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姉、帰還す。そして兄の怒り

2025/03/30 色々間違えてましたので修正しました

 しばらく談笑していると――玄関の扉が開く音がした。


 続いて、聞き慣れない声が家の中に響く。


「ただいま帰りました」


 一瞬、部屋の空気がピンと張り詰める。


 誰だ? と思うよりも早く、母さんがパッと表情を輝かせた。


「――おかえりなさい!」


 喜び勇んで立ち上がった母さんは、足早に玄関へと向かう。


 その背中を見送りながら、俺は少し息をのんだ。


 ついに――姉・センカが帰ってきた。


 玄関先で、母さんの明るい声が響く。


「センカちゃん! ゼンちゃん!」


 帰ってきた――!


 俺は思わず背筋を伸ばし、ワクワクしながら玄関の方を見つめた。


 玄関からは、母さんと姉の談笑が聞こえてくる。


「相変わらず、変な造りの家ですね。一気に帰ってきた気になります」


 姉の落ち着いた声が聞こえた。


「そう? 確かに外観は見栄えがあるから立派だけど、中は普通でしょ?」


「いや、いろんな場所を巡りましたが、うちほど変わった家はなかったですよ」


 ――そうなのか?


 俺は無意識に首を傾げた。


 確かに、外観は立派な城だけど、中は普通の……いや、違ったな。


 父さんこだわりのニホン風な造りだ。


 障子に畳、ふすまのある家。確かに、こういう造りの家は周りにはほとんどなかったかもしれない。


 ふと気になり、俺は隣に座るミューケイに尋ねた。


「ミケ。家って変わってる?」


 ミューケイはコップを持ったまま、小さく首を傾げた。


「変わってるわよ」


 即答だった。


「王族ってだけでも十分変わってるのに、家まで見たことのないデザインなんだから」


 彼女の銀色の狐耳がピクリと動き、尻尾が軽く揺れる。


「私は慣れたし、今は気に入ってるけど……最初は驚いたわ」


 ミューケイはくすっと微笑みながら言った。


 そうか、やっぱり変わってるのか。


 俺は改めて家の中を見回す。昔からここに住んでいる俺にとっては当たり前の景色だけど、外から見れば異質な空間なのかもしれない。


 そんなことを考えていると、父さんが静かに立ち上がった。


「母さん。そろそろ中に入りなさい」


 低く落ち着いた声が響く。


 玄関の方を向きながら、父さんはゆっくりと手を広げた。


「センカ、ゼン。おかえり」


 玄関から、少し懐かしい声が返ってくる。


「ただいま帰りました」


 落ち着いた口調でセンカが答え、その隣でゼンが深く頭を下げた。


「お久しぶりです、お義父さん。長らく帰れず申し訳ございません」


 ゼンの声には真摯な響きがあり、言葉の端々から誠実さが伝わってくる。


 父さんは軽く頷きながら、穏やかな口調で言った。


「大丈夫だ。居間に来なさい」


 とうとう会えるんだ!


 緊張してきた。


 隣を見ると、ミケも同じように落ち着かない様子だった。


 彼女の銀色の狐耳はピクピクと細かく動き、尻尾もソワソワと揺れている。こういう時、ミケは決まって無意識に動きが増えるんだよな。


 ――そして、ついにその瞬間が訪れた。


 襖が静かに開く。


 視界に飛び込んできたのは、圧倒的な存在感を放つ二人だった。


 まず、目に入ったのは姉・センカ。


 銀髪のショートボブがさらりと揺れ、冷静さと鋭さを兼ね備えたグレーの瞳がこちらを見据えている。


 俺は無意識に息をのんだ。


 デカい。


 目の前に立つだけで、まるで壁のような威圧感がある。それでいて、ただの巨躯ではない。


 しなやかに引き締まった身体。ただ立っているだけなのに、戦場の空気をまとっているような迫力があった。


 母さんと同じくらいのナイスバディ……というか、それに加えて筋肉の引き締まりがすごい。


 ――完全にミケの負け。


 そして、その隣に立つ男。


 ゼン義兄さん。


 センカと並んでも見劣りしないどころか、さらに一回り大きく感じる。


 広い肩幅と厚い胸板、まるで岩のような腕。


 その銀色の髪は短く整えられ、落ち着いた雰囲気を醸し出している。だが、目元にはどこか鋭い影が差し、内に秘めた強さが滲み出ていた。


 これが……姉の旦那。


 絶対に敵わない。俺の負け。


「父さん。この子が?」


 姉のセンカが俺をじっと見つめる。


 鋭いグレーの瞳が俺を値踏みするように細められ、一瞬だけ沈黙が落ちた。


 俺も、思わず背筋を伸ばす。


「そうだ、エクス。改めて紹介しよう」


 父さんが落ち着いた口調で言った。


「この風来坊がセンカ。そして、その旦那のゼンだ」


 ……ん? 風来坊?


