カリバーン、お披露目
2025/04/07 書き直しました
「では――ジジ。本物を、見せてもらおう」
父さんの低く引き締まった声が、場の空気を切り替える。
さっきまでぺしぺしとやり取りしていたのが嘘のように、静けさと緊張が戻ってくる。
姉さんは――多少、いや、だいぶテンションが落ちていたけど、軽く息を吐いて気を取り直した。
そして手首の端末を操作し、ホロディスプレイを展開する。
操作に連動して、目の前に立っていた“張りぼて”の量産機が静かに後退していく。
その奥から、格納区画が開き、音もなく姿を現したのは――
一機の起動兵器だった。
未塗装なのか、機体は一面――雪のように真っ白な外装に覆われている。
さっきの張りぼてと比べて、さらに一回り大きい。
だが、それ以上に気になったのは……あるはずのものが“ない”ということだった。
頭部にも、肩部にも――通常の起動兵器に備えられている外部センサーやアンテナ、そして武装類すら一切存在しない。
「ジジ、説明して頂戴」
センカ姉さんが落ち着いた声でそう言った瞬間――
「待ってましたぁ~~~~っ!」
聞こえてきたのは、いつものジジさんの声――
……いや、いつも以上にテンションが高い。というか、振り切れてる。
「説明しよぉ~~! この機体、《カリバーン》はね!
今現在の《ユグドラシル》技術の――全部ッ!全部を詰め込んだ、最高の塊なんだよぉ~~!」
そのまま機体の前へ駆け出すジジさん。
猫背だった背筋が、この時ばかりはびしっと伸びた。
その姿には、妙な迫力すらあった。
あまりの熱量に、機体の白が背景に引いて見えるほどだった。
「まず見てもらった通り、通常機よりも大きい! これは新素材を使ってるからだよぉ~! 軽くて頑丈、だからその分サイズが少しだけ大きくなったのっ!」
「で、動力はなんと! 二連魔力式縮退炉・改ッ! 前回のよりさらにコンパクトにして、出力はほぼ無限大! 必要魔力はちょっと増えたけど――エクス君ならぜーんぜん問題なしっ!」
メガネがきらりと輝いた。
「そしてコックピットは! もはや“座席”なんて存在しないのっ! 完全思考リンクシステムとモーショントレースシステムのダブル搭載! 全周囲モニターにホロディスプレイ! さらに新システム、重力固定慣性制御システムを実装ぉ~~っ!」
息も切らさず、まくし立てるように言葉が飛び出してくる。
「起動した瞬間、操縦者の体は中央に浮いて固定されて、重力も慣性もコントロール! 完全に機体と一体化する! つまりぃ――この機体は、エクス君の“体の延長”みたいなもんなのっ!」
そして、ジジさんの熱はさらに、どんどんこもっていく。
「さてさてさてさて! これだけじゃないんだよエクス君!」
「なんとぉ! エクス君の鱗と、スカイ様の鱗をそれぞれ分析・検証ッ! スカイ様のご協力のもと、実際に鱗を“提供”してもらいましてぇ~! さらにさらにッ! その鱗をスカイ様自らが粉砕ぃっ! ミクロ単位まで砕いていただきぃ~~っ! そのうえで融合! そして誕生したのが――!」
右手を高く掲げ、叫ぶ。
「その名もぉ~~~! 《スカイ合金》ッッッ!!」
(いや、今めっちゃ堂々と名前つけたな……)
「この《スカイ合金》を、エクス君の魔力とオーラ特性に完全調整! 全身のフレームと装甲にぜ~んぶ使用! これにより、機体全体に魔力とオーラを直接流し込めるようになったのだぁ~!!」
「つまりねぇ、攻撃、だけじゃない! 防御にも、そして! 魔法にも、そしてそしてぇ~~! オーラによる超高出力の力場展開までもがッ、可能ぅ~~~!」
(……もうテンションが爆発してるな、この人)
そしてジジさんは、ぐいっと指を差しながら言った。
「センサーとかアンテナとか、ないでしょ!? そう、いらないんだよぉ~~~っ!」
「《スカイ合金》はねぇ~、そんなもん使わなくてもぜぇ~~んぶ補えるのっ! いや、正確には――もう“内包してる”って言ってもいいのさっ!!」
「これこそ――まるで戦隊モノのヒーローロボットみたいでしょぉ~~~っ!!」
言われて改めて見上げたその機体は――たしかにそうだった。
無骨というより、洗練されたシルエット。無駄がなく、けれど威圧感ではなく“存在感”がある。
カッコいい。それが素直な印象だった。
「そしてそしてそしてそして~~~~っ!!」
「さらにもう一つぅ~~~~~っ!! よく見てごらんよぉ~~~! そう、そうそうそう! スラスター、どこにも――!」
「……ない」
隣でミケがぽつりと呟いた。
狐耳がぴくりと揺れている。
「ホントだ。ない……えっ、じゃあ、どうやって飛ぶの? バックパックとか別に?」
「なぁ~~~~~~~~いっ!! い・ら・な・い・のぉ~~~っ!!」
両手を広げて、ジジさんが絶叫する。
「いらないんだよぉ~~~っ!! だってエクス君! 君が“飛びたい”って思っただけで、《スカイ合金》から発せられる魔力が、それに応えて動いてくれるんだよぉ~~~~~っ!!」
(……なにそれ!?)
