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完敗、そして教えられる強さ

 開始位置に着いた、その直後だった。


 宇宙に、赤い信号弾が弾け飛ぶ。


『エクス。ゼン様は真っすぐ来るわよ』


 ミケの落ち着いた声が通信越しに響く。


「マジか!? おいおい、義兄さん、それはさすがに舐めすぎだろ」


 俺は慌ててショットライフルを構え、警告がわりに数発放つ。しかし――


 プレシジョンはまったく怯むことなく、真正面から突っ込んできた。


 しかも、その巨体とは裏腹に動きが滑らかだ。まるで、空間そのものを押し退けるような迫力で。


 俺は即座に判断を切り替えた。


「わかった……なら、こっちも近距離で仕掛ける!」


 スケイルソードを抜き、エネルギー刃を展開。


 思いきりアクセルを踏み込み、プレシジョンへ向かって突進した――その瞬間だった。


 プレシジョンの両肩から光魔ミサイルがばら撒かれた。


『エクス! 後方にもミサイル反応! 雷魔法、広範囲に展開して!』


「いつの間に!? 了解!」


 左腕を振り上げ、全周囲に雷魔法を一気に解き放つ。


 放たれた雷撃が光魔ミサイルを次々に撃ち落とし、爆風が空間を揺らした。


 しかし――


 その爆煙の隙間から、一筋のビームが光った。


「っ――!」


 気づいた時には遅かった。


 右腕に持っていたスケイルソードが、ビームに貫かれ、手から弾き飛ばされる。


「あっ!」


 情けない声が漏れた。


 視線が思わず、吹き飛んでいったスケイルソードを追ってしまう。


 ――その隙が致命的だった。


『甘いぞ、エクス。今ので“死亡”判定だ』


 ゼン義兄さんの冷静な声が通信に流れる。


 ――しまった!


 慌てて顔を上げた俺の眼前には、もうプレシジョンの巨体が迫っていた。


 右肩から伸びる魔力キャノンが、背後に構えられたメガスナイパーキャノンが、腰の二十連光魔ミサイルポッドが――すべて、こちらに狙いを定めている。


 逃げ場は、ない。


 逃げようと動くよりも早く、全砲門が一斉に光を集めた。


 ……どうする? どうやってこの状況を打破する?


 魔法で目くらましか?


 いや、範囲が広すぎる。撃たれる前に発動できる保証がない。


 アンカーを撃ち込んで強制移動?


 だめだ。あの砲列の前では、移動中に撃ち抜かれる。


 思考が空回りし、喉が乾く。


 逃げ道も、勝ち筋も、何一つ見えなかった。


「……負けました」


 俺は小さく、呟くしかなかった。


 ――完敗だった。


 カリバーンは、何もできずに、ただ一方的に押し潰されたのだ。


『敗因は――俺のUNBが支援機だと油断し、まともに当てる気もない射撃に真っ向から突っ込んできた短絡的な行動』


 ゼン義兄さんの声が、静かに、しかし鋭く突き刺さる。


『だから、最初に仕掛けておいたミサイルに気を取られ、俺の姿を見失った。……そうなれば、もう勝負は決まっている』


 静かに告げられた事実に、思わず息を呑む。


「ミサイル……どうやって背後に?」


 絞り出すように問うと、ゼン義兄さんは淡々と答えた。


『開始直後、あらかじめ設定した座標に向かって光魔ミサイルを発射しておいた』


『通常なら即座に爆発するところを、光魔ミサイルは設定次第で光を抑え、目立たないようにできる。今回は、指定した地点に潜ませたまま、お前たちが通過する瞬間に魔力が活性化するよう調整していた』


 ゼン義兄さんの説明は淡々としていたが、その裏にある周到さと冷徹さは隠しきれなかった。


『いいか。武装の特徴も敵の手の内もわからない相手に、無策で接近するな。動きひとつで、命取りになる。お前たちが戦うのは、ただの訓練相手じゃない。――現実には、海賊や無法者もいる。奴らは奇襲も、卑劣な手段も平気で使う』


 だからこそ――


『距離に関係なく、必ず"仕留める"意識を持て。中途半端に撃ったり、油断したりするな。相手を逃せば、それがお前たちの命取りになる』


 ゼン義兄さんの声は冷たく、それでいて、どこまでも真剣だった。俺は、ただ黙って頷くしかなかった。


『しかし。一応言っておくがお前たちのUNB……いや、正式にはEMEだったな。――実際には、この位置でも俺は負けている』


 ……何を言っているんだ? どう見ても、積んでいるのはこっちなんだけど。


 目の前には、プレシジョンの全砲門がこちらを狙っている。逃げ場も反撃の手段もなく、完膚なきまでに追い詰められているというのに。


『いいか。一撃だけ入れる。だから動くなよ』


 ゼン義兄さんはそう言うと、ショットライフルを構え、一発、ためらいなく撃ち込んできた。


 正直、死んだと思った。


 けれど――


 衝撃も、痛みもなかった。モニターに警告も出ない。カリバーンの装甲は、まったくの無傷だった。


『忘れているかもしれないが――お前たちの機体は"スカイ様"の加護を受けている。つまり、エンシェントドラゴンの鱗を使用した特殊合金で作られた機体だ』


 ゼン義兄さんの声は、静かだった。


『正直、外部から傷をつけるのは並大抵じゃない。並の火力ではまず通らない』


 それだけじゃない。


『さらに、機体全身に魔力が膜のように張り巡らされている。いわば、常時展開しているバリアみたいなものだ。防御力は並みのUNBとは比較にならない』


 静かに、事実だけを並べるゼン義兄さん。


『……全く。ジジのやつは、とんでもないものを作ってくれたな』


 どこか呆れたように、それでも感心するように、そう付け加える。


 だが――


『だからと言って、油断するなよ。過信は最大の敵だ』


 その声には、はっきりとした警告が滲んでいた。


『ミケ君もだ。……この防御力に甘えたら、必ず隙が生まれる。肝に銘じておきなさい』


『はい。ありがとうございます』


 ミケがきちんと返事をする。


 ゼン義兄さんの静かな言葉に、俺もミケも自然と背筋を伸ばしていた。――カリバーンと、タマモと、そして、これからを戦う自分たち自身のために。


『わかったならいい。では、次はタマモで模擬戦だ』


「……あの、弾かれたソードの回収は?」


 ふと気になって尋ねると、今度はセンカ姉さんの声が入る。


『それなら、もう転送して回収してるわ。ミケがモードチェンジすれば、カリバーンの武装は自動でホームに戻される仕組みなの。もちろん、ホーム側からも遠隔操作で転送・回収ができるわよ』


 便利すぎる……。本当に至れり尽くせりで、ありがたい限りだ。


 ――そう思った矢先。


『ホントに、エクスが三回も時空試験に落ちた時は、どうしようかと思ったけど……受かって良かったわ』


 母さん……! そんな過去を今、掘り返さないでくれ!


『ミケは一発だったのに、エクスはな……。もう少し勉強を頑張るように。まあ、終わったことだが』


 今度は父さんまで乗ってきた!


『私、あれほど言ったのに。制御も固定も甘いからって!』


 ミケまで追撃してくる!


「もういい! それ以上、俺のHPを削るな!」


『エクス君~。でも、良かったねぇ~』


 ジジさんの妙に優しい声が、トドメのように追い打ちをかける。


 ――ああもう!


「ミケ! もうタマモにモードチェンジして、模擬戦開始だ!」


 俺は無理やり話題を切り替えた。これ以上、この話を続けたら、俺の精神がもたない!


(……もういいじゃん。受かったんだから!)

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