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姉の怒りと張りぼての機体

2025/04/07 書き直しました

 ユグドラシルのハンガーに高速宇宙艇で降り立つと、待っていたのは――


 センカ姉さんとゼン義兄さん、そして……やけに大人しいジジさんだった。


「久しぶり、姉さん。義兄さん。……ところで、やけにジジさんが大人しいけど?」


 普段なら第一声から調子よく喋るはずのジジさんが、今日に限って沈黙している。


 眼鏡の奥の目も光っておらず、手すら組んでいる……何かがおかしい。


 その瞬間――


 姉さんから放たれる“気配”が、ぶわりと膨れ上がった。


 怒気。完全な、圧縮された怒りだ。


 一拍置いて、それが空気ごと場を覆う。


 俺とミケは反射的に背筋を伸ばす。


 肌が粟立ち、鳥肌が走るのがはっきりわかった。


 ミケに至っては、狐耳がぴたりと伏せられ、尻尾が――まるで爆発でもしたかのようにふくらんでいた。


「み、ミケ……尻尾……」


「きゅ……っ、急に来るの、ずるい……!」


 震えながら小声で抗議しているけれど、耳も尻尾もまったく制御が効いてない。


 姉さん、いったい何が……。


 父さんと母さんはというと――まるで無関心のごとく、背後で並んで立っている。


 何があっても「いつものこと」と言わんばかりの態度だった。


 義兄さんだけが苦笑しながら肩をすくめる。


「やれやれ……」とでも言いたげな、諦めの表情だ。


「エクス。今は、聞かないで頂戴。……ちょっと、怒りが溢れそうなの」


 センカ姉さんの声は落ち着いていた。


 けれどその分、逆に怖い。


 空気がわずかに張り詰める。まるで、静電気を孕んだような圧が場を包み込んだ。


「センカ。……落ち着け。とりあえず、皆を機体に案内しよう。な?」


 ゼン義兄さんが、落ち着いた口調で間に入る。


 姉さんの気配を読み慣れている分、声のトーンも穏やかだ。


 だが、その言葉を受けた瞬間――


 なぜか、空気がさらに重たくなった。


 怒気が……増してる?


(あれ……なんで? さっきより明らかに強くなってない?)


 俺が思わず首をすくめたその横で、ミケの狐耳がぴたりと伏せられ、一本の尻尾が緊張でぴんと張っていた。


 静寂が続く中、耐えきれなくなった俺は、おそるおそる声をかけた。


「ね、姉さん。あの、その……落ち着いて欲しいなぁ……」


 すると、姉さんは目を閉じて――


「……そうね。ふぅ~~~~~~~~~~……」


 深く、そして途方もなく長いため息が漏れた。


 その息に込められた“圧”が、皮膚にじわりと染み込んでくるような感覚だった。


(……これ、完全に誰かやらかしてるな)


 そう思いながら視線を横にやると――


 案の定、ジジさんがひっそりと身を縮めていた。


 いつもの猫背が、さらに深くなっている。


 まるで「俺が悪いんです」と言わんばかりの背中だった。


 怒りのオーラを纏いつつも、俺たちは隔離されたハンガーへと通された。


 通常はロックされているはずのゲートが静かに開き、内部には警告灯と厳重な結界。


 空気すらぴんと張り詰めていて、ただの通路なのに足音がやけに響いて聞こえる。


「……ここって、立ち入り禁止だった場所だよね?」


 俺が辺りを見回しながら問いかけると、センカ姉さんがすぐさま答えた。


「ええ。バカどもがね、エクスとミケの機体をここで制作して――お披露目しようと、ナンバーズ専用のハンガーでこっそり進めていたのよ」


 さらりと言いながらも、最後の一言のトーンだけが異様に重い。


 次に口にした名前には、明確な“圧”が乗っていた。


「ねぇ、ジジ?」


 呼びかけた瞬間、空気がぴたりと止まった。


「……はい。そうですぅ」


 ジジさんの声は、驚くほど小さく、そしておとなしい。


 いつもの調子がまるで感じられない。猫背はさらに深くなり、目は合わせようともしない。


(……まさか、これ。機体が出来てないとか、そういう展開じゃないだろうな)


 胸の奥に冷たいものがじわじわ広がる。


「姉さん! 機体は……出来たんだよね!?」


 思わず声を上げると、センカ姉さんはゆっくりと振り返った。


「ええ、それはもう――完璧にね」


 その言葉に、ようやく肩の力が抜けそうになった……のも束の間。


 “完璧”と言いながら、姉さんの口元にはっきりとした“怒りの微笑み”が浮かんでいた。


 センカ姉さんが手首の端末を扉にかざすと、機械音と共にロックが解除され、扉がスライドしていく。


 中へ足を踏み入れた瞬間――視界が一気に開けた。


「おおっ……これが……!」


 思わず声が漏れた。


 そこに並んでいたのは、通常機よりも一回り大きな二体の起動兵器。


 鋼の光沢に包まれ、整然と構えたその姿は、まさに“新時代の戦力”と呼ぶにふさわしかった。


「これが……俺の――」


「私の機体……!」


 隣に立つミケも、目を輝かせながらゆっくりと機体へ歩み寄っていく。


 狐耳がぴくりと動き、尻尾が弾むように揺れる。その感情の高ぶりが伝わってくるようだった。


 胸が高鳴る。長い訓練と準備の果てに、ようやく辿り着いた――そう思った、そのとき。


 背後から、鋭く冷えた声がハンガーに響き渡った。


「――違うわよ」


 空気が、一瞬で凍りつく。


「それはね、私たちを騙すための張りぼて。そうよね、ジジ?」


 言葉に込められた怒気が、肌を刺す。


「……はい」


 ジジさんの返事は、まるで処刑宣告を受け入れるかのように小さかった。

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