルドでバイトしてた時にさ。ケンさんとか、先輩冒険者さん達に教わったんだ。『いきなり旅立つのは危険だ』って。経験も積まずに飛び出すと、取り返しがつかないことになるって……だから」


 一度言葉を切り、隣にいるミケへと目を向けた。彼女は、軽く耳を揺らしながら俺を見つめ返している。


「ミケにも相談して、段階を踏んで進もうって決めたんだ。最初から賛同してくれたし、何なら、もしホームが無かったらアパートでも借りようかって、ロウにも相談してたくらいで」


 ミケは、柔らかな微笑みを浮かべながら頷いた。銀色の狐耳が、嬉しそうにぴくりと動く。


「で、どうして父さんは、そんなこと言ったんだ?」


 俺が問い返すと、父さんは微妙な表情で肩を竦めた。


「…………センカがそうだったからな。憧れてるお前も、同じことをやるのかと思って……」


「今、私は関係ないでしょ!」


 センカ姉さんが、すかさず突っ込む。


「そうは言うがな……」


 父さんはぼそぼそと言い訳を試みるが、すでに母さんの視線が彼を捕らえていた。


「お父さん。帰ったら、ゆっくりお話しましょ」


 母さんが穏やかな微笑みを浮かべた瞬間――父さんの顔から、すぅっと血の気が引いていくのがわかった。


(ああっ、父さん……説教確定だ……)


 俺は心の中で、そっと父さんの無事を祈った。


「とりあえず、俺とミケは今からエルドラ王国の王都にある宇宙港に行って、停泊許可をもらってから冒険者登録をしてくるよ」


 そう告げると、母さんが柔らかな微笑みを浮かべながら頷いた。


「いってらっしゃい、エクスちゃん、ミケちゃん。――さぁ、お父さん。私たちも帰りましょうか。そのあいだ、ゆっくりお話ししましょ」


「…………わかった」


 父さんは観念したように小さく頷き、母さんに連れられて、行きに乗って来た高速小型艦へと向かっていった。


 後ろ姿を見送りながら、俺は小さく息をついた。


「エクス。そうなら、また来なさい」


 センカ姉さんがふわりと笑いながら続ける。


「もう少ししたら、世界樹祭をユグドラシルで行う予定だから。見に来るといいわ」


「そうだな。でっかいお祭りだからな」


 ゼン義兄さんも、どこか懐かしむように微笑んだ。


「なら、いつでもデータが取れるんだねぇ~。これは楽しみだぁ~!」


 ジジさんが両手を広げ、相変わらずマイペースに浮かれている。だが――


「ジジ。やらかしは消えないわよ。今からフォール全体の会計と資料の見直しを行うわ」


 センカ姉さんの冷ややかな声が、ばっさりとジジさんを切り捨てた。


 ジジさんは、ぴたりと動きを止めた。


 ……合掌。ジジさんの無事も、ついでに祈っておこう。

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