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タマモ降臨――二人乗りの理由とロマンの変形

2025/04/07 書き直しました

 すべての大まかな説明を終えたジジさんが、ようやく息を整える。


 そして、俺は――完全に置いてけぼりだった。


(情報量……過多ッ……!)


 混乱する脳内を何とか整理しようとしていると、横からセンカ姉さんが鋭く切り込んだ。


「ジジ。これ、本当に六百億? ……正直、この一機なら、まあギリ納得できる。けど、ミケの機体も含めたら……どう考えても足りない気がするんだけど?」


「そうだねぇ~~~」


 ジジさんが妙にあっさり、笑いながら答えた。


「この《カリバーン》一機で、大体五百億ぐらいかなぁ~?」


「……えっ? 私の機体、ないんですか……?」


 ミケが小さくうつむきながら、声を落とす。狐耳がしゅんと下がり、尻尾が寂しそうに左右へ小さく揺れている。


(おいジジ、なにやってんだ。ミケに何てこと言わせてんだよ……)


 だが、そのとき――


「なにを言ってるんだいぃ~~~っ!?」


 ジジさんが、待ってましたと言わんばかりに大きく息を吸い込み、まるで舞台役者のように腕を広げて叫んだ。


「ミケ君の機体は――目の前にあるよぉ~~~~っ!!」


(……いや、どこだよ)


 周囲を見渡しても、それらしい機体は一切ない。張りぼても後ろに退いたままだ。


「さてさてぇ~~! この機体にはね、新技術の《ブロックフレーム構造》が採用されていてぇ~! さらに、《スカイ合金》の変質特性を応用することで~~!」


 まくし立てるジジさんの声が、ハンガーに響く。


「ある機能を追加してるんだよぉ~~~っ!」


 そして、決め台詞を叫ぶ。


「――フォームチェンジ! ミューケイッ!!」


 ジジさんがそう叫んだけれど、反応はない。


「危ないから、もう少し離れて欲しいなぁ~」


 あっ、近すぎたせいで危なかったのか。全員が一歩下がると、カリバーンが変化を始めた。


 まず顔の部分が、まるで眠たげに割れる。そして、その中から現れたのは――狐のような女性のフェイス。割れた装甲は髪のように後ろへ流れ、顔立ちは一転して、愛嬌ある狐耳の可愛い顔に変わっていた。


 続けて、胴体。中央と左右がスライドして開くと、装甲は背面へと移動していく……え、なにこれ……なんで胸が? しかも、ちょっと――いや、かなり大きい……。


 変形した装甲は、背後でしなやかな尾のようなシルエットにまとまり、まるで狐の尻尾みたいだった。


 両腕の肩アーマーも展開し、装甲が背中側へと回る。まるで衣のように柔らかく揺らぎ、空気をはらむ。


 腰の部分は、アーマーが展開して脚部との境界をなめらかにし、すらりとした太ももが露わになる。腰アーマーも変形して、さらに尾のような意匠を加えていた。


 そして最後に脚部。ここも割れて、装甲は裏へと回り込む。流れるようなラインが、まるで毛並みのように優美に揺れた。


「どうだいぃ~! これがミケ君専用機、その名も――タマモだよぉ~!」


「すげぇ~……! けど、ってことは……」


 俺が機体を見上げながら呟くと、隣でミケがすっと続けた。


「――二人乗りなのね」


 狐耳がぴくりと動き、尻尾もふわりと一度揺れる。淡々とした口調だったが、その目は機体を鋭く見つめていた。


「しかし……ジジさん。あの胸って、何?」


 ミケの声が少しだけ低くなる。そして次の瞬間――


「ロマンっ!!」


 ジジさんの声がハンガーにこだました。即答。まさにノータイム、ノー思考。


 その表情はまるで、「これこそが真理」と言わんばかりのドヤ顔だった。


「もちろんっ! エクス君の形態に戻す時は――モードチェンジ、エクス!!」


 ジジさんの声と同時に、タマモのフォルムが再び変化を始めた。


 まず顔が、柔らかく女性らしかったフェイスが中央から閉じ、狐耳もスライドして沈み込んでいく。髪のように流れていた装甲は巻き戻すように後方へ引かれ、ぴたりと重なると――鋭く引き締まったマスクフェイスが現れた。額にはV字型の装飾。表情は完全に“戦士”だった。


