真摯な謝罪と、スーツの真実
2025/04/13 書き直しました
説教を真摯に受け、今――俺は土下座している。
額を床に擦りつける勢いで深く頭を下げ、心から反省の意を込めた姿勢のまま、動けずにいた。
そのタイミングで、更衣室からミケが戻ってくる。
俺はおそるおそる顔を上げ、見てしまった。
ミケの顔が――ものすごく赤い。
それだけじゃない。着ているパイロットスーツは、密着性が高く設計されているらしく、肌に吸い付くようにフィットしていた。そのせいで、ミケの体のラインが……驚くほど綺麗に出ている。
胸のふくらみ、引き締まった腹部、腰のくびれ。どこもかしこも、目のやり場に困る。見ちゃいけないと思っていても、つい視線が泳いでしまう。
……そして、俺の顔も赤くなった。
案の定、その反応がさらにミケの怒りに火をくべることになった。
狐耳がぴくぴくと跳ね、尻尾がぶん、と大きく揺れる。怒っている――いや、恥ずかしさを誤魔化す怒りも混ざってるのは分かる。
でも今は、とにかく謝るしかない。
「本当に申し訳ございませんでした!!」
俺は再び土下座に戻り、頭を深く深く下げたまま、声を張る。そのまま何度も、繰り返すように謝り続けた。
「本当に……本当に……申し訳ございませんでした……!!」
額が床に擦れて熱い。でも、当然だ。
「本当に……本当に……申し訳ございませんでした……!!」
床に押しつけた額がじんわりと熱を帯びてくる。けれど――それが当然だと思えた。
少しの沈黙。だが、やがて――
「……いいわ」
ぽつりと落ちたその声に、俺はおそるおそる顔を上げる。
ミケは腕を組んで立っていた。顔はまだ赤く、狐耳は落ち着かないように小さく揺れている。尻尾もぱたぱたと律動していて、怒っているのか、恥ずかしいのか……たぶん両方だ。
「間違えたのがわざとじゃないって、ちゃんと聞いたし……それに、あんなに謝ってるんだから。許してあげてもいい」
その声は、少しだけ震えていた。
「でもっ!」
ミケはぴしりと指を立て、鋭い目で俺を睨む。
「もし他の女の子に同じことをしたら、絶対に許さないから! いい? 私だから許してあげるの! 感謝しなさい!」
尻尾がバシッと振り下ろされるように揺れた。でもその仕草には、どこか守ってくれているような、温かさもあった。
「……ありがとうございます。そして、本当に申し訳ございませんでした」
俺はもう一度、深く頭を下げた。
そのまま頭を下げていると、ふと横から落ち着いた声が届いた。
「エクス、そのままで」
センカ姉さんだった。声のトーンは柔らかいが、いつもよりわずかに厳しさがにじんでいる。
「ミケが許したから良いけれど、本来なら、許されることではないってことはちゃんと覚えておきなさい」
耳に、静かに、でも強く刺さる言葉だった。俺は返事もできず、ただうなずくように頭を下げ続けた。
「それと、ミケ。ちょっと更衣室に行きましょう」
そう言うと、姉さんはミケの肩にそっと手を添え、言葉以上にやわらかな仕草で連れていった。ミケは何も言わず、視線だけをこちらに一度だけ向けてから、従うように更衣室へと消えていった。
扉が静かに閉まる音が、耳に残る。
俺はようやく、ゆっくりと顔を上げた。
すると――目の前には、父さんが立っていた。
「エクス」
短く名前を呼ばれるだけで、自然と背筋が伸びる。その瞳には怒りはなかったが、代わりにしっかりとした“重み”が宿っていた。
「わかったか。浮かれすぎると痛い目を見る。……肝に銘じておきなさい」
「……はい」
返事は自然と腹から出ていた。まるで、言葉より先に体が納得していたようだった。
父さんはしばらく俺の目を見つめていたが、ふと肩の力を抜いたように言った。
「良し。では、着替えて来い。今度は間違えるなよ」
その言葉には、わずかなユーモアが混ざっていた。たぶん、許してくれたんだと思う。俺は深くうなずき、もう一度立ち上がった。
「はい、今度は絶対に」
そうして今度こそ、何度も、何度も確認してから――俺は男子更衣室のドアを開けた。
……当たり前だが、誰もいない。
「ホントにもう……何やってるんだよ俺……」
ひとり呟いて、そっとため息をつく。そのまま服と下着を脱ぎ、ゼン義兄さんから渡された専用の肌着を身につけた。
そして、黒を基調としたパイロットスーツを手に取り、ゆっくりと足を通す。
「おっ……おっ、ぅ。気持ち悪っ!」
スーツが、ナノマシンの作用で自動的に身体にフィットしていく。布地が肌に吸い付くように縮み、腕や腰、脚のラインに沿ってぴたりとまとわりついてくる。
「おおぅ……気持ち悪いが、ピッタリだ……でも」
俺はスーツ姿の自分を壁のミラーで見て、ふと思った。……何かが違う。ミケが着ていた時のあの“密着感”が、明らかに違う。
ラインが――出てない?
「……いや、これはこれでありがたいけど」
それでも、なんとなくスーツの前面に違和感を覚えて、胸元へ手を伸ばす。スライド式の留め具が下の方で少し開いていたらしく、指でなぞっていくと、そこがスッと閉じていった。
首元までしっかりと閉じて、これで装着完了。ようやく、気持ちを切り替えて――そう思った矢先。
更衣室のドアを開けると、すぐ外でセンカ姉さんとミケが話していた。
ミケの顔が――真っ赤だった。
狐耳はぴくぴくと落ち着かず揺れていて、尻尾も小さくしゅるりとたなびいている。さっきの怒りとは違う、完全に“照れてる”赤さだ。
「……忘れてました」
ミケがぼそっと呟いた。
それに、センカ姉さんが苦笑しながら優しく声をかける。
「まぁ、見られて慌てていたのかもしれないけど……肌着はちゃんと着ておかないと大変よ。パイロットスーツは体のラインがピタッと出るしね。今度からは忘れないようにね」
――あ、これは……。
俺は反射的に視線を逸らした。
だからあんなにもぴったりしてたのか……だから、あんなにも――
いかん、いかん。また顔が熱くなってきた。
これは聞いたらいけないやつだ。絶対に。いやマジで絶対に。