 センカの眉がピクリと動く。


「父さん……その言い方は……」


 苦笑しながら視線を逸らすセンカ。


 ゼンはというと――軽く頭を下げながら、静かに言った。


「返す言葉もありません」


 まるで、それが事実であることを認めるかのように。


 センカ姉さんは俺の前に正座し、静かに腰を下ろした。


 ゼン義兄さんもそれに倣い、背筋を伸ばして座る。


 俺も遅れまいと向き直り、正座の姿勢をとった。


 ――なんだか、妙に厳かな雰囲気だ。


 センカがふっと息を整え、ゆっくりと口を開いた。


「改めまして。私は、センカ・キャリー。貴方の姉で……父さんの言った風来坊です」


 最後の言葉に苦笑しながらも、どこか柔らかい口調だった。


 続いて、ゼン義兄さんが深く頭を下げる。


「センカの旦那のゼン・キャリーです。申し訳ない。これまで帰ってこなくて」


 その声には誠実さが滲み、まっすぐな視線が俺を捉える。


 俺は、何か言おうとして――言葉に詰まった。


 その瞬間――


「ぐっ……!」


 ミケの容赦ない肘打ちが脇腹に入った。


「ぼーっとしないの!」


 小声で鋭く囁かれ、俺はハッと我に返る。


 慌てて背筋を伸ばし、改めて向き直った。


「は、初めまして! センカ姉さん、ゼン義兄さん。弟のエクスです!」


 少し緊張しながらも、なんとか挨拶を済ませる。


 その横で、ミケがすっと背筋を伸ばし、優雅に頭を下げた。


「初めまして、センカ様、ゼン様。私はこのバカ――もとい、エクスさんの専属メイドを務めさせて頂いております。ミューケイ・ミロです」


 狐耳をピクリと動かしながら、ミケが凛とした口調で名乗る。


 だが、俺は聞き逃さなかった。


 ……今、一瞬「バカ」って言いかけただろ。


 ミケの尻尾がピンと張ったままなのを見て、なんとなくツッコむ気が失せた。


「エクス……ごめんなさい」


 センカ姉さんが真剣な表情で頭を下げる。


「本来なら、もっと早く帰ってくるべきだったのに……忙しさにかまけてしまって、ずっと帰ってこなかった愚か者です」


 その言葉が静かに響いた、その時――


 襖が勢いよく開き、同時に二つの怒声が飛び込んできた。


「当たり前だ! このバカ妹! 俺が何回言っても『忙しい』って言い訳しやがって!」


「センカ、お前は本当に……」


 兄貴――国王ドラシエル・ハイ・エルドラが、目を吊り上げながら仁王立ちしていた。


 その横で、次男で宰相のフレン・ハイ・エルドラが苦笑しながら手を軽く上げる。


「義兄さん、その辺で。王宮でもう叱ったんだから、ここではいいでしょ?」


 そう言いながら、フレン兄さんは部屋を見渡し、ミューケイに穏やかに声をかけた。


「ミューケイ、すまないけどお茶をお願いしてもいいかな?」


「はい。今ご用意します」


 ミケはすっと立ち上がると、尻尾を揺らしながら台所へ向かう。


 その間にも、ドラシエル兄さんの怒りは収まらず、センカに詰め寄る。


「センカ! お前はどうして――」


「兄さん」


 フレンは落ち着いたまま、鋭い視線を向ける。


「さっき言ったでしょ。とりあえず、皆、座りなおそう」


 その一言に、ドラシエルは押し黙る。


 そこへ、父さんがゆったりとした口調で促す。


「お前たち。いいから落ち着きなさい。フレンの言う通り、まずは座るんだ」


 それでもドラシエル兄さんは納得がいかない様子で拳を握りしめる。


「すいません父さん。でも、このバカ妹には言っても言い足りないんです!」


「ドラシエル」


 低く、だが鋭い声が部屋に響いた。


 フレン兄さんが兄をじっと見つめ、冷静に言う。


「落ち着きなさい。今日の目的を忘れるな」


「……わかったよ」


 不機嫌そうに腕を組みながらも、ドラシエル兄さんは渋々席に着く。


 俺は――正直、会話の流れについていけていなかった。


 なんかすごい怒涛のやり取りを繰り広げてるけど……何がどうなってんだ?


 思わず口を挟む。


「どういうこと? 目的って俺に会いに来たんじゃないの?」


 すると、父さんが静かに俺を見て、ゆっくりと頷いた。


「エクス。とりあえず今は落ち着きが必要だ」


 そして、横目でドラシエル兄さんを見ながら続ける。


「センカの説教は今夜でいいだろう? ドラシエル、それで今は落ち着きなさい」


 ――あ、説教は確定なんだ。


 俺は思わずセンカ姉さんの方を見る。


 さっきまでの堂々とした戦士の姿はどこへやら、肩がガックリと落ちている。


 めっちゃしょんぼりしてる……


 あの威圧感たっぷりの姉が、兄貴たちの前ではこんなに縮こまるのか。


「……はい」


 センカは小さく返事をし、目を逸らした。


 いやいやいや、そこはもっとカッコつけてくれよ!


 俺、姉のカッコいい姿が見たかったんだけど!?


 このままだと、ただの「怒られる妹」ポジションじゃないか。

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