 胸部は、あの特徴的なラインが装甲ごと内側に引き込まれ、平坦でシンメトリーな形に戻っていく。そして中央に、青白く脈打つ結晶――心臓のようなコアが現れた。見ているだけで、機体の中を魔力が巡っているのがわかる気がする。


 肩と腕は、衣のように風に揺れていた肩装甲が内側に折り込まれていく。代わりに現れるのは、直線的で力強いラインを持った肩ユニット。両腕も再構成され、肘から手先までが“拳で戦う”構造へと変わる。肘周りに浮かぶ紋章の輝きが、魔力の共鳴を示していた。


 腰部は、尻尾のように展開していた装甲が巻き取られるように折りたたまれ、背面へ集まっていく。前後のフレームが組み合わさってシールド形状を形成し、戦士としての重心を整えていくのがわかる。


 脚部も細くしなやかだったラインが装甲に包まれ、膝から下は重装タイプへと変化。魔力を流す導管のような筋が表面に浮かび、地を蹴り空を飛ぶための“脚”に仕上がっていく。


 こうして姿を整えていった機体は――明らかに、さっきの美少女型から一変していた。鋭いラインと重厚感、ただ立っているだけで“戦う意志”を示すフォルム。


 まさに、勇者。


「……カリバーン……」


 改めて見上げたその姿は、ただただカッコよかった。けど――


「……白いな」


 全体に統一された白。まるで完成直前のキャンバスみたいだ。


「ジジさん。これ、なんで白一色なんだ?」


 そう問いかけると、ジジさんはいつもの調子でニッコリと笑った。


「それ~? 塗ってないからだよぉ~」


 ……まあ、見ればわかる。でも、理由がわからない。


「エクス君とミケ君が決めるんだよぉ~、色は。だから、まだ塗装してないのさぁ~」


 ジジさんが肩をすくめて、さらっと言った。


「ちなみにねぇ~、乗り込んで魔力を流し込んだ瞬間に、その想いに反応して染まるようになってるからぁ~!」


(マジかよ……そんなことまでできんの!?)


 驚きで言葉を失っている俺に、さらに追い打ち。


「ただし――一回限りっ!!」


 指を立てて、キラキラの目で言い切るジジさん。


「だからねぇ~? しっかり悩んでから乗り込んでねぇ~。その色は、君の色だよぉ~!」


「だけど、不思議だよな。これってどう考えても、モードチェンジの仕組みが変だよな」


 俺がそう漏らすと、隣でミケが首をかしげた。


「そうよね。まるで全くの別物。スカイ合金って、いったいどうなってるのかしら」


 柔らかく揺れた彼女の銀髪が、青白い照明の下で艶を帯びる。狐耳がピクリと動いたその瞬間――背後から、聞き慣れた声が割って入った。


「よくぞ聞いてくれたねぇ~! それはね、生きている合金だからなのだよぉ~!」


 ジジさんのテンションがいつも以上に高い。口角を吊り上げ、得意げに両手を広げながら語り続ける。


「だからね、細胞のように変化するのだよ! 構造そのものを再構成するから、まるで元から別物のような姿にもなれるんだよぉ~!」


 こちらの驚きをよそに、彼の瞳はもうどこか別の世界を見ていた。


「どうだいぃ~! ヒーロー的なデザインから、美少女的なデザインに変わる瞬間! 逆もまた然り! ロマンしかないじゃないかぃ~!」


 なんだろう……この人、どこまで本気なんだろう。


 正直、ちょっと引いた。


(ロマンって怖え~。暴走するとここまで行くんだな~)


 内心でそっと距離を取った俺だったが、ミケの尻尾がピクピクと揺れていたのを見て、完全に同意しているようにも思えて……余計に不安になった。

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