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タマモの舞と支援機詐欺

2025/04/18 書き直しました

 タマモが踊る。漆黒の宇宙を、優雅に、軽やかに――そして、力強く舞い、駆ける。


 ミケも、俺と同じように全身を使って、自在にタマモを操っていた。


 しかし――


『すごい! すごい! 私がタマモなんだ! 動く、走る、飛んでる!』


 ミケの弾んだ声が、通信越しに飛び込んでくる。


「ミケ、すごいだろ! まるで自分の体みたいだろ!」


『そうね! もう自由に動ける! 今までの操縦桿操作なんて、これには絶対に勝てないわよ!』


 ミケは言葉を矢継ぎ早にまくし立て、タマモを右へ左へ、跳ねるように操る。その姿は、まさに舞姫。自由そのものだった。


 けれど、あまりの勢いに、思わず俺は苦笑してしまう。


「そうだけど……なんか、テンション、俺より高くないか?」


 思わずそんなツッコミを入れると――


『……気のせいよ』


 ミケがそっぽを向く気配が、声だけで伝わってきた。


 ――いや、絶対気のせいじゃないだろ。


 けれど、その嬉しそうな声を聞いていたら、もうどうでもよくなった。


 しばらく、モードチェンジを繰り返したり、動きの感触を確かめたりしていると――


『二人とも、準備はもういいかしら? ゼンが今か今かと待ってるわよ』


 センカ姉さんの声が、通信越しに届いた。


 その声を聞いた瞬間、胸の奥に緊張感が少しずつ高まる。


『エクス、後ろにホームが来てるわ』


 続いてミケが言う。


「え?」


 思わず声を漏らしながら、後方に意識を向ける。


 視界を切り替え、振り返ると――俺たちの家でもあり、母艦でもある艦『ホーム』が、宇宙の中をゆっくりと滑るように近づいてくるのが見えた。


 その存在は、どこか安心感すら与えてくれる。


『もう準備運動は十分よね? これから、武装を転送するわよ』


 センカ姉さんの声音が、いつものように優しく、それでいて、どこか楽しげに響く。


『今から、まずカリバーン用のスケイルシリーズを転送するわ。ジジが説明していた通り、左腕と左腰のマウントポイントに転送するから、準備しておいて』


 その言葉に、俺は思わず首を傾げた。


「だけど姉さん。……カリバーンって、マウントなんて付いてたか? 特に外からは見えないんだけど」


 素直な疑問をぶつけると、センカ姉さんは軽く笑うように応じた。


『カリバーンもタマモも、物理的なマウントは不要なの。内部の魔力波センサーが、機体の“持つべき場所”を検知して、自動で武装を吸着させる仕組みになってるのよ。だから、気にしないで』


 その説明に、なるほどと小さく頷く。


 ジジさんが嬉々として話していた技術だ。思い出せば、確かにそんなことを言っていた気がする。


『まずは装着感と、使用感を確認してみなさい。ターゲットは――ゼンよ』


 センカ姉さんの言葉に、自然と身体が引き締まった。


 その瞬間――


 左腕と左腰に、ずしりとした重量がかかるのを感じる。視線を落とすと、左手には銀色に輝くスケイルシールドが装備されていた。


 乗る前、ハンガーでお披露目されたときはもっと大きく感じたが、実際に装備してみると意外とコンパクトだ。手に馴染む重量とサイズ。これなら、取り回しも悪くない。


 左腰に目を向けると、スケイルソードがマウントされていた。“大剣”と聞いていたが、こちらも思っていたより小ぶりだ。だが、重厚感は確かにある。


「……少し小さいか? でも、これはこれで取り回しが良さそうだな」


 呟きながら、シールドの表面に目を凝らす。クローアンカーの発射口が、盾の一部に巧妙に組み込まれている。展開時には広範囲に展開できそうだ。


 さらに、シールド裏面にはショットライフルが格納されていた。完全にシールドに隠れており、外からは存在すら分からない。


「クローアンカーは思ったより範囲広そうだし……ショットライフルもシールドに隠れてるから、被弾のリスクも少ないな」


 自然と頬が緩む。


 これは――実戦でも、かなり頼りになる。


 武装を確認していると、ふいに――ユグドラシルの艦体側から、一筋の光が走った。


 通信が入る。


『エクス、準備は良いか』


 聞き覚えのある、落ち着いた声だった。


「ゼン義兄さん? そのUNB……ゼン義兄さん専用?」


 振り向いた先に浮かんでいたのは、深い青に塗装されたUNBだった。全長は約十六メートル。洗練されたフォルムに、ぎっしりと武装が盛り込まれている。


 その姿は――もはや、一般の冒険者機とは明らかに異質だった。軍用機――そう呼ぶに相応しい、重々しい面構え。


『そうだ。ユグドラシルで新たに開発した、俺専用のUNB――“プレシジョン”だ』


 ゼン義兄さんが、誇らしげに告げる。


 そのタイミングで、今度はミケから追加情報が飛んできた。


『エクス、機体情報を伝えるわ。ゼン様の機体は、基本は“支援機”タイプよ』


 ミケの声は淡々としていた。だが、説明が進むにつれ、微妙に呆れた響きが混じり始める。


『バックパック右側の上部には魔力キャノン一門、左側上部にはメガスナイパーキャノンを搭載。それぞれ肩越しに展開するけれど、必要に応じて後方へ可動できる構造よ。さらにバックパックには高性能スラスターを四基。それに、二基の二十連魔力充填式光魔ミサイルポッドも装備』


 間を置かず、続く。


『両脚部には三連ミサイルポット。両手には、カリバーンとは型の違うショットライフル。そして腰の左右にはビームセイバー、背面にはビームダガーも備えてるわ』


 次々に並べられる武装の数々に、思わず俺は目を見張った。


 ……これで、本当に支援機?


『これだけでも恐ろしいのに、これで“支援機”って……何の冗談かしら』


 ミケの呆れた声が、通信越しに響く。


 心の底から、俺も同意した。


「義兄さん、支援機って……冗談だよね? それ、どう見ても拠点制圧クラスの武装なんだけど」


 半ば呆れながら問いかけると、ゼン義兄さんが少し気まずそうに応じた。


『いや……その……センカの支援には、これくらい必要だからな……』


 ゼン義兄さんの声が途切れた、その瞬間。


『――ゼン。何か言いたいことでも?』


 センカ姉さんの声音が、静かに、しかし確実に圧を乗せて通信越しに響いた。


 たった一言。それだけなのに――艦内の空気が、一気に冷え込んだのが肌でわかる。


 ゼン義兄さんが言葉を詰まらせた様子は、想像するまでもなかった。


 ――こ、怖い……。


 通信越しですら、姉さんのプレッシャーは異常だった。


『さて、二人とも。指定した位置まで行ってちょうだい。両機が位置に着いたら、模擬戦を開始するわ』


 まだわずかに圧を残したままのセンカ姉さんの声に、俺は小さく肩をすくめた。


「義兄さん、俺たちはA地点に向かうよ」


『そうだな。俺もB地点に向かう。――いいか、本気で挑んで来い。こっちも攻撃はするが……まぁ、手加減してやる』


 その言葉に――


 思わず、眉をひそめた。


 本気で来いと言いながら、手加減するって――それ、どういう了見だよ。


「後悔しても知らないからな!」


 やや語気を強めてそう返した時、すかさずミケの声がインカムから届いた。


『エクス。負け惜しみに聞こえるわよ』


 ……ぐうの音も出ない。


 自分でも、そう聞こえたことは、否定できなかった。

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