頭が真っ白になった。いや、言ってる意味はわかる、はずなんだけど……情報が多すぎて処理が追いつかない。
(つまり、えっと……飛びたいって思うだけで……飛ぶ? 動きたいと思えば……その通りに?)
思考が渦を巻き始めた、そのとき――
「それって要は、エクスが“動きたいように”、普段体を動かすのと同じ感覚で機体を操れるってことですか?」
ミケが、すっと隣から口を挟んだ。
狐耳がぴんと立ち、一本の尻尾も落ち着いた動きで揺れている。
――完璧なまとめだった。
(あ、うん、それそれ。そういうこと……)
ようやく頭の中で言葉が繋がった。
つまり俺が、普段歩くように足を動かせば機体もそのまま歩く。
空を飛びたいと思えば、風魔法を意識するまでもなく――飛べる。
「そうっ! そう言ったでしょぉ~~~~っ!!」
ジジさんが絶叫するように両手を振り上げる。
「考えなくてもいいっ! 普段、体を動かすようにすれば、それだけでいいんだよぉっ!! 両腕が機体のフレームに当たろうが、びくともしない! なぜなら、触ってみればすぐわかるけど――柔軟性がめちゃくちゃ高いのぉ~!」
勢いのままジジさんは機体の足元に触れて、ばしばしと叩く。
「まるでねぇ~、人の皮膚みたいな感触なのっ! しかもぉ~~! スカイ様の鱗の特性のおかげで! たとえ直撃を受けても回復魔法で――修復可能っ!!」
メガネがまたキラリと光る。
その姿は、まさに“ロマン製造機”としか言いようがなかった。
「メンテナンスフリーで壊れても回復魔法で治る……それは、内部もですか?」
ミケの質問に、ジジさんが即座に反応する。
まるで「待ってました!」とばかりに、顔をぱぁっと輝かせた。
「良く気づいたねぇ~~~っ! その通りッ!!」
ぐいっと指を突き出しながら叫ぶ。
「機体に乗って起動状態で、回復魔法をかければ――なんと内部まですべて修復できるんだよぉ~~っ!!」
その勢いのまま、さらに畳みかけてくる。
「しかもね! 回復魔法が使えなくても――大丈夫っ!! しばらくなら放っておいても、《スカイ合金》が“魔力を内包する性質”のおかげで、自動で自己修復してくれるんだよぉ~~~~っ!!」
(なにこれ……!?)
さすがに俺も思考が止まった。
もはや“兵器”というより“生き物”じゃないか? いや、それすら超えてるかも……。
でも、ミケの横でさらに追撃の一言が飛び出した。
「ちなみにね、同じ合金は――もう造れないよぉ~?」
ジジさんがにっこり笑って、さらっと“とんでもないこと”を言ってのける。
「だって、スカイ様の協力なしじゃ、エンシェントドラゴンの鱗なんて手に入らないでしょ? それに、たとえ手に入ったとしても――砕くことすらできないんだよぉ~~っ!」
指をぴっと立てて、決定打。
「正真正銘! 唯一無二の存在ッ!! まさに――“ワンオフ機体の極み”だよぉ~~~っ!!」
(……もう、どこまでいくんだこの機体)
ここまで来ると、感動とか驚きとかじゃなく、もはや笑えてきた。
いや、カリバーン。お前、ほんとに俺が乗る機体なのか……?




