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人と機体と、重なる意志

2025/04/14 書き直しました

「二人とも、落ち着いた?」


 センカ姉さんの声が、場を静かに整えるように響いた。


「はい……」


「大丈夫です」


 俺とミケは同時に返事をする。


 どちらも顔が少し赤いままだったが、これ以上引っ張るのもキリがない。切り替えて、次へ進まなければならない。


 センカ姉さんもそれを感じ取ったのか、軽く頷いて視線を切る。


「じゃあ、ジジ。パイロットスーツの基本的な説明はしておいたから、補足と――武装の話をお願い」


 姉さんの声に応じて、少し離れた場所にいたジジさんがくるりと振り返る。


「おやおや~? もう乳繰り合いは済んだのかいぃ~?」


 ジジさんは両手を広げて、おどけた口調でそう言った。


 その言葉に、俺とミケが同時に赤くなりかける。


「では、進めようかぁ~。いやぁ~青春って、まぶしいねぇ~!」


 眼鏡をきらりと光らせながら、ジジさんはホロディスプレイをぱっと展開した。指先が軽快に動き、次々と情報が浮かび上がっていく。


「ではでは~、軽くそのパイロットスーツについてだよぉ~」


 くるりと回るようにこちらへ向き直り、ジジさんは楽しげに解説を始めた。


「そのスーツはねぇ、防刃・防弾はもちろんのこと、衝撃吸収機能つき! さらには最新式の収納型ヘルメットが搭載されてるんだよぉ~!」


 ホロに浮かび上がったスーツの映像には、首元からせり出すヘルメットの展開アニメーションが流れている。


「右の首筋に小さなセンサーがあるから、そこをタッチすれば展開開始~! 頭を包み込むようにヘルメットが形成されるからねぇ~」


 そして、ジジさんは指をくいっと立てて真顔になった。


「ただし、そのあとは喉元をロックしておくこと! 外部衝撃や気圧差で外れるのを防ぐためだからねぇ~」


 まじめな説明が続いたと思ったら、次の瞬間、ふにゃりと笑って眼鏡がまた光った。


「思考検知で“勝手に取れないよう”には設計されてるけど、やっぱり予防は大事だよぉ~? ねぇ、エクス君?」


 ジジさんの視線が俺に向き、口元がにやにやと緩む。


「でないと~、さっきみたいな“ラッキースケベ”になるかもしれないからねぇ~! いやぁ~青春ってほんっと羨ましいねぇ~!!」


「ちょっ、ジジさんっ!」


 俺は顔を真っ赤にして声を上げたが、ジジさんは愉快そうにくるくる回りながらホロを次の項目へスライドしていく。


「手首の新型端末についても、ちょっと触れておくよぉ~」


 ジジさんはホロディスプレイの表示を切り替えながら、にこにこと話し続ける。


「それねぇ、今の一般端末よりはるかに先をいく技術で構成されてるんだよぉ~。ナノマシンの自己修復に加えて、内部のナノ機構も常に“最新状態”に保たれる仕様なんだよぉ~。つまり、永久的に使える! すごいよねぇ~!」


 まさに夢のような装備。……だったはずなんだけど――


「因みにねぇ~、その端末。スカイ合金が無いと造れないから、絶っっ対に無くさないようにねぇ~」


 そう言いながら、ジジさんは笑顔でさらっと爆弾を投下する。


「お値段はなんと、一億! いやぁ~破格だよねぇ~!」


「いやいやいや! 破格じゃないから! 高いよ!? むしろ破産だよ!?」


 思わず俺は全力でツッコんだ。


 だがジジさんは、さらなるにこにこ顔で返してくる。


「いやいやぁ~安いよぉ~。だってさ? スカイ様の鱗――つまり、“エンシェントドラゴン”の鱗が原料なんだよぉ~? 市場じゃ値段すら付けられない超希少素材なのさ~!」


 ジジさんはホロディスプレイに“スカイ様の鱗”と書かれたイラストを表示しながら、眼鏡をキラリと光らせる。


「それを無償で提供してもらってるんだから、ありがた~く使ってねぇ~? ちなみにもしお金で揃えようとしたら――カリバーン本体含めて、値段なんて幾らになるか、想像すらできないよぉ~?」


