タマモで挑むも、仕掛けられた罠
ゼン義兄さんが開始地点へ戻っていくのを見届けながら、俺たちはカリバーンの武装をホームへ転送する準備に入った。
「ミケ。いつでもいいぞ」
俺が合図を送ると、通信越しに彼女の落ち着いた声が返ってきた。
『了解。モードチェンジ、ミューケイ』
ミケの言葉と同時に、カリバーンの装甲が静かに震え、表層の魔力紋が淡く光り始める。滑らかな装甲が波紋のように変化し、内部機構が露わになると、滑るような動きで新たな形を形作っていく。――タマモモードへ。
変形が完了した瞬間、ホームから転送されたタマモ専用武装が次々と実体化していく。
両腕には妖力刀がマウントされ、腰元には左右にビームマシンガンが装備される。そして、背中にはしなやかに揺れる二本の尻尾――タマモモードの新たな装備が追加された。武装が接続されるたび、わずかに機体全体が沈み込み、重みをきちんと受け止める挙動が伝わってくる。
『すごいわね。腰回りやお尻、両腕にも重さがしっかり伝わってくるわ』
通信越しに、ミケの耳と尻尾が興味深そうに動く気配が伝わってきた。
「すごいよな。しかもちゃんと『持ってる』って感覚もあるぞ」
『もはや、謎技術ね』
呆れるような、でもどこか楽しげな声でミケが返す。
そんなやり取りを交わした直後、宇宙空間に赤い信号弾が弾けた。
「……開始だな。行こう、ミケ!」
『ええ。サポートしてよね、エクス』
「了解だ。今の義兄さんは――」
言いかけて、ゼン義兄さんがまだ動かず、静かにこちらを待っているのに気づいた。
「ミケ、動いてない。……よし、まずは遠距離からガンガン攻めてみよう!」
『了解。初手から畳みかけるわよ』
銀色の尻尾が揺れ、狐耳がぴくりと反応するミケの気配が、コクピット越しに心強く伝わってきた。
俺たちは息を合わせ、初手からフルスロットルで戦闘態勢に移行した。
ミケはタマモを滑らせるように動かしながら、距離を確保する。そして、後方に伸びた二本の尻尾――そのうちの一本をスッと手に取った。
銀色に輝く尻尾の根本から、武装が変形展開していく。露わになったのは、巨大な砲身――魔力式バスターキャノン。
その様子は、正直ちょっとシュールだった。尻尾をそのまま引き抜いて武器にするなんて、普通じゃ考えられない。
けれど、タマモにとってはこれが標準装備だ。
ミケは即座に砲身を固定し、ロックオンを開始する。
『ロック完了。撃つわよ』
「頼んだ!」
次の瞬間――
バスターキャノンから、蒼白い奔流が放たれた。
超高圧の魔力収束砲。本来なら、戦艦すら一撃で沈める威力を持つ直撃砲だ。
それが、真っすぐにプレシジョンへ向かって収束していく。
だが――
『なんで!?』
ミケが驚きの声を上げた。
俺も、目を疑った。
プレシジョンは、まるで事前に知っていたかのように――その両肩に装備された、魔力キャノンとメガスナイパーキャノンを同時に展開した。
青白い光が収束し、タマモの魔力式バスターキャノンの砲撃に向かって放たれる。
次の瞬間――
激しい閃光と爆音が宇宙に弾けた。
双方の砲撃が正面衝突し、膨大なエネルギーが拮抗しながらかき消えていく。
「ミケ! もう一度だ!」
俺はコクピット内で叫んだ。ミケもすぐに応じる。
『ええ! 何発も撃ち込んでみる!』
タマモの尻尾に変形したバスターキャノンが、再び魔力を溜め始める。銀色の尻尾から迸る光が、再装填の合図だ。
ミケはためらわない。
次々とロックオンを切り替え、あらゆる角度からバスターキャノンの砲撃を叩き込む。
連射される超高威力の魔力弾が、矢継ぎ早にプレシジョンへと迫る。
だが――
プレシジョンはわずかに体勢を変え、肩のキャノン砲を自在に操りながら、すべてを撃ち落としていく。魔力キャノン、メガスナイパーキャノン。二門の超重火器が、まるで生き物のような正確さで応射し、タマモのバスターキャノンを正面から叩き潰していく。