「……それ、もう怖くて使えないんですけど」


 額にじわっと汗がにじんだ。なんというか、ありがたいを通り越して、逆にプレッシャーがすごい。


「まだまだ怖いことになるから大丈夫ぅ~! お次は、カリバーンとタマモの武装についてのお話だよぉ~!」


 ジジさんがそう宣言すると同時に、無重力の中でぷかぷかと浮かびながらホロディスプレイを操作し始めた。


 タイミングを見計らったかのように、格納庫の奥から巨大なコンテナが何基も、ゆっくりと浮遊しながら運ばれてくる。


「オ~プン♪」


 軽快な声に反応するように、コンテナのロックが次々と解除されていく。


 重々しい音と共に開いたその内部には、見たこともない――しかし、どこか直感で“強い”と感じる武装の数々が収められていた。


「では皆さん、近くで見てちょうだいぃ~」


 ジジさんの案内で、俺たちはゆっくりとコンテナの中――というより、浮かびながら武装の上部にまで移動していく。


 目の前に広がったのは、どこか神殿の祭具にも似た厳かさを放つ巨大な剣だった。


「まずはこの下ぁ~。これは近接用の武装、『スケイルソード』だよぉ~。見ての通り、大剣カテゴリに入るものでねぇ~。エクス君の特性に合わせて調整された、まさに“専用設計”の一本だよぉ~」


 スケイルソード。


 白く、鈍く輝く刀身。


 柄は通常よりも長く設計されていて、両手どころか、肩や腰の使い方次第ではさらに多彩な動きができそうなバランスだった。ただ、それ以外に目を引くような機構は見当たらない。


「……今の時代に、実体剣?」


 思わずそう呟きながら、俺は刀身に手を伸ばしかける。


「うふふ~。いいところに気づいたねぇ~、でもちょっと違うのだよぉ~」


 ジジさんがホロ映像を指先でなぞると、スケイルソードの刀身にふわりとオーラのような光が重ねられた。


「これはねぇ~、実体剣とエネルギーソードのハイブリッドだよぉ~。通常時は実体剣として、質量で“斬る”。でも、魔力かドラゴンオーラを纏わせると――刀身の外殻にエネルギー刃が展開されるんだよぉ~。その刃がねぇ、斬撃と同時に“空間”ごと裂くような性質を持ってるのさ~」


 なるほど。ただの武器じゃない。これは、“力を通す器”――意思と魔力が合わさって初めて本領を発揮する剣だ。


「ちなみにねぇ~、このスケイルソードにはスカイ様の鱗片が使われてるから、強度も魔力伝導率も最強クラスなんだよぉ~。ただし、空間を本当に裂くような威力を出すには――うーん、今のエクス君じゃまだ難しいねぇ~。スカイ様レベルに近づけたら別だけどぉ~」


 そうなのか。空間を裂くって、どれだけ“超えて”いけばいいんだよ。


 そう思った時、後ろから静かな声が届いた。


「まあ、俺は無くてもできるがな」


「……できるの!?」


 思わず声を上げた。振り返ると父さんが腕を組んで立っていた。表情はまるで当たり前のような顔だ。冗談かと思ったが――父さんに限って冗談では済まされない。


「まぁ~……規格外だねぇ~」


 ジジさんが眼鏡を押し上げながら、苦笑混じりにそう呟いた。


「じゃあっ、次いってみよぉ~!」


 ジジさんが次のホロを展開すると、別のコンテナが開かれ、中からは変形構造を備えた――巨大な盾のような武装が姿を現した。


「これはねぇ~、複合武装『スケイルショットライフル』! 一見シールドだけど、中身がすっごいのさ~!」


 ジジさんはホロディスプレイを指でなぞり、瞬時に武装の分解図を呼び出す。


「まず外殻部分は“スケイルシールド”。防御の要になる超高硬度の装甲で、物理も魔法もがっつり吸収して、さらに反射までできちゃうんだよぉ~」


 映像内では、シールドが攻撃を受け止めると同時に、衝撃を吸収・再放出するデモンストレーションが再生されている。


「そして、ここからが本番~!」


 ジジさんが操作した瞬間、シールドの一部ががしゃりと展開され――内部から鋭いクロー状の機構がせり出した。


「この部分が“クローアンカー”に変形するのさ~! 伸縮自在で、拘束も牽引も攻撃もぜーんぶできるよぉ~。もちろん、魔力やオーラを纏わせればエネルギー刃が展開されて、近接戦闘にも対応できちゃう!」