砲撃が衝突するたび、爆煙と光が宇宙に広がる。
「くっ……!」
『押し切れない……!』
ミケの声に焦りが滲む。尻尾を構え直し、さらに角度を変えて撃つ。しかし、何発放とうと結果は同じだった。
プレシジョンは一歩も動かず、冷静に、確実に迎撃してくる。
「ミケ、接近しながら行こう!」
俺は焦る気持ちを抑えながら、コクピット越しに呼びかけた。
『そうね。……このままじゃ、らちが明かないわ』
ミケが小さく吐息を漏らす。すぐにタマモの動きが変わった。
銀色に輝いていた尻尾が、するりと自然な動きで元の位置へと戻っていく。同時に、タマモの腰の左右――そこにマウントされていたビームマシンガンを、ミケが両手に取り構えた。
『ビームマシンガンで、撃ちまくってやるわ』
ミケの声に、確かな戦意が滲んでいる。狐耳がぴんと立ち、尻尾が軽やかに弾む気配が、補助席の俺にもはっきりと伝わってきた。
「行くぞ、ミケ!」
『ええっ!』
タマモは一気に加速した。宇宙空間を蹴るように推進剤を噴かし、プレシジョンへと一直線に詰め寄る。
両手のビームマシンガンが、咆哮した。
左右から放たれる無数の光条が、網のように空間を埋め尽くしていく。ミケは軌道を細かく変えながら、撃ち込み続けた。
だが――
プレシジョンは、巨体に似合わぬ滑らかな動きで射線をすり抜けていく。重心がまったくブレない。まるで、すべてを計算しているかのように。
さらに、魔力キャノンによる反撃。プレシジョンの肩部から発射される高エネルギー砲がタマモを狙うが、ミケは冷静に機体を捻り、絶妙なタイミングで回避を繰り返していた。
「いいぞ、ミケ!」
『当然よ!』
ミケの自信に満ちた声が頼もしい。
タマモはビームマシンガンの火力で押し込みながら、確実に距離を詰めていく。
あと少し――妖力刀の射程に入れれば、逆転の可能性も見える。
だが、その瞬間。
『良いぞ、ミケ君。……だが、残念だが積みだ』
静かに、けれど絶対的な自信を湛えた声が通信に割り込んできた。
ゼン義兄さんの声だった。
『えっ?』
ミケが困惑する。
「何を言って――……!」
俺は、異変に気付いた。
背後から、急速に接近してくる熱源反応!
「背後だ、ミケ! 熱源接近中!」
『うそっ、ミサイルなの!?』
「違う! ショットライフルだ!」
叫びながら、俺は補助コンソールを叩き、追尾警告を強制的に点滅させた。
モニターに映し出されたのは――両手から姿を消していたショットライフルが、背後に静かに浮かんでいた。
まるで、最初からこの機動を狙っていたかのように。戦いの流れを読み切った上で、罠を仕込んでいた。
『しまった……!』
ミケが悔しげに歯噛みする声が通信越しに伝わる。
次の瞬間――
ショットライフルから放たれた散弾が、タマモを直撃した。
機体が大きく揺れた。
その衝撃で、ミケの注意が一瞬だけ逸れる。銀色の尻尾が震え、狐耳がかすかに伏せられたのが、補助席の俺にもはっきりわかった。
「ミケ! 正面!」
必死に叫んだ。
だが――遅かった。
視界の中で、プレシジョンがすでに動いていた。
無駄のない機動でタマモに肉薄し、ビームセイバーを抜き放つ。濃いエネルギーの光刃が、蒼くきらめきながら、俺たちのコックピットに迫る。
一本は――ミケが操縦している左側コックピット寸前に。もう一本は――俺がいる右側コックピット寸前に。
刃先は、寸分違わず止まっていた。
タマモの装甲表面ぎりぎりに、ふたつのビームセイバーが静止している。わずかにでも動けば、即座に貫かれる位置だった。
その圧倒的な制圧力に、全身が強張る。
『覚えておけよ』
ゼン義兄さんの低く、静かな声が通信に響いた。
『……油断はしていなかった。それでも、こういう“想定外”な罠もある。忘れるなよ』
その言葉は、決して怒鳴り声でも、叱責でもなかった。ただ、深く静かに、俺たちの胸に突き刺さった。