 白く光るエネルギーがクローの縁に走ると、重厚な構造が一気に“刃”へと変貌する様が映し出される。


 そしてジジさんは裏面をくるりと示し、にやりと笑った。


「そして、裏にはねぇ~。魔法を撃てる“ショットライフル”が格納されてるのさぁ~!」


 ホロにはスライド展開されるライフル機構が描かれていた。


「シールドを構えたまま、思考操作で引き金いらずに射撃が可能~。撃ちっぱなし! 自動補正あり! もちろん、取り外して手持ち運用もできるよぉ~!」


 さらに、ジジさんの声がひときわ楽しげに跳ねる。


「近距離では超高威力のショットガンとして! 中距離では連射はちょっと控えめだけど、そのぶん一撃が重たい高威力ライフルとして使えるよぉ~!」


 攻防・射撃・近接・捕縛――あらゆる戦闘局面を想定した機能が、これ一つに詰め込まれている。


 ……まさに“何でも屋”の武装。


「すげぇ……」


 気がつけば、俺は思わずそう呟いていた。


 だが、ジジさんはさらにもう一段、トンデモ情報を追加してきた。


「ちなみに~、これも初の技術でねぇ~。なんと“魔法を弾として撃てる”んだよぉ~!」


「……え、魔法を、撃つ?」


「そうそう! 魔法そのものを“弾頭”としてカートリッジに圧縮して発射できるんだよぉ~! 魔法そのまんまの威力を保ったまま、射程と貫通力も付加されるって寸法~!」


 ジジさんは指を鳴らし、最後の説明を加える。


「もちろん、純粋な魔力エネルギー弾としても撃てるから、即応性も抜群っ! いや~開発者冥利に尽きるよぉ~!」


 どこか誇らしげに語るジジさんの背後で、映し出されたスケイルショットライフルは、武装というより小型の戦闘拠点にすら見えた。


 攻防、射撃、捕縛、魔法運用――すべてが一体化されている。


 下手な装備をいくつも持つより、これ一基で“やれること”の密度が段違いだ。


「でねぇ~、最後にちょ~っとだけ補足ぅ~!」


 ジジさんが、またしてもにこやかに“爆弾”を投下する。


「このスケイルシリーズには、隠しギミックがあるんだよぉ~」


「隠し……ギミック?」


 俺が思わず聞き返すと、ジジさんは眼鏡をキラリと光らせながら首を振った。


「でもねぇ~、まだ今は使いこなせないと思うからぁ~、それは“その時”が来たら教えるよぉ~。楽しみにしててねぇ~?」


 ――気になる、めちゃくちゃ気になる。


 だが、それ以上は話してくれそうになかった。


「じゃあ~、最後にぃ~。これは重要だからしっかり聞いてねぇ~」


 ジジさんの声が少しだけトーンを落とす。


「カリバーンは、武装だけじゃなくて、本体自体が格闘戦対応してるんだよぉ~。殴っても良し、蹴っても良し! 拳や肘、膝や足に魔力やドラゴンオーラを纏わせて――」


 ホロには、実際に攻撃動作をしているカリバーンのイメージ映像が映し出されていた。


 拳を振るう瞬間、空気が一瞬押し潰されたように歪み、衝撃波が前方を裂く。その一撃は、ただの力任せの打撃ではなく、全身の魔力を流し込んだ“技”だった。


「――“総合ドラゴン戦闘術”が使用可能なんだよぉ~!」


 ジジさんの声が響く。誇らしげでもあり、どこか敬意を込めたような響きを持っていた。


 総合ドラゴン戦闘術。


 それは――父さんが創設した戦闘体系。ドラゴン種の肉体と魔力制御能力とドラゴンオーラを最大限に活かすために創設され、武器や格闘術の近接術式。それが、カリバーンでも使えるというのか――。


 正に、人機一体。


 だからこそ、スカイ合金なのだ。生きているように魔力やオーラの流れを感知し、応えるように反応する特殊な金属。


 そして、あの思考操作にモーショントレースシステム。


 単なる“操作”ではなく、自分の身体のように機体を動かすための構造。


 すべてが、この戦闘術――総合ドラゴン戦闘術――を実現するために組まれていた。


「今までの訓練は……このために……」


 思わず呟いた俺の言葉に、ふわりとジジさんが笑みを乗せて応える。


「そうだねぇ~。スカイ様から、訓練の進捗はしっかり聞いていたからねぇ~」


 やっぱり、見られていたのか。あの人は、そういうところが本当にぬかりない。


「魔法もオーラも、もちろん今まで通り使用できるからねぇ~。いやぁ~、ほんと良い物を造ったよぉ~。さすが、フォールだねぇ~!」


 ホロに浮かんだ“フォール開発拠点”のロゴが回転しながら輝いている。


 ――ああ、そうか。


 これが、みんなで造ってくれた“俺の武装”なんだ。

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